訪問看護とは|訪問看護ステーションを開業する要件・開業するまでの流れ
- 公開日: 2019/5/22
訪問看護とは?
訪問看護とは、疾患や障害を抱えている人に対し、その人の住まい(居宅)において看護師が行う療養上の世話、または診療の補助をいいます。
居宅は自宅に限らず、施設なども含みます。利用者の生活の場と捉えるとよいでしょう。指定居宅サービス基準等第59条が示すように(表1)、利用者が住み慣れた地域で暮らすために、さまざまなサービスを提供します(表2)。
■表1 訪問看護の事業における基本方針
(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第59条)
■表2 訪問看護で提供するサービス
(株式会社介護NEXT提供資料をもとに作成)
訪問看護のサービス提供は、病院・診療所と訪問看護ステーションの両者から行うことが可能です(図1)。訪問看護ステーションから訪問看護を提供する場合は、医師からの「訪問看護指示書」(後述)が必要となります。
■図1 訪問看護のサービス提供元
社保審-介護給付費分科会第142回(H29.7.5) 参考資料
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000170290.pdfを改変
解説者からのメッセージ
現在は、在院日数が短縮され、患者さんは完治しなくても在宅へと移行する時代。患者さんが家に戻ったあと、どう生活していくのか――生活が積み重なれば、人生になります。つまり、患者さんの人生に関心を寄せて、患者さんの生活の場で看護師としてかかわることができるのが訪問看護です。
そもそも看護は、看病という言葉があるように生活の中にある家族機能の一つとしてありました。親が子どもの健康を見守るように、‶見守る″ということが看護の原点だと思います。ただし、単なる見守りではなく、看護の専門家として病状や療養生活を見(看)守ることが訪問看護です。訪問看護は看護の真髄を発揮できる仕事だと私は思います。
訪問看護ステーションとは
訪問看護を中心に提供する事業所です。介護保険の指定訪問看護事業所として、都道府県知事(または政令市・中核市市長)の指定を受ける必要があります(指定申請)。介護保険の指定を受けると、医療保険の指定訪問看護事業所としてもみなされ、介護保険・医療保険の双方からサービスを提供することができます。
訪問看護ステーションの設置は、医療法人や社団・財団法人などの団体や企業などの営利法人が設置主体になる場合と看護師などによる独立開業の形態をとる場合があります。
訪問看護ステーションを開業するための要件
法人設立
看護師が訪問看護ステーションを独立開業する場合、株式会社、NPO法人などの法人格を得る必要があります。
すでに法人格がある場合、定款の目的に訪問看護事業を記載するといった変更が必要になります。
人員配置基準
●必須要件
・保健師、看護師または准看護師
保健師、看護師または准看護師を常勤換算で2.5人以上(うち1名は常勤)、配置が必要です。 つまり、最低限でも3名の看護師が必要となります。
ワンポイント
常勤換算とは、事業所の週の所定労働時間をもとにして行います。例えば、週40時間勤務が常勤1人とする場合は、週20時間の者は、0.5人となります。32時間以下の場合は32時間を基準として考えます。
・常勤管理者
管理の職務に従事する常勤管理者の配置が必要です。常勤管理者は、1.0として常勤換算できます。
常勤管理者は、「専従かつ常勤の保健師または看護師であって、適切な指定訪問看護を行うために必要な知識及び技能を有する者」と定められています。
また、管理上の支障がない場合は同一事業所内の他の職務、または同一敷地内の他の職務との兼務が可能です。実際に訪問看護ステーションの多くでは、常勤管理者が通常の訪問看護業務も兼務しています。
ワンポイント
常勤管理者としての試験はありませんが、管理者は、原則、医療機関において看護等や訪問指導の経験があり、必要な知識と技術を有し、適切な管理運営を図ることができるものでなければなりません。
●必要に応じて配置できる医療職(※必須要件ではない)
・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士による専門的なリハビリテーションを訪問看護として提供できます。ただし、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、常勤換算には含まれません。
●助産師
医療保険の扱いで、助産師によるサービスを提供することができます。健康保険法の指定訪問看護事業のみを行う場合は、助産師も常勤換算の2.5人に含むことができます。
訪問看護ステーションの設備基準
●専用の事務室
事業の運営を行うために、必要な広さを有する専用の事務室。※何平米以上といった広さの規定はなし
●必要な設備及び備品等
・利用者の個人情報を保護するためのカルテ庫
耐火性があって鍵がかかるもの。
・利用者からの相談に応じられる面談室
個室ではなくてもパーティションで区切るなど、他者に顔や声がもれない配慮がされているスペース。
・手洗い場(感染予防)
・その他
事務机・椅子、面接室用のテーブル・椅子、パソコン、プリンター、電話機、FAXなど。
ワンポイント
施設基準は、それほど厳しいものではありません。他の事業所と共有しているステーションや居宅の一部を事業所にしているステーションもあります。その場合、パーティション等で仕切り、専用区画として事務所を確保する必要があります。
運営基準
以下のような法律に準拠した運営基準を満たす必要があります。
<サービス提供・援助>
・サービス提供内容の説明・同意
・サービス提供拒否の禁止
・サービス提供の記録
・サービス提供困難時の対応
・サービスの選択に資する重要事項の掲示
・同居家族に対する訪問看護の禁止
・居宅サービス計画に沿ったサービスの提供
・居宅サービス計画等の変更の援助
・法定代理受領サービスの提供を受けるための援助
・要介護認定の申請に係る援助
・心身の状況等の把握
<報酬関連>
・受給資格等の確認
・利用者に関する市町村への通知
・保険給付の請求のための証明書の交付
・利用料等の受領
<連携について>
・居宅介護支援事業者等との連携
・主治医との連携
・地域(市町村)との連携
・居宅介護支援事業者に対する利益供与の禁止
<書類の作成・管理>
・訪問看護計画の作成および訪問看護報告書の作成
・記録の整備
<運営関連>
・運営規定の整備
・指定訪問看護の基本取扱方針(事業者・管理者の債務を含む)
・勤務体制の確保
・会計の区分
<緊急時などの対応>
・緊急時の対応
・苦情処理・事故発生時の対応
<その他>
・身分を証する書類の携行
・衛生管理
・秘密保持
(株式会社介護NEXT提供資料より)
指定申請
訪問看護ステーションとして、都道府県等から指定を受けるためには、各種書類の提出が必要です。指定を受ける都道府県によって、書式は多少異なります。
また、申請手順にも違いがあります。例えば、東京都の場合は申請にあたり、新規指定前講習を受講する必要があります。
●各種書類
【申請書】
・指定居宅サービス事業者(所)指定申請書
【付表】
・訪問看護・介護予防訪問看護事業所の指定にかかわる記載事項
・訪問看護・介護予防訪問看護事業を事業所所在地以外の場所で一部実施する場合の記載事項
【添付書類】
・申請者(開設者)の定款または寄付行為の写し
・登記事項証明書(3カ月以内のもの)
・従業者の勤務体制および勤務形態一覧表
・資格が必要な職種の資格証明書
・組織体系図
・就業規則
・雇用(予定)証明書
・管理者経歴書
・管理者の資格証の写し
・事業所の平面図
・事業所の写真(外観・内観)
・事業所の案内地図
・備品一覧表
・土地・建物の賃貸貸借契約書等の写し(事業所が賃貸である場合)
・運営規定
・財産目録
・事業計画書
・収支予算書
・決算書
・利用者の苦情処理を講ずる措置の概要
・損害賠償保険証の写し
・病院・診療所・薬局・特養の使用許可証の写し
・契約書・重要事項説明書
・欠格事由に該当していない旨の誓約書
・関係法令を遵守する旨の契約書
・管理者等一覧表
・介護保険給付費算定に係る体制等に関する届出書
・介護保険給付費算定に係る体制等状況一覧表
ワンポイント
必要書類や申請の手引きなどは、各都道府県等のWEBサイトで確認・ダウンロードすることが可能です。
訪問看護ステーション立ち上げの手順
開業の理念を定める
訪問看護ステーションの開業には、前述したようにさまざまな要件を満たす必要があります。これらを踏まえたうえで開業の準備を進めていかなければなりません。
しかし大前提として、まずは、「どんなステーションにしたいか」という理念が重要です。ここが定まっていないと、どのエリアで、どのくらいの規模で、どんな人材を採用して、どんな体制にし、どんな機能をもつステーションを開業するのかといった具体的なビジョンがみえてきません。
解説者からのメッセージ
最初から、高い診療報酬が得られる機能強化型訪問看護ステーションを立ち上げるのは、難しいかもしれません。また現在、24時間365日体制のニーズが高まっています。最低限の人員要件でも可能ですが、スタッフの休日がとりにくくなる、依頼が重なると対応が困難になるなどの問題があり、ある程度の人員を確保する必要があります。
機能強化型のステーションを目指したいのであれば、はじめは小規模ステーションから始めて、徐々に規模を広げていくというプランを立てるとよいでしょう。一方で、小規模ながらにも、特定の分野に特化したステーションや、ニーズに応えて多機能展開しているステーションもあります。すべては開業者の理念次第です。
開業までの流れ
指定申請時には、申請書類の内容をみてもわかるように、事業所、人員、資金など、‶もう開業できる″というところまで準備が進んでいなければなりません。
基本的には、開業の時期を定めて、そこからスケジュールを組んでいくとよいでしょう。指定申請により、指定居宅サービス事業所の指定を受ければ、晴れて開業となります。指定申請から指定が下りるまでは、約2カ月間を要します。書類などに不備があれば、その分時間がかかることになります。
■図2 開業までの流れ(例)
開業準備
●資金調達
資金の額は、開設場所や規模によって異なってきます。自己資金だけでは足りない場合は、銀行や福祉医療機構、日本政策金融公庫等から借り入れることが可能です。ただし、貯金がほとんどない状態では借り入れは難しいので、ある程度の自己資金は必要になります。
重要なのは、開業するまでの準備期間に要する資金と、開業してから事業が軌道にのるまでの運転資金です(表3)。前述したように指定申請の要件を満たすためには、開業する前に事業所の確保、スタッフの採用などが必要になり、収入がないにもかかわらず事業所の賃貸料や人件費が発生します。また、開業したとしても、すぐに収入が入ってくるわけではありません。そうした先のことを見通したうえで、資金を用意する必要があります。
■表3 必要な費用の例
ワンポイント
事業所の備品はリサイクル品を活用して、安く抑えるという方法もあります。
●開業エリアの選定
どこに開業するか、エリアの選定はとても重要です。開業したい地域に、どんな人が住んでいて、どんな医療ニーズがあるか、地域住民について把握する必要があります。
また、競合する訪問看護ステーションについて調べることも重要です。ビジネスとして成立することが見込めなければ、エリアを変える必要性も出てきます。
●事業計画の策定
事業計画は指定申請、また金融機関から融資を受ける際にも必要になります。健全な運営をし、安定した収入を得られることを事業計画に反映しなければなりません。
事業計画の策定にあたっては、理念や経営方針を明確にし、事業体制や売上や人員、訪問件数など運営のプランを考えていく必要があります。準備期間から開業、開業から数カ月、さらに半年ごとの短期的なプランと、事業の拡大などの長期的な展望について、計画を立てていきます。
●人材採用活動
看護師や事務員など人材の採用はもっとも肝となるところです。採用活動は早めに進めていきましょう。
理想的なのは、自身のネットワークを活用して、同じような思いをもつ看護師を集めることです。しかしながら、まったく知らない人を採用するよりも信頼感がある反面、一緒に働き始めると経営者と従業員という関係性の変化からさまざまなギャップが生じる可能性があることも考慮すべきでしょう。
自身のネットワークの活用が難しい場合、求人媒体の掲載や人材紹介会社を利用します。その場合には、採用にかかわる費用なども考える必要があります。
●スタッフの教育
採用とともに重要となるのが、スタッフの教育です。準備期間も含め、開業してからも継続的に行う必要があります。特に、訪問看護未経験の看護師には不安が軽減できるよう、座学での研修の他にOJTの実施や同行訪問など手厚い教育が必要となります。
●営業活動
指定居宅サービス事業所の指定を受けたらすぐに、利用者を獲得するための営業活動を開始します。
パンフレットや広告など、地域の住民に開業を周知するとともに、地域のケアマネジャー、診療所や病院の医師を訪問し、開業の挨拶をします。その際は、訪問看護ステーションの理念、強みや特色などをアピールしましょう。
それに加え、地域の訪問看護ステーションが集まるステーション協会に参加して、他の訪問看護ステーションにも開業を知ってもらい、協力を仰ぐことも重要です。私自身の経験上、新たな訪問看護ステーションの開設は他のステーションにとっては競合相手となるのは確かですが、地域住民のために協力する仲間が増えるという思いもあると思います。一緒に協力し合うという姿勢が重要です。
●開業サポートサービスなどの活用
経営の経験がない看護師の場合、事業計画の策定や各種書類の作成はなかなかハードルが高い作業でしょう。現在、費用はかかりますが、開業を支援するサービスなども各業者・団体から提供されています。また、書類の作成などは行政書士のサポートを受けるなど、部分的に支援を依頼するのも一法です。
訪問看護ステーションの管理者の役割とは
訪問看護ステーションの管理者には、訪問看護サービスの質を向上させていくために、ケアの質の管理、職員の管理、安全・衛生管理、訪問看護に必要な書類※の管理など、多くの役割が求められます。
以上のような管理業務の他にも、関係法規・制度を適切に運用し、健全で安定した経営を行うという役割もあります。
※「訪問看護指示書」「訪問看護(療養)費請求書」「訪問看護計画書」「訪問看護報告書」「退院時共同指導説明書」「訪問看護経過記録」など
ワンポイント
各地域の看護協会や一般社団法人全国訪問看護事業協会、公益財団法人日本訪問看護財団などの団体で、訪問看護の管理者研修が開催されています。こうした研修で学びを深めるのもよいでしょう。
管理者の役割におけるポイント
●最も重要なのは人材
よく管理で重要だといわれるのは、「ヒト・モノ・カネ」の管理です。加えて、現在では、時間と情報も上手に管理する必要があります。
中でも最も重要なのが、人材の管理です。人材こそが看護の質であり、人員の要件を満たさなければ、休業せざるを得なくなります。
人材は一番の財産であり、スタッフを第一顧客と捉えることが重要だと私は考えています。そのうえで、育成のための教育、労働環境の整備、多様な働き方に対応した勤務体制の提供などを行う必要があります。
●先の見通しを立てる
どの商売でも、ニッパチという言葉が示すように2月8月は売上が下がるといった、次期によって売上の増減があります。訪問看護ステーションでも、利用者が増える時期、減る時期があります。運営していくなかでこうした傾向を把握し、さらに利用者の状態の変化を予測して先の見通しを立てていくことが、経営では重要となります。
●学んでいくという姿勢が大切
今や病院と在宅の医療の違いは手術の有無というくらい、在宅でも高度な医療処置が提供できる時代です。どんなに経験がある看護師でも、初めての医療処置やケアはあるものです。わからないことはわからないと認め、新しいことを学び、時には医師に教えてもらうといった謙虚な姿勢が大切です。
訪問看護指示書とは
介護保険、医療保険ともに訪問看護を提供するには、訪問看護指示書(図3)が必ず必要となります。主治医から交付され、看護師はその内容にしたがって訪問看護を行います。
図3 訪問看護指示書
出典:厚生労働省ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken15/dl/2-22-1.pdfより
利用者に継続的な訪問看護を提供するためにも、この訪問看護指示書を切れ目なく交付してもらうことが重要です。指示期間は、最長6か月までです(記載がない場合の指示期間は1カ月)。
多忙な業務の中、訪問看護指示書の交付が滞ってしまう医療施設もあります。指示期間をしっかりと管理し、滞っているようであれば、期限が切れるまえに依頼できるようにしておきましょう。
患者さんの病態によっては、訪問看護指示書の他に、特別訪問看護指示書、在宅患者訪問点滴注射指示書、精神科訪問看護指示書が交付される場合があります。
●特別訪問看護指示書
主治医が診断の結果、急性増悪・終末期などの事由により、週4回以上の頻回の指定訪問看護を、一時的に行う必要性を認めた場合、利用者の同意を得たうえで、訪問看護ステーションに対し、原則として1か月に1回を限度として特別訪問看護指示書を交付できます。医療保険の対応になります(介護保険を利用している場合は医療保険に切り替わります)。
●在宅患者訪問点滴注射指示書
週3日以上の点滴注射を行う必要があり、訪問看護ステーションに対して指示を行う場合に交付します。
●精神科訪問看護指示書
訪問看護ステーションが精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)~(Ⅳ)およびその加算を算定する場合に交付する訪問看護指示書です。
※現在(Ⅱ)は廃止されています。
引用・参考文献
1)社保審-介護給付費分科会第142回(H29.7.5) 参考資料
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-SanjikanshitsuShakaihoshoutantou/0000170290.pdf
2)厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkouiryou/iryouhoken/iryouhoken15/dl/2-22-1.pdf