慢性疼痛の現状と最新の治療薬 ~ジクトル®テープの適正使用に向けて~
- 公開日: 2023/9/13
2023年2月24日『 慢性疼痛の現状と最新の治療薬 ~ジクトル®テープの適正使用に向けて~』をテーマに久光製薬株式会社によるプレスセミナーが開催されました。ここでは福島県立医科大学医学部整形外科学講座 准教授の二階堂琢也医師の講演『腰痛に対する薬物療法の現状と未来』をレポートします。
慢性疼痛の現状
今回は、慢性疼痛、腰痛とはどんなものなのか、また、それに関するガイドラインについて解説していきます。
インターネットの調査では、慢性的な痛みを持っている人たちは22.5%であると報告されています1)。また、2019年の厚生労働省の国民生活基礎調査では、腰痛が男性の有病率1位、女性の有病率2位に位置しています(図1)。
図1 性別にみた有訴者の上位5症状
厚生労働省:Ⅲ 世帯員の健康状況.2019年 国民生活基礎調査の概況(2023年9月5日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/04.pdfより引用
昨今の社会情勢により在宅勤務が進められて以降、テレワークに伴う身体の不調を感じる人は増加傾向にあります。テレワーク開始後の身体の不調に関する調査でも肩こりや腰痛、精神的なストレスが上位を占めているのがわかります2)。
なかでも、腰痛を自覚する人は男女ともに半数以上となっています。しかし、腰痛などの「痛み」に対して何らかの治療や通院をしていないというのが現状です。加えて、何らかの治療をしているにもかかわらず効果を感じない人が3割以上にものぼり、治療に対する満足度は高くありません3)。
本来「痛み」の感じ方は個人差が大きいものです。また医療者の立場においては、検査結果と患者さんの訴えが医学的に不合理だと感じることも往々にしてあります。しかし、腰痛治療には治療者の診療態度も治療成績へ影響を及ぼすこともわかっています。ですから、私たち医療者が慢性的な疼痛を訴える患者さんに対応する場合は支持的な態度で接し良好な関係性を構築するといった努力が必要でしょう。
急性痛と慢性痛
国際疼痛学会では痛みは「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、 あるいはそれに似た、 感覚かつ情動の不快な体験」と定義しています4)。
痛みには警告としての役割があり、身体の防御反応として重要なものです。人は痛みという異常を感じるからこそ身体を労ったり、病院へ行くという行動を起こしたりします。組織損傷が治ったあと、治療の必要がないような状態でも続く痛み、いわゆる慢性痛には警告信号(生理学的侵害受容の急性警告)としての役割をもたないため、積極的に治療することが必要です。慢性痛の一般的な定義は、3〜6カ月以上続くもの、または、再発を繰り返す痛みとされています。世界中の20%以上の人々に影響を及ぼしていると言われており、非常に多くの人が痛みに困っているというのが現状です。その中でも腰痛というのは、世界的にも大きな社会的損失を与えている痛みであることがわかっています。
痛みの種類
急性痛というのは、外傷や疾患などによる組織損傷に伴う痛みで、原因が解消できれば痛みも消失します。慢性痛に移行していくといわゆる組織損傷のようなものだけでなく、心理的要因や社会的要因も関与してきます。随伴症状として、睡眠障害、食欲不振、便秘、生活動作の抑制なども起きてきますし、抑うつ、不安、破局的思考といった精神症状も伴ってきます。さらにこの状態が続くと、脳に機能変化をもたらし、心理社会的要因による影響を受け、さまざまな随伴症状や精神症状を伴う難治性慢性疼痛へと移行します。難治性慢性疼痛まで移行すると治療が難しくなるため、早い段階でしっかりと治療介入をしていくことが、我々の使命であるといえます。
痛みのメカニズムでの分類で侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の2つがあります。侵害受容性疼痛というのは、末梢の侵害受容器が活性化することで引き起こされる疼痛です。末梢に侵害刺激が加わって、侵害受容器、末梢の侵害受容器を活性化させて神経を伝わって脳で痛みを感じるという経路の痛みであり、運動器、身体の痛みの疾患で関節からくるような痛みというのは侵害受容性疼痛であることが多いと言われています。
一方、神経障害性疼痛については体性感覚神経系の疾患によって引き起こされる疼痛で、末梢の神経障害や損傷が加わって異所性の放電が発生して、それが伝わって痛みを感じるというものです。運動器疾患で代表的なものは、頚椎症性脊髄症、頚椎症性神経根症、肘部管症候群、手根管症候群、腰部脊柱管狭窄などが入ってきます。