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【連載】歯科・口腔外科で必要な看護技術を学ぼう!

口腔がん(舌がん)の看護|原因・誘因、治療、術前・術後のケア

  • 公開日: 2024/9/7


口腔がんには、舌がん、歯肉がん、口底がん、頬粘膜がん、口蓋がんがあります。この記事では、口腔がんのうち、舌がんを中心に解説します。


舌がんとは

 舌がんとは、口腔がんの一つで、舌に発生するがんです。口腔がんの中で舌がんは最も多く、51.4%を占めます1)

 舌がんの好発部位は舌の側縁部で、先端や表面の中央部分にはあまりみられません(図)。多くは扁平上皮細胞より発生する扁平上皮がんで、進行するにしたがって舌の深部の組織に浸潤していきます。

 女性よりも男性に多い傾向があり、好発年齢は60~70歳代で高齢者に多いがんですが2)、20~30歳代の若年での発症もみられます。

図 舌がんの好発部位

舌がんの原因・誘因

 明らかな原因は不明ですが、口腔内の不衛生や舌への慢性的な刺激が誘因になると考えられています。慢性刺激として、化学的刺激(飲酒、喫煙)や物理的刺激(歯列不整、う歯、義歯の不適合)が挙げられます。

舌がんの症状

 舌の粘膜に、硬結(しこり)やただれ、赤い斑点(紅板症)や白い斑点(白板症)などが生じます。自覚症状として、病変部の痛みやしびれを認める場合がありますが、必ずしも痛みを伴うとは限りません。しかし、がんが進行すると、舌の運動や摂食嚥下機能、構音機能に支障を来すようになり、潰瘍の形成、強い痛みや出血、強い口臭がみられることがあります。

 舌は鏡で見ることができるため、比較的早期に発見されやすいがんです。一方で、口内炎だと思って受診が遅れたり、受診したとしても適切な診断がされなかったりすることで、発見が遅れるケースもあります。

舌がんの治療

手術療法

 早期がん、切除可能な進行がんでは、手術療法が基本となります。がんの浸潤度や深達度により、術式が選択されます。

 切除する舌の範囲が大きくなるほど、摂食嚥下機能や構音機能、味覚など舌の機能に影響を及ぼします。舌部分切除術の場合、舌の機能への影響は少ないですが、それ以上の切除では舌の機能障害が生じるため、主に大腿部や前腕部などの組織を舌に移植する再建術が行われます。頸部リンパ節に転移している場合、あるいは潜在的に転移の可能性が高い場合には、頸部郭清術も行われます。

化学療法

 手術で切除しきれなかったがんがある場合や再発リスクが高い患者さんでは、術後補助療法として抗がん薬(主にシスプラチン)による化学療法が行われます。近年では、分子標的薬の適応も拡大し、セツキシマブやニボルマブも用いられるようになりました。手術に耐えられない、もしくは患者さんが手術を希望しない場合も化学療法が選択され、放射線療法が併用されることもあります。

放射線療法

 放射線療法には、根治治療と術後補助療法があります。根治治療では、腫瘍に対して集中的に照射を行うことができる強度変調放射線治療(IMRT)や、病巣部に小さな線源を埋め込み、放射線を病変部分に集中して照射する小線源治療が行われ、これらは舌の機能を維持できるというメリットがあります。術後補助療法では、体外から放射線を照射する外部照射が用いられ、化学療法が併用されることもあります。

その他の療法

選択的動注併用放射線療法

 腫瘍に栄養を供給していると考えられる動脈に直接カテーテルを挿入し、局所的に高濃度の抗がん薬を注入しながら、放射線治療を行う療法です。

がん光免疫療法(アルミノックス治療)

 がん細胞のみに結合し、光に反応する薬剤(セツキシマブに光増感剤を付与した物質)を投与し、レーザー光を照射することでがん細胞を破壊します。

舌がんの看護(頸部郭清術と舌再建術を伴う手術の場合)

入院時・術前

【既往歴、持参薬・内服薬、退院後のサポート体制の確認】

 既往歴、常時服用している持参薬を確認します。内服薬については、術後1週間程度、経管栄養のルートで投与することもあるため、粉砕や懸濁が可能か、あらかじめ薬剤師に確認しておきます。患者さんによっては、医療用麻薬や鎮痛薬を使用している場合があり、現段階の痛みの程度を確認し、手術前に調整が必要であれば医師に相談します。

 また、退院後は食事形態が変わる可能性があるため、食生活をサポートしてくれる家族(介護者)の有無を確認します。

【せん妄リスクの評価】

 手術時間が長く、侵襲も大きいため、せん妄のリスクを評価します。特にICUでの発症が多く、当院では、希望する患者さんにICUの見学を行っています。事前にICUの状況を確認しておくことで、せん妄の発症を抑える効果が期待できます。

【嚥下機能評価、栄養評価】

 術前より、摂食嚥下チームと栄養サポートチーム(NST)が介入し、嚥下造影検査を含めた嚥下機能評価、栄養評価を行います。術後の摂食嚥下リハビリテーションについても説明します。

【肺炎予防、静脈血栓症予防のリハビリテーション】

 術前より、肺炎予防のための口すぼめ呼吸や腹式呼吸、排痰法などの呼吸訓練、静脈血栓症予防のための運動を指導し、患者さんに実施してもらいます。

【術後の注意点、コミュニケーション方法の説明】

 施設により異なりますが、当院では、術当日含め術後4日間はベッド上安静となります。術中より気管切開が行われ、気管カニューレが挿入されます。術前の段階から、術後の処置、食事、排泄などに伴う注意点やコミュニケーションの方法について、パンフレットを用いて説明します。

術後

手術後~1週間まで

【安静管理】

 舌移植部、頸部、採皮部の創の安定のため、術後1日目はベッドの角度は15°程度を維持し、2日目は30°、3日目は45°と徐々にベッドアップをしていきます。

 頸部を回旋させると血流が悪くなり、移植した組織が壊死するリスクが高まるとともに、頸部の創部にも影響します。術後1週間は、頸部は回旋しないように固定した状態を保ちます。患者さん自身で固定した状態を維持するのが難しい場合は、砂のうを置いて固定します。また、患者さんには首を回さないこと、体位を変えたいときはナースコールをしてもらうことを伝えます。

【呼吸管理(肺炎予防)】

 再建術など大きな手術を行った場合、自発呼吸は可能ですが、口腔内の創部の腫脹や分泌物による気道閉塞を予防するため、気管切開により気道を確保した状態になります。加温加湿とともに、酸素吸入が可能なネブライザー式酸素吸入器や人工鼻を用いて、気道内の乾燥を防ぎます。

 分泌物の貯留は肺炎を引き起こす要因となるため、定期的に気管カニューレからの吸引、口腔内の吸引を行います。

【ドレーン管理】

 貯留した血液を排出するために、顎下や後頸部にドレーンを留置し、低圧持続吸引装置を用いて管理します。ドレナージが確実にされているか、ドレーンの屈曲・閉塞がないかを確認し、死腔や血腫を予防します。また、出血量や排液の性状をチェックし、異常の早期発見に努めます。

【栄養管理】

 鼻から胃にチューブを挿入し栄養剤を投与する経鼻経管栄養が行われます。投与速度や投与量、栄養剤の組成(乳糖、食物繊維)、栄養剤の浸透圧などが原因で下痢が起こることがあるため、下痢症状に注意します。

【排泄援助】

 尿道カテーテルの留置により排尿を促し、排便はベッド上で差し込み便器を用いて行います。患者さんには、便意を感じたらナースコールをするように伝え、場合によってはおむつの着用も検討します。

 床上で排便するストレスから便秘になることもあれば、経管栄養の影響で下痢症状が現れることもあります。排泄状況を確認し、便秘に対しては下剤の投与、下痢に対しては整腸剤の投与や栄養剤の投与速度の調整を検討します。

 排泄は極めてデリケートでプライベートな行為であるため、患者さんの自尊心を傷つけず、羞恥心に配慮したケアを心がけます。

【疼痛管理】

 術後は創部痛が生じるため、鎮痛薬の点滴投与で疼痛緩和を図ります。患者さんに痛みの程度を確認し、必要があれば医師に処方の調整を依頼します。

【術創の管理】

 出血によるガーゼ汚染の有無を確認します。移植組織では壊死の徴候を見逃さないようにするため、バイタルサインの測定時に変色の有無を確認します。

【感染管理】

 清拭により清潔を保ち、感染を予防します。尿道カテーテル留置による尿路感染症にも注意し、尿の性状を観察する、カテーテルの閉鎖状態を維持する、蓄尿バッグを正しい位置に設置するなど、適切に管理します。

【口腔ケア】

 口腔内は唾液や痰で汚染されやすい状態です。歯科衛生士による口腔ケアが実施されますが、看護師も口腔内の状態を観察し、乾燥による痂疲がみられるなど、汚染が著しい場合は医師に報告します。

【せん妄予防】

 1日1回、せん妄の評価を行います。夜の睡眠が確保できるように、昼夜逆転の生活になっていないか患者さんの生活を観察し、夜間の音や室温といった環境にも配慮します。必要に応じて睡眠薬の使用も検討します。

【患者さんとのコミュニケーション】

 患者さんは気管切開により声が出せない状態です。何かあったらナースコールをするように伝え、患者さんからの発話は筆談やスマートフォンを利用してもらいます。患者さんが声を出せないことを認識し、病室を出てドアを閉めるまでは、患者さんの様子をよく観察するようにします。

 何かしてほしいことがあっても、遠慮してしまう患者さんもいます。看護師は、患者さんからの訴えを待つのではなく、患者さんのニーズを表情や身振り、処置内容から推測し、声をかけるように心がけます。

【安楽に対するケア】

 長期臥床、ドレーン・ライン類の留置、気管切開などの処置により、精神的な苦痛が大きい時期のため、患者さんの安楽に配慮したケアが求められます。

 患者さんが楽な姿勢で過ごせるように配慮しながら、体位変換を行います。身体状態が安定していれば、テレビやラジオの視聴、スマートフォンの操作も可能です。患者さんにベッド上でもできることを伝え、必要に応じて介助を行うなど、快適に過ごせるように援助します。それが日中の活動性を維持し、夜間の睡眠の確保にもつながります。

【長期臥床による合併症予防】

 2~3時間ごとの体位変換で褥瘡予防に努めるとともに、フットポンプを装着し、静脈血栓症の発症を予防します。

【離床・歩行時の介助】

 術後4日目から、ベッド上の起き上がりから立位、車椅子への移乗・乗車、看護師の付き添い歩行、単独歩行と、患者さんの状態に応じて離床を進めていきます。安静状態が長期間にわたるため、患者さんが起き上がるときは、ふらつきやめまいなどの起立性低血圧の症状に注意します。離床時の深部静脈血栓症の発症や歩行時の転倒にも注意が必要です。

手術8日後~退院まで

【スピーチカニューレ装着後のケア】

 気管カニューレを装着している場合、スピーチカニューレに変更になり、発声が可能になります。変更後は呼吸状態が安定しているか観察します。話すことが発声や構音機能のリハビリテーションになるため、看護師は患者さんに声かけを行い、呼吸状態に問題がない範囲で積極的に話してもらうようにします。

【患者さんとのコミュニケーション】

 発話への影響は切除した部位によっても異なりますが、明確に発音するのが難しく、呂律が回らない話し方になります。患者さんには、ゆっくりはっきりと話してもらうように伝えます。何度も聞き返してしまうと、患者さんは話すのをためらうようになるため、患者さんと向かい合って、話を聞きとるようにします。

【食事開始後のケア】

 気管カニューレがスピーチカニューレに切り替わり、創の状態が安定していれば、嚥下機能の評価後、摂食嚥下訓練が行われます。

 食事自体がリハビリテーションになるため、1日1回、言語聴覚士が訓練と評価をかねて介入し、患者さんの嚥下機能に応じて、安全に摂取できる食形態から開始します。

 看護師は、食後に口腔内の残渣を確認するとともに、患者さんに食べづらかったものはなかったかなどを聞き、言語聴覚士にフィードバックします。十分な食事摂取が難しい場合は、食形態の調整や柄の長いスプーンの利用など什器の変更を検討し、良好な栄養状態を維持できるようにかかわります。

【口腔ケア】

 医師から、うがい・歯磨きの許可が出て、歯科衛生士による口腔ケアの指導が行われたら、患者さん自身で口腔ケアを実施することになります。看護師は、患者さんが口腔ケアを行ったあとに口腔内を観察し、何らかの問題や患者さんから質問があれば歯科衛生士に相談します。

【退院準備】

 食事により十分な栄養が摂れるようになると、退院に向けた準備が始まります。特に退院後の食生活に留意し、調理方法など食事に不安がある患者さんや家族には、希望に応じて栄養士による食事指導を依頼します。退院後の注意点についても説明を行います(表1)。

表1 退院後の注意点

●疾患による食事制限がなければ、食べられるもの、食べたいものを食べて、食事量が減らないようにする
●頸部の創により、力が入りにくくなることがあるため、重い荷物は持たないようにする
●口や顔の知覚が鈍くなり、垂涎しやすくなるため、タオルやハンカチを携帯する
●電話での会話が難しくなるため、パソコンやスマートフォンのメールなど、緊急時の連絡方法を準備しておく
●刺激を避けるため、創部に直射日光を当てないようにする

退院後

【術後化学療法・術後放射線療法のケア】

 退院後、術後化学療法・術後放射線療法が行われることがあります。術後化学療法・術後放射線療法では、有害事象への対策が重要です。

 舌がんの術後化学療法で主に用いられる抗がん薬のシスプラチンは、さまざまな有害事象を引き起こします。適切な対策により、有害事象の発症・悪化を防ぎます(表2)。また、抗がん薬の投与中は血管外の漏出がないかを確認します。

 放射線療法では、放射線性皮膚炎(紅斑、落屑、水疱、色素沈着など)や口腔粘膜炎(口腔粘膜の紅斑、びらん、出血、潰瘍など)といった有害事象が生じます。有害事象の発症・悪化予防として、スキンケア、口腔ケア、衣服の工夫などが重要です。

 予測される有害事象、予防や発症時の対応を患者さんに説明するのとあわせて、各有害事象の発症のタイミングを把握し、早期発見に努めます。

表2 シスプラチンの主な有害事象と対策

有害事象対策
腎障害●抗がん薬の投与前後に電解質輸液を行う 
●水分を積極的に摂取する
嘔気・嘔吐●制吐剤によるコントロールを行う 
●食べやすいものを摂取する
感染症(好中球減少症・血小板減少症)●手洗い・消毒による感染予防を行う
●抗菌薬を投与する
●血小板輸血を行う
下痢(遅発性)●消化のよい食事を摂取する
●整腸剤や止瀉薬を投与する
便秘●食物繊維が豊富な食事を摂取する
●水分を積極的に摂取する 
●下剤を投与する
口内炎●口腔ケアを定期的に行い、口腔内を清潔に保つ

引用・参考文献

1)日本頭頸部癌学会:2020年 日本頭頸部癌学会全国登録 初診症例報告書,p.27.(2024年7月24日検索) http://www.jshnc.umin.ne.jp/pdf/HNCreport_2020.pdf
2)日本頭頸部癌学会:2020年 日本頭頸部癌学会全国登録 初診症例報告書,p.31.(2024年7月24日検索) http://www.jshnc.umin.ne.jp/pdf/HNCreport_2020.pdf
●渋谷絹子ほか:成人看護学[15] 歯・口腔 第14版.医学書院,2020.
●日本補綴歯科学会・日本老年歯科医学会:摂食嚥下障害,構音障害に対する舌接触補助床(PAP)の診療ガイドライン.2020.(2024年7月24日検索) https://www.hotetsu.com/files/files_536.pdf

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