QRS波が下向き(陰性)に出ることがあるのはなぜ?
- 公開日: 2026/2/22
心電図の原理と波形の向き
まず、心臓の解剖生理をおさらいしましょう。
心臓は、洞房結節から発生した電気的刺激が刺激伝導系(洞房結節→房室結節→ヒス束→右脚・左脚→プルキンエ線維)を順に伝わることで収縮します(図)。
こうした心臓の電気的刺激の流れを体表面の電極で捉えたものが心電図です。電気的刺激に連動して心筋細胞が興奮・収縮すると、心電図にP波やQRS波として現れます。波形の向きには原則があり、電気的刺激が電極に向かって流れてくると上向き(陽性)に、電極から遠ざかる方向へ流れると下向き(陰性)に記録されます。
つまり、QRS波が下向きに出ているということは、「心臓の電気的刺激が電極から遠ざかる方向へ流れている」こと意味します。
図 刺激伝導系
QRS波が下向き(陰性)になる要因
では、モニター心電図でQRS波が下向き(陰性)に出ることがあるのはなぜでしょうか。考えられる要因は、「電極の位置」と「電気の流れる向き(誘導方向)」の関係です。
電極の貼付位置による影響
前述したとおり、電気的刺激が電極に向かって流れれば上向きに、遠ざかれば下向きに波形が記録されます。そのため、「モニター心電図が心臓をどの角度から見ているか」によって、波形の向きは変わります。
例えば、発汗や清潔ケアなどで電極を貼り直した際、貼付位置が前回と異なれば、電極から見た電気的刺激の方向が変化し、波形の向きが変わることがあります。また、左右の電極を逆に貼付してしまった場合も、本来とは逆向きの波形が記録される要因となります。
体位変換による心臓の位置・向きの変化
心臓は胸郭内で完全に固定されているわけではなく、重力の影響を受けます。例えば、仰臥位から側臥位になると心臓の位置や向きがわずかに変化し、電極との角度も変わり、波形が変化することがあります。
手術・疾患による心臓の位置・向きの変化
心臓手術を受けた患者さんや、重度のCOPD・肺気腫などの患者さんでは、心臓の位置や向きに変化が起こることがあり、波形の向きに影響が及ぶことも考えられます。ただし、これらは術後の経過や疾患に伴う変化であり、心臓の異常を意味するわけではありません。なぜ波形が変化したのか落ち着いて要因を考え、安全なモニタリングにつなげることが求められます。
ペースメーカーによる影響
ペースメーカーを装着している患者さんで、心室ペーシング(VVIモードなど)を行っている場合、電気的刺激は心室に留置されたリードから発生します。本来の電気的刺激の流れ(上から下へ)とは異なるルートで心室が興奮するため、電極の位置によっては電気的刺激が電極から遠ざかる方向へ流れていくことになり、QRS波が下向きになります。
これはペースメーカーが適切に機能しているためにみられる反応で、心臓そのものの異常ではないため、要因を冷静にアセスメントし、継続して観察を行っていきます。
QRS波が下向きに出た場合の対応
以上のことから、QRS波が下向きに出る要因としては、電極の貼付位置(付け間違い、位置のズレ)、体位変換や手術・疾患による心臓の位置・向きの変化、ペースメーカーの影響などが挙げられます。
いずれの場合であっても、モニター心電図では異常アラームが検出されることが考えられます。まずは患者さんの状態を評価し、問題がないことを確認したうえで、波形が変化したきっかけを振り返り、要因の特定に努めます。QRS波の陰性化に伴い、バイタルサインの変化や胸部症状が出現した場合は速やかに医師に報告し、適切な対応につなげることが重要です。
イラスト/早瀬あやき
