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【連載】歯科・口腔外科で必要な看護技術を学ぼう!

顎骨骨髄炎・顎骨壊死の看護|原因、治療、問診・観察ポイント、口腔ケア、術後ケアなど

  • 公開日: 2024/7/26

顎骨骨髄炎・顎骨壊死とは

 顎骨骨髄炎とは、口腔内細菌に感染したことで起きた炎症が顎骨内の骨髄にまで及び、さまざまな症状が生じる疾患です。上顎と下顎のどちらにも発症しますが、下顎骨に多くみられます。顎骨骨髄炎が進行し、顎骨の組織や細胞が局所的に死滅し、骨が壊死した状態を顎骨壊死といいます(図)。

図 顎骨壊死の例

顎骨壊死の症例写真

顎骨骨髄炎・顎骨壊死の原因・リスク

 顎骨骨髄炎・顎骨壊死は、う蝕や歯周病、顎の骨折、抜歯などの歯科処置を契機に起こる場合があるほか、口腔環境が不衛生な状態、副腎皮質ステロイド薬や抗がん剤を投与中で免疫機能が低下している状態、糖尿病でも発症のリスクは高くなります。

 また、頭頸部領域のがんに対して放射線治療を行うと、顎骨の細胞活性能が低下して易感染状態になり、顎骨骨髄炎(放射線性骨髄炎)が起こることもあります。さらに近年、増加しているのが、骨粗鬆症やがんの骨転移に対する治療に使用されているビスホスホネート製剤や抗RANKLモノクローナル抗体製剤、ヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤などの副作用によるもので、ビスホスホネート関連顎骨壊死、薬剤関連顎骨壊死などと呼ばれています(表1)。

 加齢に伴う要因が多く、高齢の患者さんが多い傾向があります。

表1 顎骨骨髄炎・顎骨壊死を起こす可能性がある主な薬剤

薬剤分類一般名
骨吸収抑制薬ビスホスホネートゾレドロン酸水和物、パミドロン酸二ナトリウム水和物、アレンドロン酸ナトリウム、イバンドロン酸ナトリウム水和物、ミノドロン酸水和物、リセドロン酸ナトリウム水和物、エチドロン酸二ナトリウム
抗RANKLモノクローナル抗体デノスマブ
その他の医薬品ヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体ロモソズマブ
抗VEGF抗体ベバシズマブ
VEGF阻害薬アフリベルセプト、ベータ
マルチキナーゼ阻害薬スニチニブリンゴ酸塩、カボザンチニブリンゴ酸塩
チロシンキナーゼ阻害薬ニンテダニブエタンスルホン酸塩
顎骨壊死検討委員会:薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023.p.27(2024年7月10日閲覧) https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdfを参考に作成

薬剤関連顎骨壊死の治療時の休薬について
 薬剤関連顎骨壊死の治療に際して、原因となる薬剤の休薬については議論が分かれ、施設により対応も異なるのが現状です。「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」では、原因となる薬剤の休薬について賛否両論があるとしながら、現時点では治療時の休薬を積極的に推奨する根拠はないとし、歯科治療に伴う抜歯時においても、「原則として抜歯時に骨吸収抑制薬を休薬しないことを提案する」としています1)

顎骨骨髄炎・顎骨壊死の症状

 病変部位では痛み、発赤、腫脹、膿瘍、歯の動揺、歯の自然脱落などが生じます。全身状態としては発熱や倦怠感がみられ、しびれや麻痺といった顎の神経障害が起きることもあります。腫脹の程度はさまざまですが、外見でわかるほど腫脹が強く現れたり、喉まで腫脹が及ぶことで喉の痛みを訴えたりする患者さんもいます。進行すると、口腔内への骨露出や皮膚瘻孔(皮膚に穴が開き膿が排出される状態)の形成、病的骨折などが生じます。

 初期には自覚症状がないケースがある一方で、急性に重症化することもあります。特に下顎の炎症では、腫脹により気道が狭窄する場合があり、早急な処置が必要になります。

顎骨骨髄炎・顎骨壊死の治療

 顎骨骨髄炎・顎骨壊死の治療には、保存的治療と外科的治療があります(表2)。

 感染を起因とすることから、抗菌薬を中心に、鎮痛薬や抗炎症薬による薬物治療と口腔内の洗浄などの保存的治療が行われます。膿瘍形成を認める場合は切開・排膿を行い、壊死骨が自然と剥がれ落ちてくる遊離腐骨がある場合は、それを除去します。

 これらの治療で治癒が難しい患者さんについては、手術により壊死や炎症部位の顎骨を切除します。細菌感染が生じている顎骨を取り除くことで進行が抑えられるため、効果的な治療法ですが、顎骨欠損による審美障害や機能障害が生じる場合は、骨の移植や金属プレートによる再建手術が検討されます。

 患者さんの全身状態により手術や全身麻酔ができないケースでは、保存的治療を継続することになりますが、完治は難しく、慢性化する傾向にあります。難治性の場合は、保存的治療として高気圧酸素療法が考慮されます。

 顎骨骨髄炎・顎骨壊死は、治療をしても再発を繰り返し、慢性化することが多い疾患です。再発を防ぐためには、適切な口腔ケアにより口腔内を清潔に保つことが重要です。

*大気圧より高い気圧環境の治療装置のなかで、高濃度の酸素を吸入することで血液中の酸素濃度を上昇させ、組織の治癒を促進させる治療法。実施できる医療機関は限られている。

表2 顎骨骨髄炎・顎骨壊死の主な治療法

保存的治療・抗菌薬の投与(局所投与、内服薬、点滴による全身投与) 
・鎮痛薬や抗炎症薬による疼痛・炎症のコントロール 
・口腔内の洗浄 
・高気圧酸素療法
外科的治療・膿瘍に対する切開・排膿 
・遊離腐骨の除去 
・壊死や炎症部位の顎骨の切除

顎骨骨髄炎・顎骨壊死の看護

入院時(治療前)

問診・観察

 顎骨骨髄炎・顎骨壊死で入院が必要になるのは、急性的に症状が悪化し、全身管理にて保存的治療や手術を行う場合です。前述したように、他疾患や口腔環境の不衛生が発症要因であることが考えられるため、入院時は既往歴や現病歴、歯磨きの習慣をよく確認します。高齢者では、ADLや認知機能の状態、家族構成や介護者の有無も確認し、退院後の生活を見据えた視点で看護を計画します。

【既往歴、現病歴】

 歯科的処置や手術により、併存疾患が悪化したり、治療に影響を及ぼしたりする可能性があります。併存疾患の治療状況や症状などの情報を収集し、起こり得る問題点を事前に把握しておきます。

【歯磨きの習慣、口腔内の状態】

 実施するタイミングを含め、歯磨きの習慣を聴取するとともに、口腔内の状態をアセスメントします。

【栄養状態、食事形態】

 痛みや腫脹により食事が摂れず、低栄養状態になっている可能性があります。食欲、食事の摂取状況、体重の変化を確認し、栄養状態をアセスメントします。食事については、常食、きざみ食(料理を細かくきざんだ食事)、ソフト食(歯ぐきや舌でつぶせる硬さの食事)など、食事形態についても聴取します。

【ADL、認知機能】

 ADLや認知機能のアセスメントを行い、歯磨きや食事時における介助の必要性を確認します。転倒転落のリスクも評価し、リスクが高い場合は予防の対策を検討します。

【家族構成】

 ADLや認知機能が低下している場合は、退院後、歯磨きや食事などをサポートしてくれる家族や介護者がいるかどうかを確認します。

【せん妄のリスク】

 高齢者で手術を行う場合、術後にせん妄が起こる可能性があるため、リスク評価を行います。当院では、せん妄アセスメントシートを用いて評価しています。

入院中(治療中)

抗菌薬投与時のケア

 炎症の急性期および術後では、抗菌薬や鎮痛薬の点滴投与、内服などにより、感染や疼痛のコントロールを行います。特に抗菌薬を点滴投与する場合、初回投与時に、アナフィラキシーショックなどのアレルギー反応が出現するリスクがあるため、投与開始時にはバイタルサインの測定を行い、5分間はベッドサイドで患者さんの状態を観察します(表3)。その後は、15分間隔でバイタルサインの測定や観察を行います。

 患者さんには、抗菌薬投与後に掻痒感や息苦しさが出たら教えてもらうよう事前に伝え、異常の早期発見に努めます。異常が現れたら、点滴投与を中止し、主治医に報告します。

 なお、保存的治療の場合、症状や炎症を示す検査値(CRP、白血球)が改善するまでに時間を要し、入院期間が長引くケースもあります。

表3 抗菌薬初回投与時の観察ポイント

意識障害JCS(ジャパン・コーマ・スケール)、GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)で評価
循環器症状血圧低下、動悸など
呼吸器症状呼吸困難感、喘鳴、嗄声など
粘膜・皮膚症状顔面浮腫、チアノーゼ(口唇・口腔粘膜、眼球結膜、指、耳朶、鼻尖、頬部など)、全身紅斑、掻痒感など
昭和歯科大学病院資料「抗菌薬初回投与時の観察シート」を参考に作成

併存疾患がある患者さんのケア

 併存疾患がある場合は、その疾患に対するケアも必要になります。適宜、疾患に関連する症状のアセスメントを行い、状態の変化や悪化がみられないか注意して観察します。

 例えば、糖尿病の患者さんで、入院して病院食に切り変わることで普段の食事よりも摂取エネルギー量が減ると、低血糖を起こすリスクがあります。さらに、術後は侵襲や痛みによるストレスで、一般的に血糖が高くなる傾向があります。血糖測定の結果から、糖尿病治療薬やインスリン製剤の調整が必要な場合は、糖尿病の治療医にコンサルトを行います。

口腔ケア

 術後も治療中も、歯磨きや含嗽などの口腔ケアが重要です。術後の口腔ケアでは、創部に歯ブラシを当てないように注意し、創や炎症の状態により歯磨きができない場合は、医師の指示を得たうえで含漱を行うようにします。含嗽は低刺激で殺菌作用のある含嗽剤を用います。

 患者さん自身で歯磨きを行う場合は、実施後に看護師がチェックします。指導が必要であれば歯科衛生士と連携し、退院後も適切な口腔ケアが継続できるようにかかわります。

食事・栄養に関するケア

 顎骨骨髄炎・顎骨壊死は口腔内の疾患であることから、摂食機能に支障を来すため、食事・栄養に関するケアも重要です。腫脹や疼痛により食事が摂りにくくなるほか、義歯の装着ができなくなるため、咀嚼機能も低下します。栄養科と連携して咀嚼可能な食形態を検討し、栄養状態を維持できるようにかかわります。

術後のケア

 全身麻酔で手術を行うため、術後は呼吸状態や循環動態の観察、麻酔の影響による嘔気・嘔吐に対するケアを行います。また、疼痛の有無や程度を確認し、鎮痛薬など疼痛時指示薬を投与することで疼痛の緩和を図ります。入院時に実施したせん妄のリスク評価をもとに、せん妄症状の出現にも注意します。

退院時

外来との連携

 退院後も外来にて、歯科医師による診療と治療、歯科衛生士による専門的口腔ケアを継続して行う必要があります。患者さんに関する情報を外来看護師と共有し、退院後も継続して治療ができるようにかかわります。その際、患者さんに外来と情報を共有することを説明し、承諾を得るようにします。

引用・参考文献

1)日本口腔外科学会ほか顎骨壊死検討委員会:薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023.p.15-18(2024年7月10日閲覧) https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf
●厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 骨吸収抑制薬に関連する顎骨壊死・顎骨骨髄炎.(2024年7月10日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000209232.pdf
●渋谷絹子ほか:成人看護学〔15〕 歯・口腔 第14版.医学書院,2020.

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