心臓カテーテル検査前にカフェイン摂取が制限されるのはなぜ?
- 公開日: 2025/11/25
冠血流予備量比(FFR)とは
冠血流予備量比(FFR)とは、『冠動脈の狭窄が、心筋虚血(血流不足)を引き起こしているかどうかを評価する指標』です。通常、冠動脈造影(CAG)に続いて測定が行われ、カテーテルを通してプレッシャーワイヤーを冠動脈内に進め、狭窄の手前(大動脈側)と先(心筋側)の血圧を比較します。
FFRは以下の数式で算出されます。
*2 最大血流時の狭窄病変近位側の冠動脈圧
正常血管である場合のFFRは1.0ですが、『0.80以下』であれば「虚血がある」と判断され、ステント治療などの対象になる可能性が高まります。
正確なFFR測定には「最大血流状態」が必要
FFRは、「冠動脈の血流が最大限に流れている状態(最大血流=ハイパーミア)」で測定することで、より正確な評価が可能になります。その理由は次のとおりです。
②最大血流時は、血管の自己調節能が限界まで働くため、狭窄があると抵抗が急激に高まり、需要に対する血流増加に対応できず、狭窄の影響が顕著に現れる
そして、最大血流状態を作るために使用されるのが、「アデノシン」や「ATP(アデノシン三リン酸)」といった薬剤です。
アデノシンの作用を妨げるカフェイン
カフェインはアデノシン受容体に作用し、その働きをブロックする拮抗薬として知られています。つまり、カフェインを摂取していると、アデノシンやATPによる血管拡張効果が十分に得られない可能性があるということです。
結果として、血流が最大にならず、「虚血があるのに、ないと判断されてしまう」「FFRの値が“過大評価”される(=軽く見える)」といったリスクが生じます。このため、アデノシンやATPを使用する施設では、検査前日にカフェイン摂取を制限することが推奨されているのです。
施設によってカフェイン摂取の制限が行われない理由
当院では、FFR測定においてはアデノシンやATPではなく、ニコランジルという薬剤を使用しています。ニコランジルは、アデノシン受容体を介さずに血管を拡張する作用があり、カフェインの影響を受けにくいと考えられています。
最近の研究でも、ニコランジルを使用した場合、カフェイン摂取の有無によってFFR値に大きな差が見られなかったことが報告されています1)。そのため、当院ではカフェイン摂取の制限を行っていません。
看護師として理解しておきたいポイント
カフェイン摂取の制限の有無は、検査で使用する薬剤によって異なるため、すべての施設で一律に対応されているわけではありません。そのため、まずは自施設のプロトコールを正しく理解しておくことが大切です。
FFR測定は、虚血の有無を正確に判断するための検査であり、検査結果がそのまま治療方針に直結する重要な指標です。カフェインの影響で虚血を過小評価してしまえば、本来必要な治療が行われず、患者さんのQOLや予後に重大な影響を及ぼす可能性があります。
検査の正確性を守るためにも、看護師自身がその理由を理解し、日々の看護に活かしていくことが求められます。
引用・参考文献
1)Feasibility of intracoronary nicorandil for inducing hyperemia on fractional flow reserve measurement: Comparison with intracoronary papaverine.Int J Cardiol 2020;314:1-6.●Hideaki Tanaka,et al:Linear concentration-response relationship of serum caffeine with adenosine-induced fractional flow reserve overestimation: a comparison with papaverine.EuroIntervention 2021;17(11):925-31.
●Kasumi Ishibuchi ,et al:Influence of caffeine intake on intravenous adenosine-induced fractional flow reserve.Journal of Cardiology 2020;76(5):472-8.
