【連載】COPDとは全く違う! 知ってる? 間質性肺炎の看護
間質性肺炎とは?|原因、分類、診断
- 公開日: 2019/6/30
呼吸困難のある患者をケアするとき、いつも「どうしたら早く楽になるだろう」と考えますよね。特に間質性肺炎の患者は低酸素による症状が強いため、ほかの呼吸不全患者と同じようにケアしても、症状もSpO2もなかなかよくならず「何が違うのかなぁ」と悩んでいる人が多いのではないでしょうか。
実際、COPD(閉塞性肺疾患)と間質性肺炎(拘束性肺疾患)の病態は全く違うのですが、どちらも長期化し「慢性呼吸不全」と呼ばれるため混同されやすい疾患です。そのうえ、有病率で比較すると40歳以上で10万人あたり8,600人以上いると予測されているCOPD 1)と違い、人口10万人あたり10人2)強の患者数である間質性肺炎は稀な疾患なのです。
今回の特集では、患者数が少ないながら症状のつらい間質性肺炎の病態、薬物療法、非薬物療法および、長期療養を見据えた看護について、COPDとの違いを考えながら学べるように企画しました。ボリュームたっぷりですが、明日からのケアに役立つ情報を求めて、ぜひ読み切ってください。
原因・分類
間質ってどこ?
細菌性肺炎は「気管支に細菌が侵入して肺胞内に炎症細胞が集まってきた状態」のことをいいます。では、「間質性肺炎は?」というと「間質に炎症細胞が集まり、線維化を生じる状態」のことを指します。では、そもそも「間質」がどこのことなのかわかりますか? 間質性肺炎は非常に難解で、かつ難治性です。このやっかいな疾患を理解するために、まず「間質」をイメージすることから始めましょう。
気管は、肺へと伸びる途中で分岐して気管支となり、肺の内部でさらに細かく分岐して最終的にブドウの房のような形の肺胞になります。その肺胞の表面を通じてガス交換が行われています。この肺胞同士が隣りあう壁の部分(正確には肺胞表面を覆う肺胞上皮を除く)を「間質」と呼びます(図1)。間質内には毛細血管が走行しており、肺胞の表面から間質を通じて血管内に酸素(O₂)が取り込まれ、血管内から肺胞内へ二酸化炭素(CO₂)が移動することによりガス交換が行われています。
間質が線維化し厚みが増すことにより、肺胞から血管内へのO₂の移動が障害されます。特に、労作時に頻脈を生じると、O₂が血管内へたどり着く時間よりも血管内の血流速度が速くなり、O₂の取り込みが減少し、労作時低酸素血症を生じやすくなります。また、間質の線維化により、肺胞、ひいては肺全体が膨らみづらくなり、膨らんでもすぐ戻るカチカチの固い肺となります。
筆者は患者にこの病気を説明するとき、正常な肺を普通のスポンジに、間質性肺炎をヘチマのスポンジに例えています。ちなみに、慢性呼吸器疾患のもう1つの代表格である慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は、肺胞構造が破壊されたスカスカの目の粗いスポンジに近いかもしれません。
間質性肺炎が起こる理由
間質性肺炎は、薬剤(健康食品、サプリメントを含む)やリウマチなどの膠原病のほか、職業性の曝露(アスベストなど)、居住環境(鳥やカビなど)が原因となり、引き起こされることがあります。このようにさまざまな原因が可能性として考えられるため、探偵になった気分で詳細な問診をとる必要があります。そうして原因が特定された間質性肺炎は、それぞれ、薬剤性肺障害、膠原病肺、じん肺、過敏性肺炎などと呼ばれます。一方、原因が特定できない間質性肺炎は、間質性肺炎のうち6割程度とされ、特発性間質性肺炎と呼ばれます。
特発性間質性肺炎の分類
欧米のガイドライン3)によると、特発性間質性肺炎は、進行速度や喫煙関連か否かという観点で、特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)、特発性非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitialpneumonia:NSIP)、呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患(respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease:RB-ILD)、剥離性間質性肺炎(desquamative interstitial pneumonia:DIP)、特発性器質化肺炎(cryptogenic organizing pneumonia:COP)、急性間質性肺炎(acute interstitial pneumonia:AIP)の6つに分けられています。
これらのうち、臨床現場で出合う最もメジャーなものは特発性肺線維症(IPF)なので、まずはこの病名だけ覚えてください。IPFは、ゆっくりと間質の線維化が進む病気です。これ以降の項目はIPFを想定して話を進めます。
見極め方と診断の流れ
症状での見極め方
間質性肺炎の軽症例は、無症状のために健診での胸部X線異常で発見されることもありますが、進行してくると、咳や呼吸困難がみられます。COPDでは痰の絡む湿性咳嗽(しっせいがいそう)を認めますが、間質性肺炎の場合は、痰は絡まない乾性咳嗽(かんせいがいそう)が出ます。黄色痰などの膿性痰が絡む場合は、細菌感染を合併している可能性もあります。呼吸困難は労作時に認めることが多く、呼吸困難の程度はmMRCスケール(修正MRCスケール)で客観的に表現されます(表)。
IPFの場合は、咳や呼吸困難が3カ月以上続き、緩徐に進行するとされます。一方、IPFの患者では、発熱の出現や、数日~週単位での咳や呼吸困難の悪化は後に述べる急性増悪の徴候であることが多いため、注意を払う必要があります。そのような症状があった場合には、早めに病院に受診するよう普段から指導しておくとよいでしょう。
身体所見での見極め方
IPFは、COPDのように視診で疾患の存在を予測することは難しいですが、ばち指の存在はヒントになります。ばち指は図2に示すような特徴的な爪の変化で、慢性に経過するIPFでは3割程度にみられます。
また、聴診すると吸気終末に捻髪音(ねんぱつおん)(fine crackles)が聴取されます。捻髪音は間質性肺炎に比較的、特異性のある所見です。肺底部領域でしっかりと深呼吸してもらうと聴き取りやすくなります。捻髪音とは、その名のとおり、髪の毛の束を指で擦ったときに生じる細かいチリチリといった音で、マジックテープをはがすときのベリベリとした音にも似ていることから別名ベルクロラ音*とも呼ばれます。末梢気道が吸気時に広がる音を反映しており、肺炎や心不全のときに聴取される水っぽい水泡音よりも乾いた印象です。
*マジックテープのことを英語圏ではベルクロ(velcro®)という
画像での見極め方
さて、間質が線維化し固くなった肺は、胸部X線やCTではどのようにみえるのでしょう。胸部X線では、陰影の分布と肺の大きさに着目します。間質性肺炎では左右のどちらかにだけに病変がみられるというケースはまれで、大半は両側に認められます。肺尖部側か肺底部側のどちらに病変が強いかは、間質性肺炎の種類により異なりますが、IPFでは、肺底部側および胸膜側(つまり外側)から線維化が起こり、胸部X線ではすりガラス状や網状の陰影が認められます。線維化した部分が縮むため肺全体の容積が減少します(図3)。これらの変化は数カ月~年単位で進行します。
CTの評価の際には、1つ注意が必要です。病変をより正確に評価するには、高分解能CT(highresolution CT:HRCT)によって、2㎜以下のスライス厚で画像を再構成する必要があります。このHRCTでみると、線維化の前段階の炎症が強い時期や、線維化の早期段階ではすりガラス様にみえます。また、特に線維化の進んだ部分は肺胞の形が壊されて、蜂の巣のように大きな穴が集ぞくしているように見えるため、蜂巣肺(ほうそうはい)と呼ばれています(図4)。
肺機能検査での見極め方
息の吸いやすさや、吐きやすさを調べるのが肺機能検査(スパイロメトリー)です。この検査で測定できる項目の1つに、肺活量(VC)があります。これは、空気を胸いっぱいに吸い込んだ状態からゆっくり最後まで息を吐き切ったときの量のことで、性別、年齢、身長から求めた標準値に対して、測定値が80%以下であれば拘束性障害といいます。
間質性肺炎では、肺が固くなり容積が減少した状態を反映して、この拘束性障害をきたします。肺活量を定期的に追跡し、減少度合いが早ければ、それだけ肺の縮みがひどいということで、IPFにおいて予後不良の徴候とされています。ちなみに、努力肺活量(FVC)というのもありVCと似ていますが、最大吸気位から一気に息を吐き切ったところまでの量のことです。FVCも同様にIPFの進行の指標になります。VCが先に低下するのがIPFで、FVCが先に低下するのがCOPDです。
診断の流れ
IPFの診断について、図5のフローチャートを参考にして考えていきましょう。間質性肺炎を疑う患者がいたら、前述したような原因がないか詳細な問診をとり、身体診察を行います。
原因が明らかでない場合、HRCTで両肺底部・胸膜直下優位に蜂巣肺を認めるのであれば、IPFの可能性が高くなります。HRCTで蜂巣肺を認めないなど、IPFに典型的でない場合には、気管支鏡検査で気管支肺胞洗浄(bronchioalveolar lavage:BAL)や経気管支肺生検(transbronchial lung biopsy:TBLB)を行い、情報をそろえます。ですが、TBLBもせいぜい直径2~3㎜程度の組織しか採取できません。もっと多くの情報を得たいのであれば、より大きな組織を採取する目的で、全身麻酔下で胸腔鏡を用いて行う外科的肺生検を検討する必要があります。しかし、外科的肺生検は患者の身体への負担が大きいため、メリットがデメリットを上回ると考えられる場合に行います。追加で行った検査も踏まえたうえで、臨床医、画像診断医、病理医がディスカッションを行い、診断を行うことが理想的です。
イラスト/カミヤ マリコ
引用文献
1)日本呼吸器学会:特発性間質性肺炎.(2018年5月25日閲覧)http://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?contentid=20
2)日本呼吸器学会:慢性閉塞性肺疾患(COPD).(2018年5月25日閲覧)http://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?contentid=12
3) Travis WD,et al:An official American Thoracic Society/European Respiratory Society statement:Update of the International multidisciplinary classification of the idiopathic interstitial pneumonias.Am J Respir Crit Care Med 2013;188:733-48.
この記事はナース専科2018年7月号より転載しています。
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