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【連載】看護の力で全人的痛みを緩和する! ~がん患者の緩和ケア~

事例4:倦怠感への緩和ケア

  • 公開日: 2019/1/29

事例詳細

【事例4 強い倦怠感のなかで互いの思いがすれ違う父娘への援助】
<患者情報>
・Dさん、70歳代、男性、胃がんリンパ節転移
・家族構成:長女一家と同居、長女40歳代(キーパーソン)、長女の夫、孫が3人、妻は20年以上前に事故で急逝

<経過>
 Dさんは、20XX年1月、頸部のリンパ節腫脹を自覚し受診、胃がんと鎖骨上リンパ節転移であることが告知されました。TS-1+CDDPによる化学療法を開始し、腫瘍は縮小したものの、悪心・食欲不振、体重減少などの有害事象が強く、CDDPは継続が困難となり、TS-1のみ内服していました。しかし同年7月に原発巣、リンパ節ともに腫瘍が増大し、薬剤は効果なしと判断されました。このとき長女だけにDさんの予後が1カ月であることが伝えられました。Dさんは、体力的に化学療法が継続できなくなり、また通院がつらくなったため、8月に緩和ケア病棟へ入院しました。

 入院時Dさんに痛みなどの症状はなく、食欲が低下していました。「だるい、疲れた」と言うことが多く、急激に病状が悪化していることを自覚していました。主な介護者である長女は毎日面会に来て、スポーツドリンクやゼリー、すりおろしたリンゴなどを差し入れていました。それに対してDさんは、感謝の言葉は伝えていましたが、起き上がることも困難になり、差し入れを口にすることができませんでした。そんなDさんに長女は「全然食べられていない。これじゃ体力も落ちるし、ますます悪化してしまう。頑張って食べないとだめよ」と話すこともありました。またDさんは尿器の使用を失敗することが多くなり、看護師に「おしっこが増えてしまうから水は飲みたくない」とも話していました。


患者アセスメント

 Dさんは、がん発見時にはすでにリンパ節転移まで症状が進んでおり、手術もできないことを告知され、強い衝撃を受けたものと思われます。副作用に苦しみながらも、化学療法に望みをかけ、一時は腫瘍が縮小したものの、体重減少や体力低下、腫瘍の増大などにより化学療法は効果なしと判断されました。Dさんは緩和ケア病棟へ入院までの半年ほどの短期間に、何度も絶望や不安、期待、悲しみを経験していました。そしてそれは家族も同様であり、私たち看護師はそのことを念頭に置き、Dさんと家族のケアを行っていく必要があると考えました。

 緩和ケアを必要とする患者を支援するには、患者の苦痛を身体的、精神的、社会的、スピリチュアルの4つの側面からトータルペインとして理解する必要があります。Dさんに現れていた倦怠感には、腫瘍の増大による臓器への器質的な圧迫や、がん悪液質による食欲低下と低栄養、脱水、体力の低下、予後への不安、思うように身体を動かすことができないことによる落ち込み、家族に負担をかけたくないという思いなど、さまざまな要因が関連していると考えられました。

 キーパーソンである長女は、Dさんを懸命に励ましていましたが、時に強い口調で飲食を勧める場面もありました。一方Dさんは長女の思いに十分に応えられず、父娘の思いがうまくかみあっていないように見えることがありました。そこで今一度家族と一緒に、Dさんの病態とそれに伴って出現している症状を整理し、Dさんと家族が穏やかに過ごせるにはどうしたらよいかを考える必要がありました。

■課題・問題点の抽出

1 Dさんが望む療養生活を送ることができるよう目標を明確にする
2 倦怠感をがん関連症状として認識し、家族と共有する必要がある
3 家族の思いを尊重しながらDさんが心地よいと感じられるケアを一緒に考えていく必要がある

課題・問題点への対応

1. Dさんが望む療養生活を送ることができるよう目標を明確にする

 Dさんの主症状は倦怠感と食欲不振で、徐々にADLが低下しており、将来的には疼痛やその他の症状が現れてくる可能性もありました。必要時には、苦痛に対する症状緩和を行うことを前提とした上で、Dさんがどのような療養生活を望んでいるのかを確認する必要がありました。Dさんは、「娘や孫が来てくれるのは嬉しい」「だんだん起き上がることもつらくなってきた。今は横になっているほうが楽」「少しでも悪化を緩やかにしたい」と言っていました。

 そこでDさんと話し合い、排泄や清潔ケアなど身の回りのことは看護師が援助し、体力の消耗による苦痛を最小限にすることにしました。一方で家族の面会はDさんにとって喜びや楽しさを感じられるかけがえのない時間であることから、温存したエネルギーは家族との大切な時間に費やすこととし、活動と休息のバランスがとれるよう配慮しました。

2. 倦怠感をがん関連症状として認識し家族と共有する必要がある

 痛みなどの激しい症状と異なり、倦怠感は「この病状なら仕方ない」などと過小評価されてしまうことがあります。しかし、がん関連倦怠感は病状が進むにつれて多くの患者さんに出現する症状で、さまざまな要因が関連しています。

 長女は、倦怠感を訴えるDさんに対して「頑張って」と励ましていましたが、その一方でつらそうな父親を見て、長女自身もつらい思いをしていると思われました。そこで長女には、Dさんの倦怠感は病気によるもので頑張っても楽にはならないことや、症状の原因などについて理解してもらう必要があると考えました。そして看護師同席のもと医師から長女に対し、Dさんの症状や予後などについて詳しく説明を行いました。病状が進行していくなかで、Dさんの症状が日常生活に及ぼす影響を長女が認識できるように心がけました。

3. 家族の思いを尊重しながらDさんが心地よいと感じられるケアを一緒に考えていく必要がある

 医師から家族に、Dさんの病態や倦怠感ががん関連症状であることを説明されたあと、長女からDさんに対する思いを聞きました。長女は「母は事故で突然亡くなってしまったので、父はしっかりと自分が看取ってあげたい」と話していました。また、自分の子どもの受験も重なり、精神的にピリピリしているとも話していました。

 長女は、子どもたちの母親であり、Dさんの1人娘としても役割を担い、常に強い緊張や疲労感を抱えており、同時に、父親の予後を理解して必死に支えようとする様子がうかがえました。チーム内では、家族が悔いのない看取りができるよう情報を共有し、長女が面会に来たときは積極的に話しかけ、思いを傾聴するようにし、長女には、「1人で抱え込まずに看護師に頼ってください」と伝えました。さらにDさんにとっては家族に会えるときが心穏やかに過ごせる時間であることや、ベッド上でできる清潔ケア、散歩による気分転換など、家族にもできることがあると話しました。

 長女が面会に来たときは、洗髪や足浴、清拭などのケアをするかどうかをDさんと長女とで決めてもらいました。ケアの際は看護師が物品を準備し、「クリームを塗りながらマッサージすると気持ちがいいですよ」などと方法を伝え、長女をサポートしました。休日には長女の夫や孫も面会に訪れ、ベッドごと談話室などへ移動して家族だけの穏やかな時間を過ごしました。Dさんは、娘に負担をかけて申し訳ないと思いつつも、長女が娘としての役割を懸命に果たそうとする姿を、父親としてしっかり受け止め、感謝しているようでした。

倦怠感に対するケアのポイント

 全米総合がんネットワークは、がん関連倦怠感を「がんやがん治療に関係した、最近の活動とは不釣り合いな日常生活を妨げるような苦痛を伴う持続性主観的感覚で、身体的、感情的および認知的倦怠感または消耗感」と定義しています。がん関連倦怠感は、健康な人が経験する倦怠感と違い、激しい活動をしたわけではないのに生じ、休息しても改善せず、持続的なのが特徴です。死期が近づくにつれて発症率は高くなり、終末期にはほとんどの患者が経験します。ただ、倦怠感だけが現れることはあまりなく、痛みに対する鎮痛薬のような明確な治療法もないためか、仕方ないと考えがちかもしれません。しかし、倦怠感は患者のQOLに大きな影響を及ぼすため、トータルペインの症状として身体的・精神的要因をきちんとアセスメントし、対処することが大切です。

 終末期患者の倦怠感にはステロイドが効果を示すことがあります。ただしステロイドはせん妄発症のリスクや長期使用による副作用が問題となるため利益と不利益を十分吟味して使用する必要があります。

 アセスメントの際は、「今もっとも大事にしていることは何ですか」「楽になったら一番したいことは何ですか」などと聞き、その人の価値観を大切にすると、必要なケアや優先順位がみえてきます。踏み込んだ話を聞くのは勇気がいりますが、患者や家族が苦しい思いを吐露するきっかけになる場合もあり、意識して聞くとよいと思います。

 Dさんの場合、入院当初はDさんと長女の言動にすれ違いのようなものを感じましたが、それぞれに話を聞き、双方が家族と過ごす時間を大切にしたいと願っているとわかりました。そこで長女と相談し、Dさんの活動と休息のバランスを考慮しつつ、Dさんが心地よいと感じるケアを行うようにしました。

 家族は、患者のそばに寄り添い同じ時を共有するだけでも重要な役割を果たすことができます。しかし家族はその意義を実感できず、何もしてあげられないともどかしい思いや焦りを感じる場合も少なくありません。看護師はそういった家族の苦悩に共感し、気持ちが揺れ動くことも患者に向き合う大切なプロセスであることを伝えてよいと思います。この事例は、入院から1週間ほどした頃、眠るDさんのベッドサイドで長女が静かに本を読んでいる姿を見かけることがあり、2人の間にはとても穏やかな空気が流れていました。倦怠感を重要な症状として捉え、患者と家族とともにケアを考えて実践していくことで、父親に残された時間に長女が寄り添っているという実感をもってもらえたのではないかと思います。


コラム 在宅の場合はここに注意!
 在宅の場合、患者の倦怠感やつらいという訴えをそばで見聞きしている家族のケアはとても大切です。また病院の面会時間のような決まった時間がないため、1日のなかで倦怠感が強くない時間帯を選んで活動やケアをするようにするとよいでしょう。患者は、日常生活動作をすべて1人で行おうとするのではなく、負担の少ない方法に変更したり、ほかの家族や在宅支援スタッフ(訪問看護師や介護ヘルパー)に任せることも必要です。

 倦怠感があっても訴えない人がいるため、表情が冴えない、横になっている時間が長くなった、動きが鈍いなどの様子が見られたら、「だるいですか」「疲れていますか」と聞いてみる必要があります。また倦怠感の訴えは「だるい」だけでなく、出身地や地域特有の言葉で表現されることがあるので、意識的に症状を聞くことが大切です。

参考文献

●NPO法人日本緩和医療学会編:専門家をめざす人のための緩和医療学.南江堂,2014.


この記事はナース専科2018年11月号より転載しています。

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