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国民皆保険の持続性とバイオシミラー ~バイオシミラーの基礎から普及への課題まで~

  • 公開日: 2019/5/30

11月15日に東京大手町のKDDIホールにて、ファイザー株式会社によるバイオシミラーに関する記者説明会が開催されました。バイオシミラー(以下、BS)とは、バイオ医薬品(先行バイオ医薬品)の後続品で、近年注目され、政府もBSの開発・使用の推進を掲げています。記者説明会では、「将来の医療におけるバイオシミラーの意義」と題した、東京女子医科大学膠原病リウマチ内科学教授(当時)の山中寿先生の講演と、「バイオシミラーに関する政策と課題」と題した、浜松医科大学医学部附属病院薬剤部教授・薬剤部長の川上純一先生の講演が行われました。その講演についてレポートします。


将来の医療におけるバイオシミラーの意義ー山中 寿先生

バイオ医薬品の登場で、リウマチ診療が変わる

 バイオ医薬品の定義は「有効成分がたんぱく質由来である薬、あるいは細胞、ウイルス、バクテリアなどの生物から産生される物質に由来する薬」であり、バイオ医薬品は生命を脅かす重篤な疾患や慢性疾患の治療薬として、医療の現場を変えてきました。

 関節リウマチは、全身の関節に慢性的な炎症が生じ、内臓を侵され、生命にかかわる疾患であること、どの民族も人口の0.5~1%が罹患し、80%が女性で、どの年代にも起こり得る人類が等しくかかる可能性のある疾患です。

 バイオ医薬品(生物学的製剤)が作られ、それらを使うことで、今まで治療できなかった患者さんを治療できるようになり、寛解が現実的な治療目標になるなど、リウマチ診療が変わりました。

 東京女子医科大学病院膠原病リウマチ痛風センターの6000人の患者さんを対象にしたアンケート調査(2000~2017年)では、重症が20%から1%へ減少し、寛解が8%から50%を超えるなど、過去18年間で疾患活動性が変わりました。

 変化の理由として、メトトレキサートを用いた標準治療が一般的に行われるようになってきたことと、2003年から出てきたバイオ医薬品が使われるようになってきたことが挙げられます。

 一方でバイオ医薬品は高額であるために、医療費の自己負担額も増加傾向にあります。日本リウマチ友の会が出している「2015年リウマチ白書」では、「現在、不安に感じていること」に対し、患者さんの約3割が経済的不安を抱えているという結果が出ました。

 バイオ医薬品は複雑な工程が必要で、開発費が相当かかり、治療費にも反映されています。しかし、バイオ医薬品にもジェネリック医薬品と同じ立場にあたるBSがあります。

 後発医薬品であるジェネリック医薬品とBSの違いは、BSは臨床試験が必要なために、同じ効き目が確認されていることに対し、ジェネリックは臨床試験が不要な点で、BSの厚生労働省の定義は「先行バイオ医薬品と同等、同質の品質、安全性、有効性を有する医薬品」となっています。BSは先行医薬品と同等・同質を確認することが大切なため、ガイドラインも作られています。

 BSの意義は、薬価が下がることによって、治療をしなければならない人が治療できることが一番大きく、BSの積極的活用により、治療効果を損なわずに医療費の自然増を抑制することができるため、官民をあげて取り組む必要があると考えます。

バイオシミラーに関する政策と課題ー川上純一先生

バイオシミラーを使うことで、正の循環を生み出す

 バイオ医薬品とBSに関する日本の政策には、2017年と2018年の政府の「骨太方針」があります。2017年では2020年9月までに、後発医薬品の使用割合を80%とし、初めてBSにも具体的な目標が言及されました。また、2018年の方針の中にも、バイオ医薬品の開発推進を図ることと、BSについても有効性・安全性の理解を得ながら、研究開発・普及を推進することが挙げられています。

 2040年までの人口構造の変化から、将来の社会保障給付を見通すと、介護ほどではないが、医療費が伸びていくことが予測され、その対策として内閣府の「2040年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現を目指す」ための政策や、厚生労働省の薬価制度の抜本改革に向けた基本方針が挙げられます。

 また、各国の後発医薬品の数量シェアを見ると、日本では長期収載品に依存する傾向があるといえます。国内バイオ医薬品・抗体医薬品市場の推移では、医薬品自体は医療費約40兆円の約2割と、医療費に占める薬剤比率はほぼ一定ですが、その中で特にバイオ医薬品の占める割合がすごく上がっているのが、ここ最近のトレンドです。

 厚生労働省のバイオ医薬品開発促進事業では、日本ではBSだけでなくバイオ医薬品の両方を普及させていくことを考えており、バイオ医薬品とBSを正しく理解してもらうために、日本病院薬剤師会が協力し、全国8ブロックで計12回にわたり、講習会を開催しています。

 平成28年度の調査研究の「医師のBSの処方に関する考え」では、状況さえ整えば、BSを積極的に使ってもいいと考えていることがわかりました。さらに薬剤師の「BSの採用に関する考え方」では、52.3%が薬の種類によってBSを積極的に採用しているという結果が出ました。

 政策・医療経済からみたBSの意義は、①薬価が低いこと、②患者個人の医療費負担の軽減、③国全体の医療費の削減、④医療保険者の負担軽減、⑤医療提供施設の薬剤購入費の削減、などが挙げられます。そして、何よりもバイオ医薬品そのものが促進されて、イノベーションが進むということは、患者さんや国民がイノベーションの恩恵に預かることができ、その点では、社会にとってのメリットが大きいといえます。BSを使うことで国民皆保険制度が維持され、治療薬を待たれる患者さんに新たな治療薬を届けられるという正の循環を生み出す、そのような意義があると思います。

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