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ヘルスケア・イノベーションフォーラム「認知症の早期発見・診断・治療の実現に向けて求められる変化」

  • 公開日: 2024/11/15

2024年10月11日、東京・帝国ホテルの会場とオンラインのハイブリッド形式にて、日本イーライリリー株式会社と米国研究製薬工業協会(PhRMA)が共催する「第7回ヘルスケア・イノベーションフォーラム」が開催されました。
当日は、神戸市長の久元喜造先生による「認知症神戸モデル」の取り組みについてのビデオ講演と、パネルディスカッションにて認知症の早期発見・診断・治療の実現に向けた国、地域、医療提供体制の整備のあり方が議論されました。今回はその様子についてレポートします。


日本における認知症の現状

 令和6年版高齢社会白書1)によると、2022年の認知症高齢者数は443.2万人、軽度認知障害(MCI)の高齢者数は558.5万人と推計されました。この結果をもとに推測すると、2030年には認知症高齢者が500万人を超え、軽度認知障害(MCI)の高齢者数と合わせると1100万人に達することが予測されます。

 認知症高齢者が増え続けるなかで、国は認知症施策を進めるために新オレンジプランの策定や介護保険法の改正など行い、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望をもって暮らすことができるよう、認知症施策を総合的かつ計画的に推進2)させるべく、2023年6月に認知症基本法が成立され、2024年1月に施行されました。

 認知症施策は、国だけでなく地方自治体でも取り組みが強化されています。今回の講演では、兵庫県神戸市の取り組みである「認知症神戸モデル」について取り上げられました。

認知症の早期発見・診断×事故時の救済を支援する「認知症神戸モデル」

 認知症神戸モデルは、認知症の早期発見を支援する「認知症診断助成制度」と、認知症と診断された人が賠償責任保険制度や見舞金制度などの支援を受けられる「認知症事故救済制度」を組み合わせた、認知症の人にやさしいまちづくりを実現するための支援制度です。こちらは全国で初めての制度となります。

図 認知症神戸モデル 概要

認知症神戸モデル

神戸市役所:認知症神戸モデル(2024年10月25日閲覧)をもとに作成

 診断助成制度では、65歳以上の市民が無料で受けられる認知機能検診を実施し、疑いありとなった場合は検査費用の自己負担分を市が助成して、専門の医療機関にて認知機能精密検査を受けられるようになっています。この制度により、認知症の早期発見・診断・治療が期待できます。

 そして認知症と診断された人は自己救済制度が対象となり、事故を起こしてしまったときの賠償責任保険や見舞金の支給、GPS安心かけつけサービスなどを受けられるようになります。

 神戸市長の久元喜造先生は、認知症の人々の尊厳保持とともに、当事者とその家族が安心して生活を送れるよう、まち全体でサポートしていくことの重要性を述べました。神戸市は2024年4月より、早期認知症の新薬に対応した診断の検査費用も助成の対象とし、認知症の早期発見と適切な治療の推進を目指す考えがあることを示しました。

認知症と共生する社会の実現に向けて求められる変化とは

 認知症神戸モデルのように、今後も認知症高齢者が増えていくなかで、国や各地方自治体など関係者の取組みはさまざまな改革や変化が求められています。

 今回のヘルスケア・イノベーションフォーラムでは、今後の認知症の研究開発のあり方や、認知症と共生する社会の実現に向けて、国や地方自治体、研究者、企業のそれぞれの立場がどのように変化し、どのように貢献するのかについて、5名の有識者により議論が行われました。

<パネリスト>

岩坪 威 さん

岩坪 威 さん

東京大学大学院医学系研究科 神経病理学分野教授
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 所長
日本認知症学会 理事長

鎌田 松代 さん

鎌田 松代 さん

公益社団法人 認知症の人と家族の会 代表理事

古和 久朋 さん

古和 久朋 さん

神戸大学大学院保健学研究科 /リハビリテーション科学領域 教授
同認知症予防推進センター長

三浦 公嗣 さん

三浦 公嗣 さん

藤田医科大学 特命教授(元厚生労働省老健局長)

デイビッド・A・リックス さん

デイビッド・A・リックス さん

イーライリリー・アンド・カンパニー 会長兼最高経営責任者

<モデレーター>

乗竹 亮治 さん

乗竹 亮治 さん

日本医療政策機構 代表理事・事務局長

それぞれの立場から考える今後必要な取り組み

 モデレーターの乗竹さんから示された議論テーマである、認知症についてイノベーションが生まれる段階での各ステークホルダーの役割や実現させていくための方法論について、5名のパネリストがそれぞれの立場から考えを述べました。

 まず研究者の立場である岩坪さんより、長い時間をかけて認知症に効果がみられる新薬ができたことは第1歩であるものの、浸透やさらなる発展をしていくためにはまだまだ研究が必要だと述べました。また、それを担う専門医の数を増やしていくことも必要不可欠であり、医師を育てるための環境整備も重要だとまとめました。

 今回認知症神戸モデルの立役者である古和さんは、認知症について住民に理解してもらうための具体的な働きが必要だとし、認知症の診断も健康診断のように当然行うものとして捉えてもらうための施策を実行していくことが大切だとしました。ただし、地方自治体によっては予算が限られてくるため、国による費用負担など国を挙げての取り組みも求められるだろうと述べました。

 元厚生労働省老健局長である三浦さんも、認知症と共生する社会を実現するためには、住民の正しい理解が必要不可欠であり、地域で支える社会づくりが最も大事になってくると述べました。制度や施策の実行、新薬を生むことがゴールではなく、実際に文化や環境をどう変えていき、住民とのギャップを埋めていくかの具体的な取り組みが求められると考えているようです。

 当事者に一番近い立場である鎌田さんは、国や地方自治体が認知症についての議論を進めるなかで、当事者だけ取り残されている感覚があると発言しました。認知症と共生する社会を作り上げるうえで当事者と声にも耳を傾けていく必要があり、当事者の会としては認知症に理解のある地域づくりともに、当事者の声を届けていくような動きが重要だとされています。

 イーライリリー・アンド・カンパニーの責任者であるデイビッドさんは、新薬の価値を早く伝えられると、再投資によってさらなる新薬開発に繋げることができ、認知症の早期治療に貢献できるようになると述べました。そのためにも、できるだけ早く新薬を使ってもらえるようインフラを整備することが必要不可欠であると考えられています。

認知症に関する新たな展開に向けて

 認知症と共生する社会を実現するために、国や地方自治体による政策や、診察・治療の面においても新たな動きがみられます。しかし、住民への理解が十分に得られる環境整備、新たな研究開発を進めるうえでの費用や新薬実用化までのハードルの高さ、認知症である当事者が積極的に参画できない状態など、さらなる変化も求められます。今回の議論では、認知症と共生する社会の実現のために、より一層スピード感をもって実行に移していく必要があるとまとめられました。

引用文献

1)内閣府:健康・福祉 令和6年版 高齢社会白書.(2024年10月17日閲覧)https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s2s_02.pdf

2)厚生労働省:共生社会の実現を推進するための認知症基本法について.(2024年10月17日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001119099.pdf

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