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変革期を迎える透析医療 ~腹膜透析医療の可能性とQOLを高める「治療法決定プロセス」の在り方とは~

  • 公開日: 2018/6/30

5月22日にバクスター株式会社・虎ノ門ヒルズオフィスにて、バクスター株式会社による透析医療に関するプレスセミナーが開催されました。
日本のCKD(慢性腎臓病)の患者数は約1330万人と推計され1)、新たな国民病とも言われています。そのCKDと透析医療、特に腹膜透析について、日本透析医学会理事長で埼玉医科大学医学部総合診療内科教授の中元秀友先生が講演しました。この講演の概要を紹介します。


腎臓の働きとCKD

 腎臓の働きは、以下の3つに大別されます。

1. 水素、炭素、酸素、窒素、硫黄などの身体の老廃物を排泄する
2. 血圧、体液量、酸塩基平衡などの、身体の恒常性を維持する
3. エリスロポエチンなどのホルモンを産生し、ビタミンDを活性化する

この3つの働きが低下することが腎不全です。

 尿は、血液が糸球体でろ過されて原尿となり、1日に144Lも作られますが、原尿の99%は尿細管で再吸収され、実際に尿として排泄されるのは1日に1.5Lとなります。

 この糸球体濾過率を表すのがGFRで、腎臓の力の指標となります。もう1つの指標が蛋白尿です。

 CKDの初期にはほとんど症状がなく、健康診断の蛋白尿または、Crの上昇で発見されることが多いです。

 腎機能の指標にはCrやBUN(尿素窒素)がありますが、Crが1以上でCKD、Crが2以上で腎機能は30〜50%、Crが6以上で透析を考慮しますが、CKDの症状が出るGFR 15とは、Crが5~6のレベルです。

 GFR 10の状態というのは、通常100台のポンプで働いている腎臓が、1台ずつ壊れていき、10台しか働いておらず、しかもそれぞれのポンプに10倍の負担がかかっている状態といえます。

 症状が出てきたときにはすでにGFRは15を切っており、腎機能がだいぶ低下している状態となります。さらに、CKDはステージが進むにつれ、進行が早くなります。ですから、腎臓病は早期発見・早期治療が重要となります。

 腎不全の治療として行うものは以下があります。

  1. 1.老廃物の除去
  2. 2.水分(体液量)の調節
  3. 3.電解質のバランス調整
  4. 4.血液を弱アルカリ性に保持
  5. 5.造血刺激ホルモンの分泌
  6. 6.ビタミンDの活性化
  7. 7.血圧の調整
  8. 8.不要になったホルモンの不活化

このうち1~4を透析療法で、5~7を薬物療法で行いますが、腎移植は1~8まで全てが可能になります。

CKDと透析療法

 平成18年のデータによると、CKD患者さんは日本に約1300万人、10人に1人という割合です。さらにCKDが進展すると血圧や心臓に負荷がかかるため、急激に死亡リスクが増大することが報告されています。

 また、透析患者数は32万~33万人といわれていますが、この30年間の増加傾向はものすごく早くなっています。これはCKDになる原因疾患の、糖尿病や腎硬化症のような生活習慣病が増えているからだと考えられます。

 一方、日本の透析患者さんは世界で一番高齢ですが、ADLも買い物に出かけるなどのIADLも保たれています2)

 その背景には、保存期から患者さんを見ていて、維持透析になる前に透析ついての教育を行い、計画的に良好なシャントが作られ、計画的に透析導入が行われること、どこの駅にもよい透析施設があり、どの施設でも看護師や技師が患者さんの指導が行える、自己負担1~2万円で透析が行える医療保険制度など、こうした日本の地道な努力があります。

生体に優しく、社会参画率が高い腹膜透析

 透析療法には現在、血液透析(HD)と腹膜透析(PD)があり、それぞれ長所と短所がありますが、海外と比べ、日本では圧倒的に血液透析が多いのが特徴です3)

 なぜ日本では腹膜透析の実施が少ないのでしょうか。その理由の1つとして日本の血液透析が世界的にも優れていることがあげられます。

 腹膜透析の良さには、以下のようなものがあり、必要な医療であることは間違いありません。

  1. 1.患者さんの満足度が高い
  2. 2.患者さんが社会復帰しやすい
  3. 3.高齢者にとって緩徐で優しい透析であるがゆえに心臓への負担が少ない
  4. 4.自分の腎臓が生かせる必要な医療であることは間違いありません

 特に2の点においては、血液透析の場合、患者さんは導入直後に4割の人が仕事を辞めているのに対し、腹膜透析は自由度が高いために仕事を辞める人は約10%で、患者さんの社会参画率は非常に高いといえます。

 また、2000年以前の透析液は酸性で、ブドウ糖の濃度が高く、腹腔内に入れると刺激が強すぎたという問題がありましたが、現在では透析液は中性になり、ブドウ糖は低濃度か、ブドウ糖を使わない透析液が出るなど、改善されています。20年前に比べ、圧倒的に生体に優しい透析液になっています。

 日本では医師や看護師に「腹膜透析は大変で難しい」という認識があり、専門家がいないために、こうした腹膜透析のメリットが患者さんに伝わっていません。

腹膜透析の今後の課題

 医師や看護師に対し、「腹膜透析を普及するためにはどうしたらいいか」という、アンケート調査を実施したところ、「診療報酬や政策誘導による経済的メリット」という回答がトップでした。

 また、2016年にNPO法人 腎臓サポート協会が行った腎臓病患者さんへのアンケートで、「もし透析が必要となった場合、治療についてどのように決めたいか」という質問に対し、9割近い患者さんが、「療法選択を自分で決定したい」と回答しました。

 そこで日本腎臓学会や日本透析医学会ら5学会合同で「腎不全 治療選択とその実際」という療法選択ツールを作り、全ての療法をきちんと説明することを義務づけました。

 「経済的メリット」という点では、学会として「診療報酬をつけてほしい」と声を上げた結果、平成30年度診療報酬改定の基本方針に、「適切な腎代替療法の推進」が盛り込まれ、「腹膜透析や腎移植の推進に資する評価」として、腎代替療法に対して積極的に行っている施設に対して保険点数が加えられました。

 今後も透析医療に関し、「高齢者、在宅透析患者の対策」、「透析患者の社会復帰支援」、「適切な透析医療費の維持」、「在宅透析療法の推進」、「透析医療へのIoT、AIの導入」などに取り組んでいきたいと考えています。


【引用・参考文献】
1)日本腎臓学会,編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン.東京医学社,2012,p.7.
2)S.Vanitia Jassal,et al:Functional Dependence and Mortality in the International Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study(DOPPS).AJKD 2016;67:p.283-92.
3)Bruce M Robinson,et al:Factors affecting outcomes in patients reaching end-stage kidney disease worldwide:differences in access to renal replacement therapy,modality use,and haemodialysis practice.The Lancet com Published online 2016:36(16);p.30448-2.

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