人工呼吸器が必要な患者さんとは? 装着の目的とリスク
- 公開日: 2017/6/3
人工呼吸器装着患者さんをケアするためには、人工呼吸器をなぜ着けているのか、人工呼吸器とはどんな器械なのかを知っておかなければなりません。今回は、人工呼吸の基礎知識を解説します。
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人工呼吸器を装着する目的
人工呼吸器とは、(1)必要な肺胞換気の維持、(2)酸素化の改善、(3)呼吸仕事量の軽減、(4)原疾患や炎症による障害の進展の悪循環を断ち、寛解するまでの時間をかせぐなど、主にこれら4つの目的のために、人工気道を介して酸素と空気をブレンドし、必要な酸素濃度を決められた量または圧力で、肺に気体を送り込む器械です。
従って、人工呼吸器を用いた人工呼吸療法は、呼吸不全を治療するわけではなく、あくまでも何らかの原因や増悪因子により生じた呼吸不全が治療により改善するまで、呼吸を補助することによって、適正な血液ガスを保持し生命を維持する手段です。
また、自然呼吸が胸腔内で陰圧になることで、胸郭が膨らんで空気(ガス)を引き込むのに対し、人工呼吸器の多くは直接ガスを器械的に肺に送り込んで陽圧換気を行います。吸気時はサポートのみで、呼気は自発呼吸と同様に肺胸郭の弾性によって行われます。
人工呼吸器装着のリスク
人工呼吸器装着下では、生理的な陰圧ではなく、強制的に陽圧換気を行っているため、循環器系に合併症をきたすリスクがあることを知っておきましょう。陽圧換気の具体的な影響としては、下記のようなことが考えられます。
1.気道―肺胞の障害:圧外傷
高い気道内圧を繰り返しかけていると、縦隔気腫や気胸、皮下気腫などを発生する恐れがある。
2.循環への影響:心拍出量低下、血圧低下
胸腔内圧上昇→右房圧上昇→末梢静脈圧との格差の減少→静脈還流量減少→心拍出量減少・血圧低下
3.腎血流量低下
4.脳圧亢進
そのほかにも、挿管操作による片肺挿管や食道挿管、喉頭浮腫、VAP(人工呼吸器関連肺炎)、気管内チューブの閉塞などの合併症や、患者さんの精神的ストレスに起因する精神症状などの合併症もあります。
人工呼吸器が必要な患者さんとは?
まずは、生命維持が危機的な状況にあって、酸素投与だけでは酸素化が不十分であり、呼吸困難を併発したり、強い呼吸努力がある場合に、人工呼吸器が装着されます。また、肺疾患や心疾患などによる呼吸不全をきたしている患者さんや、COPD(慢性閉塞性肺疾患などの2型呼吸不全で呼吸性アシドーシスをきたし、NPPV(非侵襲的陽圧換気)では改善されない患者さん、侵襲の大きい心臓外科手術の術後などの患者さんに対し、人工呼吸器を用います。
具体的な病態としては心肺停止、換気不全や酸素化不全を呈する各呼吸不全、重症うっ血性心不全、脳圧亢進の中枢神経疾患、多発性肋骨骨折、重篤な外傷や疾患、などが挙げられます。
人工呼吸器にはどんな種類があるの?
一口に人工呼吸器といっても、いろいろな種類があります。まず、気管挿管チューブなどの人工気道を留置して換気を行うIPPV(侵襲的陽圧換気)と、人工気道を留置しないNPPV(非侵襲的陽圧換気)に分けられます。一般に「人工呼吸器」というときは、IPPVの陽圧式人工呼吸器を指しますが、その場合も「挿管」や「気管切開」などによって人工気道に接続するものがあります。本稿では特に記述のない限り、挿管による侵襲的陽圧換気(IPPV)を指します。
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さらに体外から圧力をかけて、肺胞内を陰圧にする体外式人工呼吸器があります。
緊急蘇生時に用いられる手動式人工呼吸器としては、バッグバブルマスクやジャクソンリース回路などがあります。さらに小児用人工呼吸器、在宅用人工呼吸器などがあります。
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NPPVの効果と禁忌ーメリット・デメリット
NPPVは気管挿管をしない人工呼吸器のことで、鼻マスクや顔マスクを使用する非侵襲的な陽圧換気による人工呼吸法です。
短期的な効果としては、呼吸困難感の改善や気管内挿管頻度の減少、呼吸仕事量と疲労の軽減、酸素化の改善などがあります。長期的な効果には、死亡率の減少や予後の改善、入院日数の短縮、医療コストの軽減などがあります。ただし、NPPVの構造や機能的に、禁忌となる病態があるので、注意が必要です。
最大のメリットは、挿管をしないので患者さんの侵襲が少なく、一時的に早期に人工呼吸を開始でき、中断も可能なことです。また、挿管時の低酸素や誤嚥、気道損傷がない、気管チューブの長期留置に伴う声帯浮腫が生じない、VAPのリスクの低下、鎮静薬などの薬剤の不要または減少、などのメリットもあります。
デメリットは、気道確保ができないので誤嚥の危険性がある、気道と食道の分離が困難なので腹部膨張感や嘔吐の危険性がある、高い気道内圧がかけられないために、病態によっては十分な換気が得られない、マスクによる不快感や皮膚の損傷などが挙げられます。
このようなメリットとデメリットを十分に検討した上で、しっかり適応を見極め、患者さんが正しく理解し、協力が得られるように、十分な説明を行います。
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(ナース専科マガジン2014年6月号より転載)