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【連載】眼科で必要な看護技術を学ぼう!

加齢黄斑変性の看護|分類、症状、検査、硝子体内注射(抗VEGF薬治療)・光線力学的療法のケアなど

  • 公開日: 2024/3/26

加齢黄斑変性とは

 加齢黄斑変性とは、加齢に伴い、網膜色素上皮の下に老廃物が蓄積し、網膜の中心部である黄斑が障害される疾患です(図1)。一般に男性や喫煙者に多くみられ、日本における視覚障害の原因疾患の第4位となっています1)

 網膜は眼底に広がる薄い膜状組織で、外界からの光が角膜、瞳孔、水晶体、硝子体を通過して網膜に達すると、網膜にある視細胞が光を電気信号に変換します。この電気信号が視神経を介して脳へと伝達され、像として認識されることで、物が見える状態になります。網膜のなかでも視細胞が密集し、光に対する感度が最も高いのが黄斑であることから、黄斑が障害されると視機能の低下が起こります。

図1 眼球の断面と眼底

眼球の断面と眼底

加齢黄斑変性の分類

 加齢黄斑変性は、萎縮型加齢黄斑変性と滲出型加齢黄斑変性の2つに大別されます。

 萎縮型加齢黄斑変性は、加齢に伴い、網膜色素上皮が徐々に萎縮していくことで起こります。進行は比較的緩やかで、急激な視力低下を来すことはありません。

 滲出型加齢黄斑変性は、脈絡膜に新生血管(脈絡膜新生血管)が生じることで発症します。新生血管は非常に脆く、血管壁から漿液が漏出したり、破綻して出血したりして、網膜が障害されます。進行が早く、急激な視力低下を来し、日常生活に大きな悪影響を及ぼすおそれがあります。

加齢黄斑変性の症状

 加齢黄斑変性では、物がゆがんで見える変視のほかに、進行すると視界の中央が見えにくくなる中央暗点の症状が現れ、視力が低下します(図2)。病変が中心窩に及ぶと、急速に視力が低下していきます。

図2 加齢黄斑変性での見え方のイメージ

加齢黄斑変性での見え方のイメージ

加齢黄斑変性の検査

 網膜の層構造を断面的に観察する光干渉断層法(OCT)、検眼鏡を用いた眼底検査、眼底カメラで網膜に虚血がみられないか確認する蛍光眼底造影検査などが行われます。

 また、変視や中心暗点などの有無を簡便に調べられる方法として、「アムスラーチャート」と呼ばれる格子状の表を用いて行う検査があります。アムスラーチャートを眼から30cmほど離し、片眼を閉じた状態で中心の点をまっすぐ見つめ、見え方に違和感がないか確認します(図3)。両眼で見るとゆがみがあっても補正されてしまうため、必ず片眼ごとに調べます。患者さんが自宅でもできるため、自己チェックツールとしても役立ちます。

図3 アムスラーチャート

アムスラーチャート

加齢黄斑変性の治療

 加齢黄斑変性の根治治療はなく、視力を温存することが目的になります。加齢黄斑変性の前駆病変、萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性でそれぞれ対応は異なりますが、病期やタイプにかかわらず、加齢黄斑変性では喫煙がリスクとなるため、禁煙が重要です。

加齢黄斑変性の前駆病変、萎縮型加齢黄斑変性の場合

 加齢黄斑変性の前駆病変、萎縮型加齢黄斑変性に対しては、経過観察や予防的治療(ライフスタイルと食生活の改善)、Age-Related Eye Disease Study 2(AREDS2)の報告に基づくサプリメントの処方などが行われます(表1)2)。なお、萎縮型加齢黄斑変性に対する有効な治療法は現在のところありません。

表1 AREDS2推奨がするサプリメントの処方

ビタミンC500mg
ビタミンE400IU
ルテイン+ゼアキサンチン10mg+2mg
亜鉛(酸化亜鉛として)80mg
銅(酸化第二銅として)2mg
Lutein + zeaxanthin and omega-3 fatty acids for age-related macular degeneration: the Age-Related Eye Disease Study 2 (AREDS2) randomized clinical trial.JAMA 2013; 309(19):2005-15.をもとに作成

滲出型加齢黄斑変性の場合

 滲出型加齢黄斑変性で脈絡膜新生血管が中心窩にも存在する場合は、硝子体内注射(抗VEGF薬治療)が行われ、光線力学的療法が併用されることもあります(表2)。

 硝子体内注射は、脈絡膜新生血管の増殖や成長を抑制する治療法で、長期的な治療の継続が必要です。光線力学的療法は、光に反応する薬剤を体内に投与し、病変部に弱いレーザーを当てて薬剤を活性化させ、新生血管を退縮させます。治療によって閉じた血管が再び開くことがあるため定期的に検査を行い、必要に応じて治療を行います。

 脈絡膜新生血管が中心窩に存在しない場合は、新生血管を局所的にレーザーで凝固する網膜光凝固術が実施されることがあります。

表2 滲出型加齢黄斑変性の主な治療法

硝子体内注射(抗VEGF薬治療)・脈絡膜新生血管の発生に関与する血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害する薬剤を眼内に注射することにより、脈絡膜新生血管を退縮させる 
・ルセンティス、アイリーア、バビースモ、ベオビュなどの薬剤がある 
・中心窩に病変がある滲出型加齢黄斑変性が適応となる
光線力学的療法・光感受性物質(ビスダイン)を静注点滴し、病変部に弱いレーザーを当てることにより薬剤を活性化させ、新生血管を退縮させる 
・中心窩に病変がある滲出型加齢黄斑変性が適応で、治療前には蛍光眼底造影検査が必須となる 
・光過敏症の予防のため、治療後は遮光管理を行う

硝子体内注射(抗VEGF薬治療)の看護

治療前

事前説明

 硝子体内注射の効果や具体的な方法に関する説明を行います。硝子体内注射では、眼内に針を刺して薬剤を投与しますが、麻酔薬を使用するため痛みはほとんどないこと、注射後にゴロゴロした感覚があったり、黒い点が見えたりしても、時間が経てば消えることを説明します。眼内に針を刺すという処置は、他の部位の注射よりも恐怖心が増すものです。患者さんからの質問には丁寧に答え、不安が和らぐように配慮します。

 治療における注意点については、来院方法、感染予防、副作用などを中心に説明を行い、自宅でも読んでもらうように患者さんに説明用紙を渡します(図4)。

【来院方法】

 散瞳薬を使用するため、車や自転車を運転して来院しないように伝えます。

【感染予防】

 感染を防ぐためには、眼を手で触らず、目やにや涙を拭くときは必ず清浄綿を使用し、清潔な状態を保つことが重要です。洗顔や洗髪、入浴などの制限についても説明し、異常があったらすぐに連絡してもらうことを伝えます。

【副作用】

 治療後は副作用として、眼圧上昇や点状角膜炎が生じる場合があります。頭痛、眼の痛み・かゆみ、ドロドロした目やにが出るなどの症状があれば、すぐに連絡してもらうことを伝えます。

図4 硝子体内注射の説明書

硝子体内注射の説明書
日本大学病院 眼科外来作成

既往歴の確認

 全身の副作用として、虚血性心疾患や脳血管障害が起こる可能性があるため、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞の既往の有無を確認します。

治療中

 注射は医師が実施し、看護師は器械出しと患者さんの介助を行います。患者さんの誤認防止のために、氏名、注射する側の眼、薬剤名を医師とダブルチェックします。

 注射は治療用の椅子を倒した状態で行われます。注射中に身体が動くと危険なため、患者さんにとってつらい姿勢になっていないか確認し、必要時はタオルなどを用いて調整します。

 穿刺の際は眼球が動かないように、医師が眼を向ける方向を指示しますが、耳が聞こえにくい患者さんの場合は、耳元で声かけをして向きを伝えます。恐怖心で手や頭が動いてしまう患者さんに対しては、手を握ったり、頭を支えたりするなどの介助を行います。

治療後

 硝子体内注射は外来で実施するため、治療後はそのまま帰宅となります。ただし、頭痛、眼の痛み・かゆみ、ドロドロした目やにが出るなどの症状を認めた場合は、前述したように、すぐに連絡してもらいます。

光線力学的療法の看護

治療前

 治療内容や治療後の注意点について説明します。光線力学的療法では治療後48時間以内は注入した光感受性物質が体内に残っているため、合併症として、皮膚や眼が強い光に過敏に反応し、発赤や炎症を生じる光過敏症が起こることがあります。強い光を浴びないように十分に説明し、浴びても影響がない光、浴びてはいけない光についても伝えます(表3)。

 当院では、入院および外来で光線力学的療法を実施していますが、入院をしない患者さんには、特に遮光について注意してもらう必要があります。自宅ではカーテンを閉め切り日光が入らないようにし、浴びてはいけない光を浴びないようにします。蛍光灯だと思っていたら、実は白熱灯だったという場合もあるため、事前に確認しておいてもらうことも大切です。

 入院と外来のいずれにおいても、帰宅時に着用する遮光のための服や帽子、サングラスなどを必ず持参してもらうことを伝えます(表4)。

表3 浴びても影響がない光と浴びてはいけない光

浴びても影響がない光・テレビ 
・パソコン、スマートフォン 
・蛍光灯
浴びてはいけない光・直射日光 
・白熱灯 
・照明(手術用・歯科用、舞台、ショールーム、スタジオ) 
・ハロゲン(暖房器具、こたつ、照明、レンジ、コンロ) 
・ネオンライト 
・日焼けサロン 
・裸電球 
・コピー機、スキャナー 
・映写機 
・車のヘッドライト

表4 遮光のための衣服や物品の例

・サングラス(眼が透けないもの、真っ黒のもの)
・手袋
・ツバ付き帽子(ツバが大きめのもの)
・長袖のシャツ
・長ズボン(スカートは不可)
・ツバ付の帽子
・くつ下
・マスク
・ショール
※皮膚に光が当たらないように工夫する

治療後

遮光管理

 遮光のため、病室のカーテンを閉めます。カーテンに札を掲示し、スタッフや同室者がカーテンを開けないようにします。大部屋の場合は窓側のベッドを避け、個室の場合も遮光カーテンに変えるなどして遮光を徹底します。治療後48時間は、検査などで光を浴びるのを避けるため、診察は行われません。

副作用

 光過敏症による皮膚症状の出現に注意します。頻度は多くないものの、網膜出血や視力低下、背部痛などが生じる場合もあるため、状態観察に努めます。光線力学的療法では、弱いレーザーを使用するため組織を焼くことはなく、強い痛みが出ることはありませんが、患者さんが痛みを訴えた場合はバイタルサインを確認のうえ、医師に報告します。

コラム:患者さんが治療を継続できるようなかかわりが重要

 硝子体内注射も光線力学的療法も1回で終了とはならない治療です。視力低下を抑えるには治療を継続する必要があります。中には、「もう数十回も治療を受けているのに何も変わらない」と訴える患者さんもいますが、治療を受けているから見え方が変わらないのであり、それこそが治療の効果であることを伝えていくことが必要です。

 加齢黄斑変性に限らず、視力が低下して、見たいものが見えなくなるという眼疾患をもつ患者さんにはさまざまな葛藤があり、その疾患を受け入れがたいものです。看護師として、患者さんの不安を傾聴し、共感する姿勢が大切です。

引用・参考文献

1)Morizane Y, et al.:Incidence and causes of visual impairment in Japan: the first nation-wide complete enumeration survey of newly certified visually impaired individuals. Jpn J Ophthalmol 63:26-33, 2019.
2)Lutein + zeaxanthin and omega-3 fatty acids for age-related macular degeneration: the Age-Related Eye Disease Study 2 (AREDS2) randomized clinical trial.JAMA 2013;309(19):2005-15.
●髙橋寛二,他:加齢黄斑変性の治療指針.日本眼科学会雑誌 2012;116(12):1150-5.(2024年2月19日閲覧) https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/aging_macular_degeneration.pdf
●小椋祐一郎,他:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日本眼科学会雑誌 2016;120(2):87-90.(2024年2月19日閲覧) https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/macular_disease.pdf
●医療情報科学研究所,編:病気がみえる vol.12 眼科.メディックメディア,2019.
●高橋寛二:眼科看護の知識と実際 第4版.メディカ出版,2009.
●内堀由美子,他:眼科ナースのギモン.照林社,2020.

イラスト/たかはしみどり

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