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~国内28年ぶりの新薬発売。今こそHAEの早期診断・早期治療を~ 「未診断患者ゼロへ HAEとは」

  • 公開日: 2019/4/4

2018年12月7日に東京丸の内、コンファレンススクウェアにて、シャイア―・ジャパン株式会社によるメディアセミナーが開催されました。国の定める指定難病の一つである「遺伝性血管性浮腫(HAE)」の治療薬として、28年ぶりに新薬が発売されたのに伴い、HAE治療の第一人者である九州大学別府病院院長・堀内孝彦先生の、「HAE~希少疾患HAE診断・治療の現状と新薬の果たす意義~」と題した講演をレポートします。

遺伝性血管性浮腫(HAE)とは

 遺伝性血管性浮腫(以下、HAE)は、名前の意味から病態を知ることができます。HAEとは遺伝性(Hereditary)で、常染色体優性遺伝形式をとり、遺伝の確率は50%で男女差はありません。血管性(angio)浮腫(edema)とは、炎症を起こした「血管」から水分が漏れ出て「浮腫」を起こすということを表しています。

 この血管性浮腫は突然に起き、通常は2、3日、最長1週間ほどでほぼ消失します。限局性、非対称性に体内の一部分に生じ、眼瞼や口唇、喉頭、消化管に生じやすく、嚥下困難、咽頭絞扼感、嗄声、発声不能、呼吸困難感などが出現した場合には喉頭浮腫を疑います。

 原因はほとんどの場合、補体C1インヒビターの異常(欠損)によるものですが、最近、これ以外の原因でもHAEが起こることがわかってきました。

 発症年齢は多くは20歳までですが、問題は診断までの年数がデータでは平均19年、ひどい人は40数年かかることもあります。2017年ですら、医師の9割がどのような疾患かよく知らないと答えており、まだまだ疾患の認知度が低いといえます(図1)。

図1 HAEの認知度
認知度調査
調査期間:2017年4月10日〜4月16日
有効回答:4110人(回答者はすべて医師専用コミュニティサイトMedPeerに会員登録をする医師)
調査方法:10万人以上の医師(国内医師の3人に1人)が参加する医師専用インターネットコミュニティサイト「MedPeer」の会員医師を対象に、シャイアー・ジャパン社が「遺伝性血管性浮腫(HAE)」についてアンケート調査を実施。

 HAEの三大症状は「皮膚、粘膜浮腫」、「消化器症状」、「喉頭浮腫」です。皮膚、粘膜症状は、初期には「ピリピリする」といった違和感のみで、通常は蕁麻疹は伴いません。消化器症状としては腹痛、嘔気・嘔吐、下痢などがあります。特に腹痛はしばしば激烈で救急外来を受診することがあり、女性の場合は生理痛と診断されることも多いです。

 また、最も危険なのは喉頭浮腫により窒息することです。Bork Kらの発表によると、咽頭浮腫の発作が0回である患者さんは約半分いますが、残りの半分は1回以上の喉頭浮腫が起こっており、ひどい人は何十回も起こしています(図2)1)。さらに喉頭浮腫が最大に達するまでの時間は平均8.3時間ですが、中には3~4時間の人もおり、9歳の子どもが20分で窒息で亡くなったという報告もあります2)。これらのことから、いかに早期に診断して治療しなければいけないかということがわかります。

咽頭浮腫を起こした患者さん数
咽頭浮腫を起こした患者さん数
Bork K,et al:Clinical studies of sudden upper airway obstruction in patients with hereditary angioedema due to C1 esterase inhibitor deficiency.Arch Intem Med 2003;163(10):1229-35.より引用

HAEの急性発作の治療薬が我が国で発売

 従来のHAEの治療薬としてC1インヒビター製剤がありましたが、自己注射ができないこと、常備している医療機関が少ないことなどから、早期治療が往々にして困難でした。2018年11月20日、HAEの急性発作に対して用いる新薬が新たに我が国で発売されました。新薬は、浮腫を惹起するブラジキニンを阻害し、レセプターに結合しないようにするという、最後の出口のところを抑える薬です。

 FAST-3試験でも、皮膚または腹部発作の症状が緩和するまでの時間は、プラセボ群と比較して、新薬群で有意に短縮するなど有効性があり3)、有害事象も重篤なものはなく安全性に優れていることが確認されています。
 ヨーロッパで行われた国際共同プロスペクティブ観察研究でも、症状が始まって1時間未満に新薬を投与した場合、1時間以上経過した後に投与した場合に比べ、発作持続時間の有意な短縮が見られました4)。20分でも窒息になる場合がないわけではないため、早期投与ができることが非常に大切です。

 患者さん自身が携行でき、発作時に自己注射できる従来の製剤にない利点がある新薬が発売されたことは、HAEの早期治療に貢献できると考えています。


【引用・参考文献】
1)Bork K,et al:Clinical studies of sudden upper airway obstruction in patients with hereditary angioedema due to C1 esterase inhibitor deficiency.Arch Intem Med 2003;163(10):1229-35.
2)Bork K,et al:Fatal laryngeal attacks and mortality in hereditary angioedema due to C1-INH deficiency.J Allergy Clin Immunol 2012;130(3):692-7.
3)Lumry WR,et al:Randomized placebo-controlled trial of the bradykinin B₂ receptor antagonist icatibant for the treatment of acute attacks of hereditary angioedema: the FAST-3 trial.Ann Allergy Asthma Immunol 2011;107(6):529-37.
4)Maurer M,et al:Hereditary angioedema attacks resolve faster and are shorter after early icatibant treatment.PLoS One 2013;8(2):e53773.

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