第7回 褥瘡部と創周囲の洗浄
- 公開日: 2009/10/20
一昔前、褥瘡の創部は生理食塩水を用いて洗われるのみで、創周囲の皮膚は洗浄されることなく、残存した古い軟膏と滲出液の上に消毒材が塗り重ねられ、そのまま新たな処置がされていました。その結果、褥瘡を保有する患者が多い病棟ではその独特の臭いが病棟全体にしてしまうほどでした。 現在は、創処置の際に洗浄する事が浸透していますので、そのような事はなくなったと思いますが、皆さんの施設では、褥瘡部と創周囲の皮膚はどのように洗浄していますか? 今回は、創部および創周囲皮膚の洗浄についてお話します。
創周囲の皮膚の洗浄
褥瘡の創部そのものに目が行ってしまい、なかなか創周囲の皮膚のケアは浸透してきませんでした。創部の消毒はしても、創周囲のガーゼに覆われていた部分は、清拭がされる訳でもなく、洗浄もされない環境が長く続いてしまっていました。 しかし、創周囲の皮膚には創部と同様、滲出液、古い軟膏、古い角質、汗などが付着しています。その結果、皮膚の常在菌も増殖しやすい環境となっており、臭いの原因になっていたと考えられます。 真田ら(2000)は、創周囲皮膚を石鹸洗浄した場合と生理食塩水のみの洗浄での変化を比較する研究を行いました。その結果、石鹸洗浄したほうが生理食塩水のみで洗浄した場合と比較して、鱗屑(古い角質)量、細菌数は有意に減少しました。細菌数が減少するという事は、創部の感染予防につながります。 また、角質の水分量、皮膚のpHの値は、どちらも健常皮膚に近づいたという結果が得られました。表創周囲の皮膚を健常皮膚に近づけることで、表皮細胞の遊走を促すことができ、創治癒促進ができるという事が研究より明らかになりました。 創周囲の皮膚を洗浄する時に用いる石鹸は、皮膚への刺激を少なくするために皮膚のpHに近い弱酸性の石鹸を用いる方がよいと言われています。一般的な固形石鹸はアルカリ性ですが、健康な皮膚であれば洗浄後に徐々に弱酸性に戻っていきますが、脆弱な皮膚はこのpH調節機能が弱まっていることが考えられます。何よりも大切なことは、洗浄後に石鹸成分を皮膚に残さないようによく洗い流すことです。
創洗浄
次に創部の洗浄について考えていきます。 創部の洗浄は、温めた蒸留水、生理食塩水、水道水、などを用いて、十分な量を用い、圧をかけて行います。 しっかりと圧をかけて洗浄することで、創表面の壊死組織や残留物を除去することができます。特に、創面に壊死組織がある場合は、沢山のお湯を使ってよく洗う事で、壊死組織の物理的デブリードメントを促すことができます。 また、ポケットがある場合はポケット内部もしっかりと圧をかけ、ポケット内の残留物などをしっかりと洗い流したり、ポケット内の壊死組織を物理的に取り除いたりします。薬剤が創内に残ったり、ドレッシング材の繊維が残ったりすることもありますので、これらも十分に洗い流しします。 創部を洗浄する際に最適とされている圧は、35ccの注射器に19Gの注射針をつけて押し出した圧力(8psi)が推奨されています。臨床では、100ccの生理食塩水のボトルに18Gの注射針をつけるのが主流ではないでしょうか? 他にも、創部に圧をかけて洗浄できる機器(メディウォッシュ;(株)ケープ)もありますので、創の状態に応じて使用していきます。
消毒薬について
褥瘡創部の消毒については、現在は行わない傾向にあります。 特に、きれいな肉芽組織で覆われた創(壊死組織の無い創)には消毒薬は必要なく、却って消毒剤によって正常な細胞に悪影響を及ぼすとされています。 感染創に消毒剤を使用するか否かは意見が分かれていますが、消毒剤を使用する場合、洗浄前に消毒剤を使用するか、消毒後に洗い流すことが推奨されています。
創洗浄の具体的な方法
創周囲の皮膚を洗浄する際には、よく泡立てた石鹸で創周囲をこすらず包み込むように洗います。被覆材の粘着成分が残らないように気をつけます。(創内は石鹸では洗いません) そして、十分な量の微温等を用いて石鹸成分がなくなるまでよく洗い流します。 さらに、創部の洗浄を微温湯、蒸留水、生理食塩水などを用い、十分な量で圧をかけて洗浄します。 その後、水分を拭き取り、適切な処置を行います。
正しい洗浄の方法で、創の感染を予防し、創治癒を促しましょう。