いま話題のビュートゾルフって何だろう?
- 公開日: 2018/9/20
オランダの「在宅ケア」の約60%を占め、世界中で注目されている在宅ケア組織「ビュートゾルフ(Buurtzorg)」。このビュートゾルフをモデルとした訪問看護の提供が日本でも始まっています。とはいえ、「ビュートゾルフって何?」と思うナースも多いのではないでしょうか?
そこで、ビュートゾルフ型の訪問看護に取り組んでいる馬場愛子さんに、話を聞きました。
Q. ビュートゾルフ(Buurtzorg)とは何ですか?
A. オランダの地域看護師 Jos de Blok(ヨス・デ・ブロック)氏が、2006年に創業した非営利の在宅ケア組織です。
当時、オランダでは1人の利用者さんに対して、多くのケア事業者が入れ替わり立ち替わりするような細切れの看護や介護が提供されていました。それは利用者さんにとって本当に幸せなのか――そこで、「看護師がケアマネジメントも含めて、看護と介護を包括的に提供していこう」という考えのもと、立ち上げられました。
Q. なぜ世界中で注目を集めているのですか?
A. ビュートゾルフは4人の看護師のチームで始まりましたが、いまやオランダの「在宅ケア」の約60%を占めるまで、急速な成長を遂げています。本部が事業所の設立をサポートするかたちで増え続け、2016年現在、約890チーム、約10,000人の看護師が活躍しています。
また、2014年度の利用者満足度では、全国で1位、従業員満足度では全産業中トップです。さらにオランダの診療報酬では、ある一定のレベルに達したビュートゾルフの看護師には、ケアプランを立てることが認められています。つまり、ビュートゾルフの実績がオランダの医療制度を変えていったわけです。こうした成果から、世界的に注目を集めているのですね。
Q. その成功の理由は何だと思いますか?
A. ビュートゾルフの掲げているビジョンは、「Better Care」「Better Work」「Lower Cost」です。これは、地域で暮らす利用者さんと組織で働く看護師の満足度を高めることで、結果として、医療費の削減につなげていく姿です。ビュートゾルフには、そのための方法論やコンテンツが数多くあり、それらを実践して成果を上げている組織だと私は捉えています。
Q. どんなケアが提供されているのですか?
A. ケアについては、利用者さんと地域の看護師の人間的な関係を基盤として、利用者さんの自立を支援することをミッションとしています。看護師がなんでもやるのではなく、利用者さん本人の力を引き出す、もしくは解決策を引き出すために、利用者さんを中心としたインフォーマルネットワーク(家族・親族・地域の人間関係)を最大限に活用していくことを重視しています。
もちろん日本の訪問看護でも、自立支援は重要な役割の1つです。ただ、ビュートゾルフでは初回の訪問時に、看護師が利用者さんにきちんと「私たちは、何でもかんでもやりはしませんよ。やるのはあなたですよ」と、時間をかけてしっかり説明します。
ビュートゾルフカラーの青いウェアがまぶしい馬場さん
Q. 組織や体制にはどんな特徴がありますか?
A. ビュートゾルフには大きな特徴があります。
事業所は、看護師を中心としたスタッフ12名までの小規模のチームで運営されています。本部(バックオフィス)が保険請求業務などの事務を担当しています。そして本部には、現場をサポートするコーチが所属しています。
また事業所には、管理者がいません。社長や役員以外は、バックオフィスの事務職員、コーチも含めて上下の関係はありません。だれでも自由に発言できて、お互いの合意が取れれば、みんな個人の裁量で動くことができるのです。
そのため、普通は管理者が行っているような業務、例えばスタッフのシフトの割り振りなども、それぞれの事業所のスタッフが自分たちで役割を決めて、業務をシェアして行っています。運営上や利用者さんのケアにとって重要な判断が必要になったときには、スタッフが話し合い、全員の合意を得る協議制で決定していきます。
こうしたフラットな自律型のチームのなかでは、スタッフがプライドややりがいをもって働くことができるようになります。それが仕事への満足度や専門性の高いケアにつながっていくと考えています。
出典:http://chiiki-care.com/buurtzorg/より
Q. 日本でビュートゾルフは拡がりそうですか?
A. いま、日本では、地域包括ケアネットワークの構築が推進されています。
個人が裁量をもって専門性を生かして働き、インフォーマルネットワークを最大限に活用して自立支援をしていく、というビュートゾルフの実践は、この地域包括ケアシステムの理念にとてもフィットしていると私は思います。ビュートゾルフの成功事例は、これからの日本において、1つのロールモデルになるのではないでしょうか。
ただ、オランダと日本では、医療制度や看護師の教育体系に違いがあります。例えば、オランダの看護師は、5段階のレベルに分かれており、介護職からスタートします。看護職と介護職が一体型の教育体制になっているのです。また、前述のようにオランダでは、看護師によるケアマネジメントが認められています。つまり、看護師がケアマネジメント、看護、介護を一括して行うことができるのです。
こうした違いがあることから、ビュートゾルフをそのまま日本に持ち込もうとすると難しいでしょう。それぞれの事業所が、地域と協働して行う自立支援やフラットな自律型のチーム運営など、ビュートゾルフの良いところを取り入れて、自分たちの地域に合ったタイプにアレンジしていくと良いでしょう。
それに、私が一番ビュートゾルフに魅力を感じているのは、スタッフ全員が同じ意識や考え方をもって、継続的に訪問看護を提供できるところです。この理由は、統一した理念のもとに方法論とコンテンツが用意されているからです。もちろん日本にも素晴らしい訪問看護を提供している事業所はたくさんあります。しかし管理者やスタッフが変わると、提供する看護も変わってしまうということが多いのです。
そういった意味でも、ビュートゾルフを取り入れることは訪問看護にとってメリットがあると考えています。
Q. 日本でビュートゾルフを取り入れた訪問看護を行うには?
A. ライセンスの提供を受けずに、独自にビュートゾルフの考え方を取り入れている事業所もいくつかありますが、一番早いのはライセンス提供を受けることです。
私たちの事業所では、オランダのビュートゾルフとライセンス契約を結んでいるビュートゾルフサービスジャパンから、日本でのライセンス提供(商標・ロゴの使用)、マニュアルなど運営のためのノウハウやウェブシステムの提供、コンテンツの共有など、さまざまなサポートを受けています。
日本では制度上、管理者が必要であるため私たちの事業所にも存在しますが、管理者とスタッフの関係はフラットであり、スタッフ同士の協議で自律的に運営しています。なかなか協議がまとまらなかったり、ケアの方向性が定まらないときなどには、コーチの支援を受けることができます。さらに、希望があれば、スタッフが本場オランダのビュートゾルフで研修を受けることができるよう準備しているところです。私も来週から研修です。とてもわくわくしているところですよ(笑)。
*次回は、ビュートゾルフ練馬富士見台の実践例をとおし、ビュートゾルフ型の訪問看護を紹介します。