体位ドレナージとは?方法・実施時間・コツ
- 公開日: 2014/6/8
患者さんへの侵襲の少ない排痰ケアを行っている病棟が増えています。吸引を前提にしない排痰ケアとは、一般に「肺理学療法」を中心にした排痰法です。
理学療法というと、難しそうに感じますが、メカニズムを理解し、練習してコツをつかむことで、安全に行うことができます。
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排痰法にはSTEPがある!
私たち理学療法士が排痰法を行う場合は、「排痰の3つの要素」(図1)に基づいて行っていきます。3つの要素とは、(1)湿度、(2)重力、(3)呼気量と呼気の速度であり、これら3つの方向からアプローチして排痰を促します。
図1 排痰法の基本原則
具体的には、まずは十分に加湿を行って痰の粘稠度をコントロールします。次に体位ドレナージなど重力によって痰を中枢気道まで移動させ、さらに喀痰するために十分な呼気量・速度を得るために、咳嗽介助やスクイージングといった方法で排痰を補助します。これらを実施しても喀出を得られない場合にはじめて吸引、となるのです。
ただし、これら肺理学療法にも禁忌や合併症はあります。また、単独で行っても効果は得られません。肺理学療法だから患者さんに安全・安楽というわけではないことも理解して行ってください。
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体位ドレナージのメカニズム
3つの要素から成る排痰の基本原則にしたがうと、加湿の次のステップは重力を利用した排痰になります。重力を使う排痰と聞くと難しそうですが、要は体位ドレナージのことを指します。
このことは、マヨネーズにたとえて考えてみると理解が進むことでしょう。肺がマヨネーズの容器で、痰がマヨネーズ容器の中で少し残った中身に相当するとします。この時、中に残ったマヨネーズを出そうと容器をいくら潰してもうまくいきません。これがいわば排痰できない状態です。
このようなとき、マヨネーズ容器に空気を入れてからいったん逆さにし、出口付近まで落ちてきてから容器を押すと、うまい具合にマヨネーズの中身が外に出てくるものです。これが、重力を使った体位ドレナージによる排痰のイメージです。
このように、痰が溜まっている部位を確定したら、そこを上にし、重力を利用しながら痰を末梢気道から中枢気道へと移動させ、排痰を誘導します。この方法を修正排痰体位法と呼びますが、特に痰が次第に肺の下部に溜まり無気肺を形成した下側肺障害などのケースで有効です。
修正排痰体位法
a:仰臥位 | 肺尖区、前上葉区、前肺底区 |
b:腹臥位 | 上-下葉区、後肺底区 |
c:側臥位 | 外側肺底区、患側上の肺野 |
d:前傾側臥位 | 後上葉区[上-下葉区、後肺底区] |
e:後傾側臥位 | 中葉、上-下舌区 |
※患者状態に問題がなければ、dの前傾側臥位60°、eの後傾側臥位60°が最も効果的とされる。
肺野の分類
治療的体位は側臥位60度以上
当然、体位ドレナージを行う際の患者さんの体位は側臥位になります。ところが、病棟を回っていて気づくのは、効果的な排痰を促す体位が十分にとられていないことです。
適切な体位ドレナージでは、治療的体位として少なくとも60度程度の側臥位が求められますが、実際には肩が浮く20 ~ 30度程度の側臥位にとどまっているという状況がよくみられます(写真1、2)。
こうした体位では痰はほとんど移動せず、効果的な排痰は期待できません。クッションなどを使ってしっかり60度を保持することがポイントです。
60度をイメージしていても、実際には30度程度になってしまっている場合が多い
背中や腹部を枕で全面圧迫しないよう、枕を当てる位置に配慮する
実施する際は、身体損傷がないように側臥位の下側になってしまう手足の位置を確認することが安全上大切です。また、気管内挿管中の患者さんについては自己抜管の危険性に対して十分に注意し、1人よりも2人で対応・確認したほうがよいでしょう。
触診や聴診などでその効果を評価する
体位ドレナージを行う前には触診や聴診などによって痰がどの部位に貯留しているかを確定させなければなりませんし、また、実施中の効果を評価するアセスメントも欠かせません。
実施時間については明確なエビデンスのある時間はないものの、3~ 15分程度保持することが推奨されます。特別な状況で、長時間(15分以上)かけて体位ドレナージで排痰を誘導する場合は、圧迫によるトラブル(皮膚や神経)や、事故抜管などのリスクにつながりやすいので要注意です。
大事なことは、予測して仮説を立てた痰の貯留部位が体位ドレナージでどのように変化したのかを間欠的にアセスメントし、変化を確認することです。可能ならば5~10分おきにアセスメントを行いましょう。それが難しければせめて実施前後に行うことは必須です。
ケアのポイント
●排痰体位の60度程度をしっかり保持する
●実施中のアセスメントは間欠的に
(『ナース専科マガジン』2014年6月号より転載)
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