第24回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「口腔内が乾燥している患者さんにどう対応すればよい?」
- 公開日: 2016/8/30
脳梗塞後の77歳女性、口腔内の乾燥が目立ちます。服薬数も多いのですが、どれも止められるものではありません。水分摂取をすすめるもののあまり飲んでもくれません。どうしたらいいですか?
口腔乾燥とは唾液の分泌量が低下し、口腔内が乾燥している状態です。今回は口腔乾燥の対処方法について考えてみます。
口腔乾燥の最も多い原因は多剤服用です。口渇・口腔乾燥が副作用に挙げられている薬剤は約700種類あると言われています。口腔乾燥がみられたら服薬の影響かもしれませんので、服薬内容につい医師・薬剤師に相談してみましょう。
相談した結果、薬剤の変更・減薬が難しいのであれば、対症療法を試してみます。対症療法は1 室内の加湿、2 唾液腺マッサージ、3 保湿剤の利用の3つがあげられます。
対症療法は症状を和らげる治療方法です。効果が実感できるまでには時間がかかることもあります。ある程度時間がかかることを患者さんに説明し、1週間ほど実施しても効果が得られない場合は他の方法も検討してみてください。
口腔内の乾燥を評価する
まず、症状を軽減する対症療法を行うまえに、どの程度口腔内が乾燥しているのか評価してみましょう。 方法はグローブ(ラテックスもしくはプラスティック)を装着した手指で頬粘膜を擦ってみます。口腔乾燥が軽度であれば、手指が滑らかではないものの動きます。口腔乾燥が重度になると、手指が粘膜に張り付いて動きません。この方法は特別な準備物も必要なく、評価するうえでも使えるので便利です。対症療法は次に示す1~3があり、どの程度改善しているのか確認しながら試してみましょう。
口腔乾燥の主な対症療法
1 室内の加湿
低湿度(室内が乾燥している)の中、口で呼吸していることはありませんか?このような環境では口腔内もその影響を受けて乾燥します。
適正な湿度は40~60%と言われていますので、湿度計で測定して室内が乾燥していれば加湿をします。加湿器を置く、バスタオルを湿らせて干す、洗面台や化粧台に水を張っておくなどで調整が可能です。これを行うだけで口腔乾燥が改善されることもあります。
2 唾液腺マッサージ
唾液は大唾液腺と小唾液腺から分泌されています。大唾液腺は耳下腺(漿液性)・顎下腺(混合性)・舌下腺(粘液性)があります。
小唾液腺は口腔内全体に存在しています。唾液分泌を促すには大唾液腺付近の頬、顎下、舌下付近を皮膚上から徒手的にマッサージすると効果的です。手を置く位置は手のひら全体で頬と顎下を包むようにし、動かし方はリラクセーションの効果も得るためエステティシャンが行うマッサージのようにゆっくりと大きく円を描くようにします(図)。これを10回程度行い、唾液が分泌されて口腔内が潤っているか確認します。
前述した頬粘膜を擦る方法で口腔内の乾燥を評価してみてください。口腔内がまだ乾燥していれば、さらに10回ほど追加します。1日数回実施しても改善しないようであれば、次に説明する 3 保湿剤の利用を検討します。
図 唾液腺マッサージ
3 保湿剤の利用
口腔乾燥がなかなか改善されないのであれば、口腔用の保湿剤を用いてみるのもひとつの方法です。口腔保湿剤は各メーカーから多くの種類が販売されており、性質も様々(味の有無、ジェル、スプレーなど)です。
多くの保湿剤の中から患者さんの口腔乾燥の状態に合ったものを選択する必要があります(写真)。選択に迷ったら歯科医師・歯科衛生士に相談してみてください。
保湿剤を塗布する前に唾液腺マッサージや口腔内を清拭し、口腔内をある程度湿らせます。湿らせる目安は前述した口腔乾燥評価方法で軽度に相当する「指がやや動きにくい程度」です。保湿剤の塗布する量はジェルであれば小指頭大程度です。方法は手の甲に出したジェルを少し指で練り、手指もしくはスポンジブラシで口腔内全体に数回に分けて塗布していきましょう。
スプレーであれば口蓋と頬粘膜に向かって全体が湿るように2~4回ほど噴霧します。時折白色ワセリンを保湿剤の代わりに使っている場面を見かけることがありますが、控えた方が良いでしょう。白色ワセリンは粘稠性が高く油分を多く含んでいますので、汚れが付着しやすくなっています。また、口腔乾燥を防ぐ効果はありません。
ぬれマスク(マスクを濡らして使う)もありますが、賛否両論です。生活条件や環境が十分に整ったところで実施してください。
これらの方法は対症療法のため、唾液腺マッサージにしても保湿剤にしても長期間継続して行う必要があります。保湿剤は患者さんが自費で購入することになるため、方法や容量の設定は継続できる設定が望ましいです。患者さんの口腔乾燥の状態と生活環境を見極めて設定しましょう。
【参考文献】
1)阪井丘芳: ドライマウス 今日から改善・お口のかわき. 医歯薬出版株式会社, 東京, 26, 2010.
2)栗山とよ子: 栄養必要量の算出: NPO法人PDNドクターズネットワーク, http://www.peg.or.jp/care/nst/sanshutu.html, 2015.11.17.
イラスト/たかはしみどり