胸痛のアセスメント|問診で原因疾患と緊急度を鑑別しよう!
- 公開日: 2017/12/21
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急変時の対応
STEP1 まずは、これを考えよう
痛いのはどこなのかを精査しながら、緊急性の高い胸痛を鑑別する
「胸が痛い」という訴えの場合、患者さんが苦痛を感じている「胸」はどこなのでしょうか。胸部の皮膚や筋肉、肋骨・胸骨などの骨格、食道、気管、肺、心臓、胸膜、大動脈、大静脈、乳房など、胸の範疇に入る部位はさまざまです。
こうした「胸」のどこが痛いのかを精査しながら、第一にすべきことは、生命の危機に結びつく胸痛を鑑別することです。
痛みは緊急信号ですが、患者さんは「なんか変だ」などというように、「痛い」という言葉を使わずに不調を訴えることも考えられます。「痛い」と言っていないから安心などと考えずに、不調を訴えている場合はきちんとアセスメントすることが大切です。
Action 1 胸痛の原因となる疾患・症状のリストを想定する
胸痛の原因で、命にかかわる重篤な疾患として即座に思い浮かべるべきものは、「心筋梗塞」「解離性大動脈瘤」「肺梗塞」の3つです。この三大疾患に加え、「緊張性気胸」が想定リストに浮かぶとよいでしょう。その他の考えられる主な疾患は表にまとめてあります。
●狭心症:
心臓はポンプとして、1日に約10万回血液を送り出しています。冠動脈は、ポンプとして働く心臓の筋肉に血液を送っている重要な血液輸送ルートです。動脈硬化によってこの血液の通り道が細くなったり、血栓ができて詰まりかけたりすると、心筋への血液の供給が減少します。すると、心筋の働きが低下してしまい、胸の痛みというSOSのサインを発するのです。
●心筋梗塞:
狭心症のさらに進んだ状態で、血栓が冠動脈を完全に塞いでしまうと、そこから先には血液が流れません。すると、心筋は酸素不足に陥り、やがて壊死してしまいます。一度壊死してしまった心筋は元には戻せません。
●解離性大動脈瘤:
大動脈の壁は内膜、中膜、外膜という3つの壁が重なった3層構造になっています。解離性大動脈瘤は、この 3層の真ん中の中膜と一番外側の外膜との間が裂けて解離し、その隙間に血液が流れ込み、瘤のように膨れあがってしまうもの。放置すると、破裂して内出血を起こすため、生命の危機につながります。
●肺血栓塞栓症(静脈血栓塞栓症)・肺梗塞:
心臓から肺へ血液を運ぶ血管である肺動脈が血栓により閉塞した状態を肺血栓塞栓症といいます。そのまま閉塞した状態が続き、血流が途絶え、肺が壊死した状態が肺梗塞です。血栓によって広範囲の肺動脈が塞がれてしまい、生命維持に必要な酸素量が供給されないと、突然死に至ることもあります。
下肢の静脈内に生じた血栓が血液の流れに乗って移動し、肺動脈を閉塞して起こることが多く、いわゆる「エコノミークラス症候群(ロングフライト血栓症)」はその典型です。飛行機に乗って長時間動かずに座っている場合と同様に、長期間寝たきりの状態や術後なども血栓ができやすいため、要注意。また、血液だけではなく、骨折したときに骨髄から血液中に入った脂肪が脂肪栓となり、肺動脈を塞ぐ塞栓となる場合があります。
●気胸:
肺に穴が開き、胸腔内に空気が漏れ出した状態です。外傷などによって起こる場合もありますが、自然に起こる場合もあり、後者を自然気胸といって痩せ型の長身の若い男性に多くみられるのが特徴です。注意したいのは、緊張性気胸。胸腔に漏れて入り込んだ空気が出るに出られずたまってしまい、その圧力で肺がつぶれ、胸腔内にある心臓など他の器官は胸部の反対側に圧迫されてしまいます。酸素がうまく取り込めなくなり、苦しいからといって呼吸をすればするほど圧迫されるという悪循環になります。ただちにたまった空気を抜かないと、死につながります。
●帯状疱疹:
体内に潜伏している水痘・帯状疱疹ウイルスが再び活性化し、知覚神経の走行に沿って帯状に赤い発疹と小水疱が出現し、強い神経痛様疼痛を伴います。高齢者や抗がん剤治療、過労、日光等の刺激などにより免疫力が低下した場合に発症しやすくなります。神経痛が長期間にわたることがあるため、早期の発見と適切な治療が必要です。
●逆流性食道炎:
胃から食道への逆流が繰り返し起こることによって、食道の粘膜に炎症が起きた状態です。胸やけが主症状ですが、胸が締め付けられるような、狭心症に似た痛みを生じることがあります。
STEP2 命の危機にかかわる緊急性を判断しよう
胸の痛みと一口に言っても、原因となる疾患や個人の感じ方で、痛みの内容もさまざま。どんな痛みか(性状)、どこが痛いか(部位)、どのくらい続くか(持続時間)、どんなときに痛むか(誘因)、他に症状はあるか(随伴症状)などを明確にしながら、生命の危機に直結するのかどうかの判断および原因を考えていきましょう。
Action2 問診で原因を推定しながらリストを精査する
胸痛の原因疾患をリストアップしたら、患者さんの状態を把握するためにアセスメントをしていきます。まずは、問診で絞り込んでいきましょう。患者さんに質問する際の具体的な例とアセスメントのヒントを以下に挙げます。
■問診の流れ
01. 発症と経過を聞く
最初に痛くなったのはいつですか?
【こんな質問で絞り込もう】
●突然痛くなりましたか?
●徐々に痛くなりましたか?
【アセスメントのヒント】
●突然起こる痛みは、狭心症、心筋梗塞、肺血栓塞栓症・肺梗塞、解離性大動脈瘤、緊張性気胸などが考えられます。
02. 痛みの質や種類を聞く
「どんな痛みですか?」
【こんな質問で絞り込もう】
●焼けるような痛みですか?
●押しつぶされるような痛みですか?
【アセスメントのヒント】
●「焼け火箸を入れられたような」「触れられないくらい熱いものを押しあてられたような」「キリキリ刺し込まれるような」といった訴えの場合、心筋梗塞の疑いがあります。
●「焼けるような」というような表現の場合には、解離性大動脈瘤を考えましょう。
●「押しつぶされるような」や「締め付けられるような」という場合、肺血栓塞栓症・肺梗塞の疑いがあります。
●「ピリピリした」や「チクチクする」という場合、つまり表面的な痛みや明瞭な痛みの場合には、肋間神経痛や帯状疱疹が考えられます。
03. 痛みの強さ・程度を聞く
「痛みの強さは?」
【こんな質問で絞り込もう】
●今までに経験したことのない痛みですか?
【アセスメントのヒント】
●「今までに経験したことがない激しい痛み」の場合、第一に考えるべきなのが、生命危機の恐れのある、狭心症、心筋梗塞、肺血栓塞栓症・肺梗塞、解離性大動脈瘤です。
●胸焼けのような鈍痛の場合は逆流性食道炎、みぞおちがムカムカするような重苦しい痛みの場合には、虫垂炎の初期症状の可能性も考えられます。
04. 痛みを感じる部位を聞く
「胸のどの部分が痛みますか?
【こんな質問で絞り込もう】
●胸全体が痛みますか?
●痛みが胸以外にも広がっていますか?
●痛む部分がどのあたりか指せますか?
●皮膚の表面のほうが痛みますか? それとも胸の奥のほうが痛みますか?
【アセスメントのヒント】
●胸全体が痛む場合には、狭心症、心筋梗塞、肺血栓塞栓症・肺梗塞、解離性大動脈瘤が考えられます。痛みを感じる部位が局所的、境界が明らかな場合は、肋間神経痛や胸膜炎など、胸壁のすぐ下で起こったトラブルと考えられます。
●皮膚の表面のほうが痛い場合は、肋間神経痛や帯状疱疹の疑いがあります。胸の奥のほうが痛い場合は、心臓や肺などに異常があると考えられます。
05. 痛みの始まりを聞く
「痛みはどういうときに始まりますか?」
【こんな質問で絞り込もう】
●動くと痛くなりますか?
●痛みはどのくらい続きますか?(続いていますか?)
●痛みが起こる頻度は?
【アセスメントのヒント】
●痛みが30分以上続く場合は、心筋梗塞の疑いがあります。
●特定の動きをすると痛くなる場合は、肋間神経痛や筋骨格系の痛みと考えられます。
●階段を上がるときに苦痛を感じるなど運動負荷によって痛みが増強する場合には、労作性狭心症の疑いがあります。
06. 随伴症状の有無を聞く
「どこか他に具合の悪いところはないですか?」
【こんな質問で絞り込もう】
●息苦しさはありませんか?
●咳は出ませんか?
【アセスメントのヒント】
●随伴症状として息苦しいという訴えがある場合、肺血栓塞栓症・肺梗塞、気胸、心筋梗塞が考えられます。
●咳が出る場合には、逆流性食道炎が考えられます。逆流した胃酸を気管に吸い込んでしまうと咳が出るからです。
07. 痛みの悪化と緩和を聞く
「どういう姿勢だと痛みが強まりますか?」
【こんな質問で絞り込もう】
●仰向けになったとき痛みが強まりますか? 弱まりますか?
【アセスメントのヒント】
●仰向けになったときに痛みが強まる場合には、逆流性食道炎など消化器系のトラブルが疑われます。臥床すると胃液の逆流が増えるので、苦痛が増強すると考えられるからです。
●特定の姿勢をとると痛みが和らぐ場合には、筋骨格系の問題という可能性が高いでしょう。
Action3 緊急度を判断する
問診しながら「胸が痛い」原因を精査し、緊急性を判断していく際に忘れてはならない大事な視点があります。
①呼吸器に原因があるのか
②循環器に原因があるのか
③両方に起因しているのか
これらを探る際には、呼吸器や循環器に関連したアセスメントを組み合わせることが必要です。
■心電図モニターを装着する
激しい痛みがあり、ピンポイントでどこが痛いのか指し示すことができない場合は、まず心電図モニターを装着しましょう。ST部分が上昇していれば心筋梗塞、特に変化がない場合は、解離性大動脈瘤か肺血栓塞栓症・肺梗塞の可能性があることが絞り込めます。
■脈拍や血圧を測定する
解離性大動脈瘤の場合、解離が起きた側の末梢に血液が回らないため、脈拍・血圧そして皮膚温にも左右差がみられます。
■呼吸音を聞いて確認する
気胸の場合、左右の肺に呼吸音の差が生じます。トラブルが生じている側では呼吸音が減弱します。
■呼吸の様子を視診する
胸膜炎が起こっていると、呼吸時の胸の動きに左右差がみられます。
■既往歴を確認する
急に起こった激しい胸痛を訴える患者さんで、高血圧や脂質異常症(高脂血症)、糖尿病など血管障害にかかわる既往がある場合は解離性大動脈瘤のリスクがあります。また、術後や長期臥床中の患者さんでは肺血栓塞栓症・肺梗塞のリスクが高いことを知っておきましょう。
ここがPOINT! 呼吸音が正常でも息苦しい肺血栓塞栓症・肺梗塞
胸痛とともに息苦しさがある場合には、気胸と肺血栓塞栓症・肺梗塞の可能性がありますが、肺血栓塞栓症・肺梗塞の場合、呼吸音では異常が確認できません。なぜなら呼吸音でわかるのは、酸素を肺胞に取り込む「換気」に関することだけだからです。
その先の肺胞にある酸素が身体内部に取り入れられているかという「ガス交換」や、取り込んだ酸素が心臓に運ばれているのかどうかという「肺血液循環」については、呼吸音では確認できません。そして肺血栓塞栓症・肺梗塞は、この「肺血液循環」にトラブルが起こっている状態です。「換気」の先の出来事ですから、呼吸音自体は異常が認められないのです。
STEP3 アセスメントを看護につなごう
生命が安定して維持されているのを確認しつつ、療養のサポートをするのが看護師の役割だといえます。患者さんに異常がある場合、まずは生命が安定して維持されているかを確認することが最優先となります。特に胸部には生命維持に必要な心臓や肺があります。患者さんからの胸痛の訴えに接したら、生命の危機につながるものかどうかをしっかりとアセスメントし、ケアにつなげましょう。
Action4 緊急性のある場合の看護
心電図モニター、パルスオキシメーターなどのモニタリング、脈拍数、脈の強さ、不整脈の有無、呼吸数と呼吸状態、チアノーゼの有無などの客観的なデータも合わせて判断し、緊急と判断したら、医師に連絡し、迅速な診察につなげましょう。
心筋梗塞や解離性大動脈瘤、肺血栓塞栓症・肺梗塞などは、急激な痛みに続いて意識を失うことがあります。また、意識があって脈が触れていても、手先や足先などが冷たくなっている場合には、重大な内臓疾患の可能性があることを知っておきましょう。
気胸の場合は、胸腔ドレーンを挿入する場合もあります。
Action5 緊急性のない場合の看護
肋間神経痛は何らかの原因で肋間神経が圧迫されて生じるものです。緊急性はないものの何が原因なのか突き止めたほうがよい場合が多いので、医師に伝えましょう。また、帯状疱疹の場合は身体の抵抗力が低下していると発症するものなので、身体を休めることときちんと治療が行えるよう皮膚科につなげます。
逆流性食道炎の場合は、仰臥位になると症状が悪化するので、できるだけ座位をとるように指導します。家族や看護師が寄り添うことで痛みが軽減あるいは消失するような心因性の場合は、声かけやタッチングなどを心がけ、患者さんの不安を軽減するようにしましょう。
ここがPOINT! 痛みに鈍い糖尿病患者さん
糖尿病では、自律神経が障害されるため痛み刺激がうまく伝わりません。胸の痛みも同様で、「痛い」という自覚症状が感じにくくなっている患者さんへの注意が必要です。
糖尿病あるいはその疑いのある患者さんなどで、動脈硬化その他既往歴によって血管の梗塞が起こるリスクが想定できる場合には、早期発見に向けて日頃から注意深い観察が求められます。
まとめ
ともすると「胸痛」イコール「心疾患」と考えてしまいがちですが、胸の痛みにつながる原因は多岐にわたります。痛みを感じる正確な位置、どのような痛みなのか、といったことが重要な手がかりになることも忘れないでください。
また、患者さんの訴えから原因疾患をアセスメントするときの基本。それは、訴えと関連のある症状を呈する「命の危険があるのはどんな疾患か」を想定し、緊急対応にも配慮しながら精査を進めることです。
(「患者さんのサインを読み取る! 山内先生のフィジカルアセスメント【症状編】」より転載)
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