糖尿病網膜症の看護|分類、検査、治療、術前・術後のケア(点眼指導、血糖コントロール、体位管理、褥瘡予防、疼痛管理)など
- 公開日: 2024/3/24
糖尿病網膜症とは
糖尿病網膜症とは、高血糖の持続により網膜の細小血管が障害され、視力が低下する疾患です。糖尿病三大合併症の一つで、日本における視覚障害の原因疾患の第3位となっています1)。
網膜は眼底に広がる薄い膜状組織で、光や色を感じる神経細胞と細小血管が無数に存在しています(図1)。高血糖により細小血管が障害されると、血管に変形・閉塞が生じて網膜に十分な酸素が行き渡らなくなり、酸素不足を補おうと、網膜や硝子体に向かって新生血管が伸びていきます。新生血管は脆いため出血しやすく、出血を繰り返すうちに増殖膜と呼ばれる線維性の組織が網膜表面に形成されますが、増殖膜に網膜が牽引されると網膜剥離(牽引性網膜剥離)を起こすことがあります。治療せずに放置すると失明リスクが高くなるため、早期発見・早期治療が重要です。
また、病期にかかわらず、黄斑に浮腫が起こる糖尿病黄斑浮腫を合併する場合があるほか、病状が進行すると、虹彩の表面に新生血管が形成される虹彩ルベオーシスが生じることもあります。
図1 眼球の断面と眼底
糖尿病網膜症の分類
糖尿病網膜症は、進行度(重症度)により分類することができます。進行度の評価には、国際重症度分類、改変Davis分類、新福田分類が主に用いられます。改変Davis分類の使用頻度が比較的高いものの、国際重症度分類と新福田分類についても理解しておくことが大切です。
改変Davis分類では、進行期が大きく3段階に分けられ、単純糖尿病網膜症→増殖前糖尿病網膜症→増殖糖尿病網膜症の順に進行していきます(表1)。
表1 改変Davis分類
病期 | 病態 | 眼底所見 |
---|---|---|
単純糖尿病網膜症 | 血管透過性亢進 | 毛細血管瘤 網膜点状・斑状・線状出血 硬性白斑・網膜浮腫 (少数の軟性白斑) |
増殖前糖尿病網膜症 | 血管閉塞 | 軟性白斑(綿花様白斑) 静脈異常 網膜内細小血管異常 (網膜無灌流領域:蛍光眼底造影) |
増殖糖尿病網膜症 | 新生血管 | 新生血管(網膜・乳頭上) 網膜前出血 硝子体出血 線維血管膜 牽引性網膜剝離 |
糖尿病網膜症の症状
糖尿病網膜症の初期のみならず、進行しても自覚症状がほとんど認められない場合があります。気付かないまま放置すると、モヤがかったように見える霧視が生じるほか、新生血管に出血が起こると小さな虫(蚊)のようなものが見える飛蚊症が現れ、出血量が多くなると視力低下を引き起こします。糖尿病黄斑浮腫や牽引性網膜剥離では、強い視力低下を来します。
糖尿病網膜症の検査・治療
検査
糖尿病網膜症では、検眼鏡や前置レンズなどで眼底を観察し、病状の評価や進行経過の確認を行います。
また、網膜に虚血が生じているか否かで眼科的治療の必要性を判断するため、蛍光眼底造影検査を実施します。蛍光眼底造影検査では、蛍光色素を含んだ造影剤を腕の静脈から投与し、眼底カメラで網膜に虚血がみられないか確認します。検査で使う造影剤は、「フルオレセイン」と「インドシアニングリーン」の2種類があり、必要に応じて使い分けたり、両剤を用いたりします。
これまで造影検査の経験がある患者さんでも、蛍光色素を含んだ造影剤を用いたことがない場合は、嘔気・嘔吐、くしゃみ、皮膚の掻痒感、蕁麻疹、発疹、ショックなどの副作用に注意が必要です。ショックが起こることは稀ですが、嘔気や皮膚の掻痒感は比較的よくみられます。
治療
いずれの病期においても、血糖コントロールをはじめ、血圧や血清脂質のコントロールといった、糖尿病の治療が基本になります。
網膜に虚血が生じているケースでは眼科的治療が行われますが、糖尿病網膜症の眼科的治療の目的は視機能の改善ではなく、あくまで進行予防であり、失明を防ぐことです。レーザーによる網膜光凝固術が行われるほか、網膜光凝固術で進行が抑えられない場合や網膜剥離が起きている場合は、硝子体手術が選択されます(表2)。
糖尿病黄斑浮腫に対しては、抗VEGF薬治療、ステロイド局所投与、網膜光凝固術などが行われます。
表2 糖尿病網膜症の主な治療法
網膜光凝固術 | ・虚血網膜をレーザーで凝固することにより、酸素消費を抑える |
---|---|
硝子体手術 | ・眼球壁(強膜)に穴を数カ所あけて手術器具を挿入し、硝子体出血や増殖膜を切除する ・必要に応じて、切除した硝子体の代わりに空気や特殊なガスなどを眼内に充填する |
蛍光眼底造影検査の看護
検査前
当院では、蛍光眼底造影検査について説明用紙を用いて説明を行っています(図2)。検査では散瞳薬を使うため、車を運転して来院しないことを事前に伝えます。
造影剤の副作用については丁寧に説明して理解を促すことが大切ですが、患者さんの不安を軽減できるように配慮し、看護師が常に付き添っていること、身体に異変を感じたら我慢せずに知らせてもらうことを伝えます。
造影剤でフルオレセインを使用した場合は尿や皮膚が黄色くなるため、患者さんが驚かないようにあらかじめ説明し、検査後は薬剤を排出するために水分を多めにとることを伝えます。肝臓で代謝されるため、検査当日のみ飲酒は控えてもらいます。
図2 蛍光眼底造影検査の説明用紙
検査中
蛍光眼底造影検査では、ショックなどの副作用に早急に対応する必要があるため、当院では、造影検査は専門の院内資格を取得した看護師が担当しています。
準備
ショックなどの緊急対応に備えて、救急カートとストレッチャーを準備します。
ルート確保
造影剤を投与するためのルートを確保し、逆血や漏れがないか確認します。穿刺部位は、前腕の尺側正中皮静脈が一般的ですが、確実かつ安全に投与できる部位を選択します。
撮影
検査担当技師(視能訓練士)と確認しながら造影剤を注入していきます。造影剤投与から数秒で網膜に達するため、初期の造影剤の流れを撮影するには、注入するタイミングが重要です。
検査中は、患者さんの身体に変化がないか、声かけをしながら確認していきます。このとき、「大丈夫ですか」と聞くのではなく、「かゆみはありませんか」「吐き気はありませんか」など、患者さんが答えやすいような聞き方を心がけます。
副作用発生時の対応
患者さんの状態に変化がみられたらバイタルサインを測定します。血圧低下やショック症状を認める場合はもちろん、バイタルサインに問題がなくても、患者さんが苦痛を訴えているなど、検査の継続よりも医師への報告を優先すべき状況であれば、検査を中断して医師に報告します。
検査後
特に症状がみられなければルートを抜去し、水分摂取を促します。
硝子体手術の看護
術前
点眼指導
手術による感染を防ぐために、抗菌薬や抗炎症薬などの点眼薬が処方されます。入院時の問診や観察において、認知機能、ADL、家族構成などをアセスメントし、点眼指導を行います。
硝子体手術に伴う点眼指導では、感染予防に重点を置きつつ、視力が低下している患者さんが多いため、患者さんに合った方法をともに考え、根気よく指導することが大切です。
【感染予防】点眼指導で最も重要なことは、「清潔に点眼を行うこと」です。特に術後は、眼内炎など感染症を予防する観点からも、点眼前の手洗い、点眼前後の眼周囲の清拭を徹底するように指導します。点眼薬への微生物の混入を防ぐために、点眼容器のノズルが睫毛や眼瞼、眼表面に接触しないように指導することも大切なポイントです。
【点眼方法の指導】点眼指導では、正しい点眼方法を説明しながら、患者さんに実際に点眼操作をしてもらいます。手技を確認したうえで、患者さんに合った点眼方法を指導していきます。
★正しい点眼方法
①点眼前に、手を流水と石鹸でよく洗います。または、手指消毒剤で手を消毒します。
②清浄綿(非アルコール性)で、眼の周囲を眼頭から眼尻に向かってやさしく拭きます。
③点眼薬のキャップを外し、上向きに置きます。
④顔を真上に向けます。座位で顔を上に向けるのが難しい場合は、仰臥位になります。
⑤利き手で点眼容器をもち、もう片方の手で下眼瞼を軽く引き、点眼します。このとき、ノズルが睫毛や眼瞼、眼表面に触れないように、点眼容器を眼から離します(図3)。
図3 点眼の仕方
点眼容器をもつ手が安定せず、点眼がうまくいかない場合は、げんこつ法や点眼補助具の使用を検討します(図4、図5)。げんこつ法では、下眼瞼が下に引きやすくなり、眼と離れたところに点眼容器が固定されるため、ノズルが睫毛や眼瞼に触れずに点眼できます。
図4 げんこつ法
図5 点眼補助具の例
⑥点眼後は瞬きをしないようにして、眼を閉じます。
⑦あふれた薬液は、清浄綿の拭く面を変えて拭き取ります。
⑧眼を閉じたまま、1~5分間、涙嚢部を軽く指先で押さえます(薬液を浸透させるため)。ただし、術後は涙嚢部の圧迫が術創に影響することがあるため、眼を閉じるだけにします。
※2本以上を点眼する場合は、5分間あけて点眼をする
点眼薬の管理
点眼薬は、抗菌薬や抗炎症薬など複数処方されます。点眼薬によって、点眼する時間帯や順番が決まっているため、点眼薬の管理とその指導も重要です。
点眼薬の管理では、点眼表を活用するとよいでしょう(図6)。当院では、各点眼薬の写真と投与時間にキャップと同じ色のマークを記載した点眼表を作成し、マークの上に点眼薬を置いて管理するように指導しています。
両眼を別日程で手術するケースでは、右眼と左眼で点眼薬が異なることがありますが、後から処方された点眼薬に輪ゴムを巻くなど、患者さんが区別しやすいように工夫します。また、右眼と左眼で同じ種類の点眼薬を使用する場合であっても、感染予防の観点からそれぞれ点眼薬が処方されるため、いずれか一方の点眼薬に輪ゴムを巻いて、間違えて使用するのを防ぎます。
同じ時間帯に複数の点眼薬を使用するときは、水溶性→混濁性→ゲル化→油性→軟膏の順に点眼することが基本になります。その場合、仕切りのある箱をつくり、点眼する順に点眼薬を並べて管理する方法もあります。
大切なのは、個々の患者さん、もしくは介助する家族に応じて、管理しやすい方法をともに考え、退院後も継続して管理できるように支援していくことです。
図6 点眼表の例
血糖コントロール
原疾患が糖尿病であり、手術のストレスにより血糖値が上がるリスクがあるため、術前から血糖コントロールをしっかりと行います。内科で治療を受けている場合は、内科の看護師との連携が大切です。
術後
体位管理
眼内にガスを注入した場合は、ガスの浮力で網膜を眼底に押しつけて定着させる必要があります。医師の指示のもと、食事やトイレなどを除き、数日間はうつぶせ(顔を下に向ける腹臥位)やベッドアップ、左右どちらかに顔を向ける姿勢など、決められた姿勢を保持します。当院では、ベッドサイドに姿勢を示した札を掲示し、スタッフ間で共有できるようにしています(図7)。
同じ体位を維持することは、患者さんにとって苦痛を伴います。さまざまな形や硬さのクッションを用いて、患者さんの苦痛が少しでも和らぐように工夫することが大切です。特にうつぶせは負担が大きいため、臥位だけではなく、うつぶせ用の枕を使用し、座位でうつぶせになる方法も指導します(図8)。
日中・夜間を通して姿勢を維持できているか、苦痛はないかどうかを定期的に確認します。特に睡眠中は、無意識のうちに姿勢が変わっていることがあるため、注意します。
図7 ベッドサイドに掲示する姿勢を示す札
図8 座位でのうつぶせ
褥瘡予防
同一の姿勢で過ごすことにより、褥瘡のリスクが高まります。同じ姿勢であっても、関節部分の位置をできる限りずらしてもらうようにします。褥瘡ができやすい部分にはあらかじめパットを貼付し、チューブ包帯で保護します(図9)。定期的に皮膚の観察を行い、発赤や皮膚剥離が起きていないかを確認します。
図9 部位に合わせてカットしたシリコーンゲルテープ(アドプロテープⓇ・クッション)
疼痛管理
硝子体手術後は術創による痛みがあり、鎮痛薬が処方されます。ただし、ガス注入などの治療により眼圧が上昇して痛みが出ることもあるため、医師に確認してから鎮痛薬を投与します。
ADLの介助
もともと視力が低下している患者さんが多いため、術後は特に転倒・転落に注意し、患者さんのADLに応じた介助を行います。
インスリンの自己注射が必要な患者さんに対しては、自立度に応じて、できる限り患者さん自身で実施してもらいます。ただし、実施の際は看護師が付き添い、適切にインスリンを投与できているか確認するようにします。
糖尿病網膜症は自覚症状が現れないと眼科受診に至らず、治療が遅れがちです。糖尿病患者さんには、定期的な眼科受診が勧奨されていますが、なかなか浸透していないのが現状です。糖尿病患者さんの指導では、糖尿病網膜症への理解を促し、定期的な眼科受診による早期発見の重要性を伝えていくことが大切です。
硝子体手術で病変が取り除かれ、見え方が改善する患者さんもいますが、しばらくして病状が進行し、再び手術になるケースもあります。眼科的治療を機会に栄養指導を入れるなど、内科的治療の重要性を認識してもらえるようなかかわりが必要です。
引用・参考文献
●日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版). 日本眼科学会雑誌 2020;124(12):955-81.(2024年2月14日閲覧) https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/diabetic_retinopathy.pdf
●日本糖尿病学会:8 糖尿病網膜症.糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,2019,p.129-43.(2024年2月14日閲覧) https://fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/gl/GL2019-08.pdf
●医療情報科学研究所,編:病気がみえる vol.12 眼科.メディックメディア,2019.
●高橋寛二:眼科看護の知識と実際 第4版.メディカ出版,2009.
●内堀由美子,他:眼科ナースのギモン.照林社,2020.
イラスト/たかはしみどり