器械出しの第一歩! 手術器械の種類と使い方|メス、剪刀、鑷子、鉗子、持針器、鉤
- 公開日: 2023/4/29
手術室特有の器械出し看護
手術室では術前・術中・術後を通して、患者さんの安全を守り円滑に手術を進めるために、外回り看護師と器械出し看護師が手術を担当します。特に器械出し看護師は、清潔ガウンと手袋を装着し、術者のそばで手術器械を渡す特殊な役割を持っています。円滑に手術を進めるためには、術野を見ながら手術進行を先読みし、術者が必要としている器械を渡さなければなりません。そのためには、解剖や術式といった知識だけでなく、器械の名前や使用方法の知識ががもちろん必要となります。さらに、渡された器械を術者が持ち替えていては、手術の進行を止めてしまうことになるため、器械を的確に手渡す技術も器械出し看護には必要です。そこで、今回は手術器械の種類や使い方、渡し方についてお話しします。
共通器械と特殊器械
手術器械は大きく分けて、共通器械と特殊器械の2つに大別されます。共通器械は、どの診療科でも共通して使用する器械で、ドラマなどでもよく知られているメスやコッヘルなどが該当します。殊器械は診療科ごとに特殊な形状や用途を持った器械です。特殊器械は種類も数も非常に多いため、ここでは共通器械について説明します。
手術器械の種類
手術器械はメス、剪刀、鑷子、鉗子、持針器、鉤の6つに大きく分けられます。
1)メス
メスは「ナイフ」を意味するオランダ語の「mes」が由来となっている非常に鋭利な刃物で、皮膚や粘膜、血管などの組織の切開や剥離をする際に使います。英語では「スカルペル(scalpel)」と言いますので、商品名などでスカルペルと表記されていることも多いです。
メスは実際に切開するメス刃(ブレード)と、柄となるメスホルダー(メスハンドル)から構成されています。一般的に、ディスポーザブルのメス刃をリユースのメスホルダーに装着して使用します。最近では、メス刃とメスホルダーの着脱時の切創事故予防のため、メスホルダーにメス刃が装着された状態ですべてがディスポーザブルとなっているメスも販売されています。
メス刃にはさまざまな形の刃がありますが、その形状から円刃刀と尖刃刀の2種類に大きく分けられ、形状ごとに番号が付いています。一般的に10番台の刃のほうが小さく、20番台の刃のほうが大きくなっています。
①円刃刀
円刃刀は刃先が丸みを帯びていて、主に皮膚切開に使います。10番、15番、21番などが該当します。小さな切開であったり、細かく弯曲する切開には、刃の小さい15番を使います。開腹手術など大きな皮膚切開時には21番を使います。
②尖刃刀
尖刃刀は刃の先端が尖っていて、腹腔鏡下手術でトロッカーを挿入する際の皮膚の小切開や軟部組織の切開、剥離など、細かな作業に使います。11番、12番、25番などが該当します。特に12番は鎌のような形状で、人工股関節置換術の術後に、股関節が外転しにくい場合に、内転筋腱を切離する際などに使用します。
メスホルダーはメスハンドルとも呼ばれ、メスを使用する際に術者が握るハンドルとなる部分です。大きさや長さによって番号が付けられおり、10番台のメス刃にはNo.3を、大きい刃である20番台のメス刃にはNo.4のメスホルダーを使います。
メスホルダー | 円刃刀 | 尖刃刀 |
No.3![]() No.7 ![]() |
No.10![]() No.15 ![]() |
No.11![]() No.12 ![]() |
No.4![]() |
No.21![]() |
No.25![]() |
メスホルダーにメス刃を装着する際は、メスホルダーの先端の溝に沿わせてメス刃をスライドさせて装着します。直接手で行うと切創のリスクが高いため、メス刃把持専用の鉗子を用いて、切創を予防する必要があります。また、はめ込む部分は一定の向きにしか入らないようになっており、メスホルダーの突起部分と刃の溝が合うように、向きを合わせて装着しないと切創事故につながるため、注意が必要です。

術者に渡すときのPOINT
術者に渡す際は、メスホルダーのメス刃に近い部分を刃の背側から覆うように持ちます。そして、メスホルダーの中央部分が術者の手の平におさまるように確実に渡します。

術者から戻ってくるときは直接受け取らずに、ニュートラルゾーンを設けて、膿盆などに返してもらいます。器械台で保管しているメスは、自身の切創予防のため、目の届くわかりやすい場所に置きます。器械出しが交代した際に見失わないように、器械台上のメスの位置を施設ごとに決めておくとうよいです。
2)剪刀
剪刀とは所謂「はさみ」です。皮膚や腹膜、血管などの組織だけでなく、縫合糸やドレープ、テープなど様々な物を切る(切開・切離)ために使います。また、切るだけでなく、丸みを帯びた刃先を閉じた状態で組織を剥がす(鈍的剥離)する時にも使用します。そのため、刃の大きさや形状、柄の長さなどたくさんの種類の剪刀が存在します。
まず、大きな違いとして、刃が真っ直ぐな「直剪刀」と刃が弯曲している「曲剪刀」で分けられます。
①直剪刀
どのような剪刀でも刃先が真っ直ぐであれば直剪刀と呼びますが、直剪刀とは主に刃先が丸みを帯びており、長さが14cm程度の剪刀を指します。使用用途としては、主に器械出し看護師が、糸やガーゼ、ドレープなどの衛生材料を切るときなどに使用します。使用用途から雑用の剪刀と捉えられ、「雑剪」とも呼ばれています。その他には、摘出した標本を切り開くときや、術野で使用することは少ないですが、血管などの組織を真っすぐ切開する時やなどに使用します。

②曲剪刀
曲剪刀は、弯曲した刃先を活かして、術野で切開や切離、剥離に使用します。直(ちょく)と曲(きょく)は聞き間違いが発生しやすいため、「まがり」と呼び、聞き分けやすくしていることが多いです。後述する剪刀も含め、術野で医師が使用する剪刀は基本的に曲剪刀です。

また、刃先の大きさによっても種類が分かれます。く使われる4種類の剪刀を紹介します。この4種類は剪刀の基本と言っても過言ではありませんが、はじめは見分けがつきにくいと思いますので、特徴をしっかり押さえておきましょう。
①クーパー

クーパーは柄の幅が広く、刃先まで幅が同じであるため、他の剪刀に比べて刃先がしっかりしており、筋膜や靭帯など硬い組織の切離に使用します。また、刃先の幅が広く先端が鈍状に丸みを帯びているため、鈍的剥離にもよく使用されます。「糸切り」として、縫合糸を切る際にも使用されます。
②メイヨー

柄の幅はクーパーとほとんど変わらないですが、刃先が細くなっているのがメイヨーの特徴です。クーパーよりも先端が鋭くなっており、組織の切離や鈍的剥離によく使用します。切れ味が良く、基本的には組織を切るための剪刀ですが、縫合糸を切るために使う場合もあります。
③メッツェンバーム

クーパーやメイヨーよりも柄の幅が細く、刃先がさらに細くなっているのがメッツェンバームの特徴です。名前が長いため、「メッツェン」と呼ばれることが多いです。刃先が細く鋭いため、血管周囲など細部の操作時に切離や剥離のために使用します。切れ味も良く、組織の挫滅が少ないと言われています。糸を切ると切れ味が悪くなるため、基本的には糸を切りませんが、結紮糸で結紮後に血管を切離した時に、そのまま結紮糸を切ることもあります。
④眼科剪刀

眼科剪刀は「眼クーパー」と呼ばれることが多く、長さが11cm程度でクーパーやメイヨーに比べて全体的に小さい剪刀です。刃先はとても鋭く、切れ味も良いため、細かな操作を行うときに適しています。長さが短いため、術野の深い手術でなく、術野の浅い手術で薄くて繊細な組織を切るときに使用します。また、クーパーの刃先が入らない小さな皮膚切開の手術では、眼クーパーを糸切りとして使用することもあります。剥離のために使用することが多く、基本的には曲剪刀を使いますが、血管吻合のために血管を切開する際など、真っ直ぐ切りたいときは直剪刀を用います。
術者に渡すときのPOINT
剪刀を術者に渡すときは、器械出し看護師は刃を閉じた状態で、刃先を上にして刃の部分を持ちます。一般的に術者は握手をするときのように、手を開いて待っていますので、術者の手のひらの中に持ち手に部分が収まるように渡します。この際、手首のスナップを利かせて、手のひらの中に剪刀が入ったことを術者がわかるようにパシッと響くイメージで渡します。眼クーパーなど小さな剪刀であったり、ソフトに優しく渡されるほうが好みな医師の場合は、「渡します」と声に出しながら、優しく手のひらに収めて、手のひらに剪刀が入ったことを伝えます。

曲剪刀の場合は、基本的には弯曲している側を医師の手のひらに向け、刃先の方向が手のひらと反対側の外側に向くように渡します。
ただし、鈍的剥離の際にクーパーなどを使用する際は、ペンのように持つこともあります。医師がペンを持つ仕草で待っている場合は、刃の部分を下にして、曲剪刀では、刃先が下を向くように渡します。

3)鑷子
鑷子は「ピンセット」とも呼ばれ、組織などいろいろな物をつまんで把持するときに使います。縫合針を組織に通す際に、直接手で持っていると針刺しのリスクがあり、非常に危険です。また、術野の深い手術や、細かな操作をする手術では、手では届かなかったり、持つことができない場合があります。そのようなときに術者の手の代わりとなって、組織をつまむ重要な器械です。
皮膚や筋肉、血管などの組織だけでなく、ガーゼなどの衛生材料などいろいろな物を把持するため、何を把持するかによって、先端の形状が異なり、大きく分けると、有鉤と無鉤に分けられます。
鉤とは、先端の曲がった部分を引っ掛けて使う器具のことを指し、英語の「フック」と呼ぶほうがイメージしやすいかもしれません。つまり、先端が曲がっていて、引っ掛かるようになっている鑷子を有鉤鑷子、先端がまっすぐ平らで引っ掛かりがない鑷子を無鉤鑷子と呼びます。
有鉤鑷子は引っ掛ける鉤があるため、把持力が強く、皮膚や筋肉、骨など硬い組織を把持するときに使用します。一方、無鉤鑷子は鉤がなく、有鉤鑷子に比べて把持力は劣りますが、その分、優しく把持できるため、鉤で引っ掛けると損傷してしまうような、消化管や臓器、血管などの繊細な組織を把持するときに使用します。
大きくは有鉤か無鉤かに分けられますが、その他の特徴的な形状によって分類される鑷子の中から、よく使用される鑷子を紹介します。
①アドソン鑷子

アドソン鑷子は長さ12cm程度の小さな鑷子で、指で握る中央よりやや先端側の部分が最も幅が広く、先端が急に細くなっているのが特徴です。短い鑷子のため、皮膚切開が小さく、術野の浅い手術で、皮膚や皮下組織などを把持するために使用します。有鉤と無鉤がありますので、皮膚などを把持する場合は有鉤、血管や神経などを把持する場合は無鉤を使用します。
②ドベーキー鑷子

ドベーキー鑷子は無鉤で先端が細い鑷子で、先端に縦溝があり、その周りが鋸の刃のようにギザギザになっています。このような形状であることにより、組織を挫滅せずにしっかりと把持することができます。そのため、主に血管を扱うときに使用します。出血時は、出血点をつまんで、電気メスを持ち手側の先端に当てて通電することで、ピンポイントに止血することができます。
③マッカンドー鑷子

マッカンドー鑷子は長さ16cm程度で、先端が非常に細い鑷子です。見た目の特徴は、持ち手の部分に3本ラインの縦溝が付いています。有鉤と無鉤がありますが、長さは比較的短いため、皮膚科や形成外科など術野の浅い手術で使用することが多いです。また、整形外科の脊椎手術でも使用します。
③ダイヤモンド鑷子

ダイヤモンド鑷子は組織を挫滅しない無鉤鑷子です。同じく組織を挫滅しないドベーキー鑷子との違いは、先端に細かなダイヤモンドチップが付いている点です。チップがあることにより、挫滅しない無外傷性を持ちながらも、滑ることなくしっかりと把持できるようになっています。ダイヤモンドチップが付いていることがわかるように、持ち手側が金色になっているため、見た目にもわかりやすい鑷子です。
術者に渡すときのPOINT
鑷子の渡し方はどの鑷子でも共通です。有鉤鑷子は開いた状態で渡すと鉤が手袋やドレープに引っ掛かり、破損や切創事故につながるため、器械出し看護師は鑷子を閉じた状態で先端を持ちます。医師はペンを持つ仕草で待っていますので、親指と人差し指に鑷子の持ち手部分が来るように収めます。
4)鉗子
鉗子は組織や衛生材料などを把持するために使います。鉗子には長時間把持したいときのために、ずっと力を入れ続けなくてもいいように、指を入れる輪っか部分のあたりにラチェットと呼ばれるストッパーが付いています。把持する物によって、先端がいろいろな形状になっています。鑷子と同じように、有鉤と無鉤に大きく分けられます。

先端が細く、弯曲している無鉤の鉗子は組織を剥離するときに主に使用し、剥離鉗子と呼ばれます。先端が細いため、剥離だけでなく、出血点をピンポイントでつまむこともできます。
関節となる部分は、ネジやビスで止めているネジ止型と接合されているボックス型、分解できる外し型に分けられます。ボックス型はしっかりと接合されているため、他と比べて把持力が強いです。ネジ止型はビスが外れる危険があるため、体内遺残を防ぐため、手術前後に外れていないか確認しなければなりません。外し型は術中に外れてしまい、手術を止める可能性があり、現在はボックス型が主流となっています。
①コッヘル鉗子

コッヘル鉗子は有鉤の鉗子で、筋肉や靭帯、骨など硬い組織を把持するときに使用します。その他にも、結紮糸や血管テープを把持するときにも使用します。省略して「コッヘル」と呼ばれることが多く、コッヘルと言うと、一般的には14~15cmの長さで先端が真っ直ぐなコッヘルを指します。術野の深さや作業スペースの広さ、把持する物によって、長いコッヘルや先端の弯曲しているコッヘルを使い分けます。
②ペアン鉗子
ペアン鉗子は無鉤の鉗子で、コッヘル鉗子に対して、軟らかい組織を把持するために使います。コッヘル鉗子と同様に結紮糸や血管テープを把持するときにも使用します。有鉤のコッヘル鉗子ではドレープを把持すると穴を開けてしまうかもしれないため、ドレープを把持するときには使用しませんが、無鉤のペアン鉗子はドレープの把持にも使用します。
ペアン鉗子とコッヘル鉗子は鉤の有無で分けられるため、一見すると見分けがつきにくいです。そこで、パッと見で判断できるように、柄の部分に溝が入っています。
③モスキート鉗子
無鉤のペアン鉗子の中でも、長さが12cm程度で全体的に小さく、先端が細い鉗子をモスキート鉗子と呼びます。「ムッシュ」と呼ばれることもあります。先端が真っ直ぐなモスキート鉗子は縫合糸や細いテープ、薄い組織を把持するときに使用します。先端が曲がっているモスキート鉗子は薄い組織の把持だけでなく、小さな切開の手術では、組織を剥離する際にも使用します。
④ケリー鉗子

ケリー鉗子は剥離鉗子と呼ばれ、先端が細く曲がっているため、組織や血管などの剥離の際に使用します。先端の弯曲の緩やかな弱弯、弯曲の大きい強弯、90度曲がっている直角と弯曲の程度によって分けられます。基本的には、術野の浅いときには弱弯のケリー鉗子を使用し、術野が深くなるにつれて弯曲の大きいケリー鉗子を使用します。
血管を結紮する際は、血管の下に先端を滑らせ、結紮糸を把持して通し結紮します。この方法が血管処理の際に多用するケリー鉗子の使い方です。
術者に渡すときのPOINT
鉗子の渡し方は、剪刀と同様です。開いた状態では、特に有鉤の鉗子は手袋の破損につながるため、鉗子の先端は閉じた状態にします。術者がすぐにラチェットを外して使用できるように、ラチェットは1段階目にしておきます。器械出し看護師は閉じた先端を持ち、術者の手の平に鉗子の持ち手部分が収まるように渡します。弯曲のある鉗子は弯曲部分が手の平側、先端が外側を向くようにして渡します。

5)持針器
持針器は名前の通り、縫合針を把持するための器械です。先端は危険な縫合針をしっかり把持できるようになっています。先端の内側は、横溝、網目状、ダイヤモンドチップの3つに分けられます。縫合針には角針と丸針があり、滑りにくい角針には、横溝と網目状の持針器を使用します。丸針は滑りやすいため、把持力の強いダイヤモンドチップがついた持針器を使用します。ダイヤモンドチップが付いている持針器は持ち手部分が金色になっています。
持針器の形状によって、マチュー持針器、ローゼル持針器、ヘガール持針器、マイクロ持針器に大きく分けられます。
①マチュー持針器

マチュー持針器は持ち手全体を握り込むような形状で、持ち手側の先端にラチェットが付いています。握り込むとラチェットがかかり、しっかりと把持できます。強く握り込むことで、2段階、3段階とラチェットがかかりますが、さらに握り込むとラチェットが外れる構造になっています。
比較的大きな針を把持するときに使用します。角針を把持することが多く、筋膜や腹膜、皮膚など浅い術野での縫合に用いることが多いです。

②ローゼル持針器

ローゼル持針器はマチュー持針器と同じような形状ですが、ラチェットが引っ掛ける構造になっています。握り込むとラチェットがどんどんかかっていくのはマチュー持針器と同じですが、引っ掛け部分を小指で押し下げることでラチェットが外れます。使用用途もマチュー持針器と同様です。

縫合針を把持する際は、持針器の向きに注意します。器械出し看護師はラチェットを外すための引っ掛け部分の出っ張りを小指側にして持ち、針を把持します。
③へガール持針器

へガール持針器は鉗子のような形状をしています。マチュー持針器に比べると柄が長いため、縫合針の動きが見やすく、深い術野で使用されることが多いです。また、ダイヤモンドチップが付いている持針器が多く、比較的小さい丸針を把持する際に使用します。呼吸器や前立腺、直腸の手術など術野がとても深い場合は、先端の弯曲した持針器を使用します。
持針器で針を把持するときは、針先を把持すると、針が折れやすく、糸が付いている部分を把持すると糸が抜けやすくなります。そのため、針を4等分し先端から1/2~3/4の位置を把持します(図)。

④マイクロ持針器

マイクロ持針器は、血管吻合や眼科の手術など極小の縫合針を把持するために使用します。形状はマチュー持針器に似ていますが、持ち手の中央あたりにラチェットがついています。ラチェットがついていない持針器もあります。極小の縫合針を把持するため、先端はもちろん全体的に小さい持針器です。

術者への渡し方のPOINT
マチュー持針器:術者に渡すときは、器械出し看護師は関節部分を持ち、針の両端が術者の手の平を向くように持ち手部分を術者の手の中に収めるようにして渡します。

ローゼル持針器:術者に渡すときは、針の両端が術者の手の平を向くようにするとともに、ラチェットの出っ張り部分が術者の小指側に来るように渡します。
へガール持針器:術者に渡す際は、持針器の関節部分を持ち、針の両端が術者の手の平を向くように渡します。先端が弯曲している持針器の場合は、弯曲が術者の手の平を向くように渡します。

マイクロ持針器:術者はペンと同じように持ちます。そのため、器械出し看護師は、持針器の関節部分を親指と人差し指でつまむように持ち、持ち手部分が術者の親指と人差し指の間に入るように渡します。
6)鉤
鉤は術野の視野を確保するために、皮膚や臓器を除けるために使用します。除ける組織や術野の深さによって、いろいろな形状・大きさの鉤があります。
①筋鉤

筋鉤は最も使用される鉤です。名前の通り、執刀開始後すぐに、皮膚や皮下組織、筋肉を除けるために使用します。ランゲンベック扁平鉤とも呼ばれ、鉤の部分が柄に対して90度曲がっています。筋鉤はただ引っ張って除けるのではなく、先端を利かせることで術野の深部の視野を確保できるように、先端が数mm程度曲がっています。使用する術野の深さによって、鉤の長さや幅を使い分けます。
②鞍状鉤

鞍状鉤は腹壁鉤やザッテルとも呼ばれ、開腹手術の時に腹壁に引っ掛けて使用します。名前の通り、乗馬の際に使用する鞍のように、半円を描くように曲がった形状をしています。
開創の大きさや腹壁の厚さによって、大きさの異なる鞍状鉤を使います。
③肝臓鉤

肝臓鉤は名前の通り、肝臓を除ける鉤で、筋鉤よりも長く、幅も広くなっています。肝臓を傷つけないように、筋鉤よりも全体的に丸みを帯びています。レバーハーケンとも呼ばれます。
④腸ベラ
腸ベラはスパーテルとも呼ばれ、一般的に長さ30cm程度で両端が丸く、薄い板状の器械です。幅は20mm、30mm、40mmなど豊富にあり、使用する部位によって使い分けます。鉤として組織を除けるときに使う際は、真っ直ぐ板状のままではなく、術野の深さに合わせて、折り曲げて使用します。薄い板状のため、どの部分でも自由に曲げられるので、自在鉤とも呼ばれます。開腹手術で閉腹するときは、縫合中に腹腔内の臓器を傷つけないように、折り曲げずに真っ直ぐ板状のまま、創の下側に滑り込ませて使用します。
術者への渡し方のPOINT
鉤の渡し方は、どの鉤でも共通です。先端の曲がっている部分より、やや下側を持ち、先端を術者の手の平と反対側を向くようにして、持ち手の中央部分が術者の手の平に収まるように渡します。鉤は基本的に執刀医でなく、助手が使用します。筋鉤は2本で1対とし、2本を対側に引っ張ることで術野を確保するため、術者の両手が空いている場合は、2本重ねて渡し、片手しか空いていない場合は1本を渡します。

最後に
今回は、共通器械について特徴や用途、渡し方について説明しました。ここに記載した器械は氷山の一角でもっとたくさんの手術器械が存在します。器械出し看護師として、名前も使用方法もわからない器械を執刀医に渡すのは避けましょう。何に使う器械かわかれば、手術進行に合わせた器械出しにつなげられますので、自施設の器械の使用方法について改めて勉強するきっかけになれば幸いです。
参考文献
1)昭和大学病院中央手術室:伝えたい!先輩ナースのチエとワザ 手術室の器械・器具 オペナーシング2008年春季増刊,オペナーシング,2008.
2)小野寺久:ナースのためのやさしくわかる手術看護,ナツメ社,2011.