第1回 NSTを中心に「抗生剤に負けない腸をつくる」
- 公開日: 2014/6/16
経口摂取が難しい患者さんに対する栄養療法の1つ「経腸栄養」。効率よく栄養を摂取できることに加えて、栄養管理しやすくなることから、医療現場だけでなく介護施設でも重宝されています。しかしその反面、合併症の頻度が多く、医療者を悩ませてきました。
そこで今回は、合併症の代表例である「下痢」の発生率を大幅に軽減させた、堀ノ内病院(埼玉県)の取り組みを紹介します。
超高齢者が多く入院するベッドタウンの医療状況
都心から電車とバスを乗り継ぎ45分、埼玉県新座市の閑静な住宅街に位置する堀ノ内病院。病院理念に「患者さんを病気として診るのではなく、人間全体として診察していく」を掲げ、病床数170床・スタッフ300人で、ベッドタウンの医療を担っています。
入院患者さんの平均年齢は83歳。誤嚥性肺炎や肺がん、CKD(慢性腎臓病)を主疾患とする方が多く、経管栄養療法の対象者が約20%いることが特徴です。
長野看護部長は、堀ノ内病院の概況をこう分析します。
「当院は、”超高齢者”といわれる85歳以上の方が多いため、高齢による廃用性症候群から誤嚥性肺炎になってしまうケースが散見されていました。そのため抗生剤を使用する頻度が高く、特に経腸栄養患者さんにおいては、抗生剤使用による下痢が多くて悩んでいたんです」
さまざまな取り組みの結果、たどりついた『ビフィズス菌』
経腸栄養によって生じる下痢には、患者さん側、看護側それぞれにリスクがあると岡村師長は指摘します(下表)。
表 経腸栄養によって生じる下痢のリスク
いずれも見逃せないトラブルの種ですが、なかでも、抗生剤の使用によって増殖するクロストリジウム・ディフィシル菌※1(以下、CD菌)は、糞便を介して感染するため、院内感染へと被害が広がらないように患者さんを隔離するなどの対策が必要です。
※1 抗生剤の使用などによって乱れた腸内細菌叢下において、クロストリジウム・ディフィシル菌が異常増殖する。CD菌が作る毒素が下痢(水様便、泥状便)を発症させる。発熱、食欲不振、吐き気、腹痛、脱水などが見られることもある。
主なリスクファクター:抗生剤投与、年齢(65歳以上)、免疫機能の低下
このように、経腸栄養や抗生剤には顕在化しているリスクがある一方で、患者さんの療養・治療を鑑みると、「経腸栄養は欠かせない」「抗生剤も使わざるをえない」「しかし、リスクも怖い」という三重苦の状況で頭を抱えていた、というワケです。
そこで、岡村師長、NSTスタッフを中心に、『抗生剤に負けない腸をつくるためのケア』をスタートさせ、整腸剤の投与、乳酸菌飲料の摂取、栄養剤の調整、投与速度の見直し、蠕動運動を促す温罨法、さらには、摂食・嚥下訓練などのリハビリも行いましたが、期待していた効果が得られずにいました。
そんな時、藁にもすがる気持ちで試してみたのが、腸内細菌叢を正常化させる『ビフィズス菌末BB536(株式会社クリニコ製)』だったのです。
次回は「腸内細菌叢の正常化によって、便性・便回数が改善!」です。
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第2回 腸内細菌叢の正常化によって便性・便回数が改善!