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【連載】脳神経外科看護のQ&A! 皆さんの疑問にお答えします!

くも膜下出血後の脳血管攣縮予防薬「クラゾセンタンナトリウム(ピヴラッツ®点滴静注液150mg)」。注意すべき副作用と管理のポイントが知りたい!

  • 公開日: 2025/10/21

Q.くも膜下出血後の脳血管攣縮(スパズム)予防として、クラゾセンタンナトリウム(ピヴラッツ点滴静注液150mg)を使用しているのですが、副作用も多く、管理が難しいと感じています。注意すべき副作用と管理のポイントを教えてください。
A.特に注意すべき副作用に体液貯留があり、管理では積極的な水分摂取量の制限が必要です。

クラゾセンタン(ピヴラッツ)とは

 クラゾセンタンナトリウム(ピヴラッツ点滴静注液150mg、以下、クラゾセンタン)は、くも膜下出血後の合併症である脳血管攣縮(スパズム)の予防に用いられるエンドセリン受容体拮抗体薬の1つです。血管収縮作用をもつエンドセリンの働きを抑えることで、脳血管攣縮の発生を抑制します。

 脳血管攣縮の発現のピークは、くも膜下出血発症5~14日後とされていますが1)、添付文書によると、クラゾセンタンは、くも膜下出血発症から48時間以内(くも膜下出血の術後早期)を目安に投与を開始し、くも膜下出血発症15日目まで投与するとされています。

特に注意すべき副作用と管理のポイント

体液貯留に特に注意

 クラゾセンタンは、脳血管攣縮の発症予防に対し高い効果が期待される一方で、体液貯留(胸水、肺水腫、脳浮腫)、頭蓋内出血、硬膜外血腫といった重大な副作用が起こるリスクがあり、慎重な管理が求められます。中でも、特に注意深く、厳重な管理を必要とするのが体液貯留です。

 これまでの脳血管攣縮予防では、脱水を避けることが重要とされてきました。しかし、クラゾセンタンは強力な体液貯留作用をもち、水分摂取量が多くなると体液貯留に拍車がかかり、病態の悪化につながります。そのため、クラゾセンタンも含めた点滴量だけでなく、食事や飲水など経口による水分摂取量も合わせた水分量をチェックし、積極的に水分摂取量を制限します。

 ここで認識しておきたいのが、クラゾセンタンを投与する場合、点滴量だけで1日408mLにも及ぶことです(添付文書における用法では、クラゾセンタンは生理食塩液500mLで希釈し、17mL/時の速度で24時間投与するとある)。施設によりプロトコールは異なるかもしれませんが、当院では、患者さんの食事摂取状況に応じて、以下を目安に水分摂取量を調整しています。

●食事摂取ができている患者さん:クラゾセンタンを含め1日あたり500~1,000mL
●食事摂取ができていない患者さん:クラゾセンタンを含め1日あたり1,000~1,500mL

 食事が摂取できないと点滴量が増加し、体液コントロールがさらに難しくなります。加えて、くも膜下出血後は栄養障害を起こしやすく、感染症の発症や認知機能に影響が及ぶ場合もあります。看護師としては、早期に経口摂取が可能かどうかを評価し、食形態などについて医師や管理栄養士、言語聴覚士と連携して検討・調整を行っていきます。

 くも膜下出血の術後は検査や治療で慌ただしく、検討・調整を進めるのが難しい側面もありますが、栄養管理という観点からだけでなく水分管理の点からも、栄養摂取方法をアセスメントすることの重要性を看護師が理解し、積極的に介入していくことで、病態のコントロールにつなげます。

 なお、くも膜下出血の重症度によっては、経口摂取が困難な場合もあります。その場合は、経管栄養や中心静脈栄養なども選択肢として検討しましょう。

体液貯留の症状の観察

 クラゾセンタン投与後は、胸水、肺水腫、脳浮腫といった体液貯留の症状を注意深く観察し、体液貯留の発現を早期に発見することが重要となります。

胸水・肺水腫

 胸水・肺水腫の発現のピークは脳血管攣縮よりも早く、クラゾセンタン投与開始から胸水・肺水腫が発現するまでの日数の平均値(中央値)は、コイリング術で6.1日(5.0日)、クリッピング術では5.2日(5.0日)となっています2)、3)、4)、5)。この時期は、胸部レントゲン検査や血液検査などの検査所見を確認しつつ、以下の点を観察します。

【観察ポイント】
・臨床症状:呼吸苦、息切れ、乾性咳嗽、喘鳴、胸痛など
・呼吸状態:呼吸回数、深さ、パターンの変化、努力呼吸の有無など
・体重:体重増加(体液貯留の傾向)など
・血中酸素濃度:SpO2、PaO2の低下
・中心静脈圧(CVP):圧上昇の有無

脳浮腫

 クラゾセンタンのもう1つの重要な副作用として脳浮腫があります。脳浮腫が増悪し、頭蓋内圧が亢進する場合には、早期に減圧開頭に踏み切ることも検討されます。神経所見の観察に加え、ドレーンが挿入されている患者さんにおいては、頭蓋内圧や排液量などについてもチェックする必要があります。

【観察ポイント】
・神経所見:意識レベル、反応の変化、麻痺の出現・悪化、瞳孔不同など
・頭蓋内圧の変化:頭蓋内圧センサーの値、脳室ドレーンの排液量、性状の変化、頭蓋内圧亢進症状(頭痛、悪心・嘔吐)など

遅発性脳血管攣縮(DCI)に注意! クラゾセンタンは、添付文書においてはくも膜下出血発症15日目までの投与とされていますが、投与終了後に、遅発性の血管攣縮を起こす例もあります。投与が終了してからも、神経所見の変化に十分注意し、患者さんの状態を慎重に観察します。

引用・参考文献

1)A G Harders,et al:Time course of blood velocity changes related to vasospasm in the circle of Willis measured by transcranial Doppler ultrasound.J Neurosurg 1987;66(5):718-28.
2)承認時評価資料:脳動脈瘤によるくも膜下出血のコイリング術後患者を対象とした第Ⅲ相試験.
3)承認時評価資料:脳動脈瘤によるくも膜下出血のクリッピング術後患者を対象とした第Ⅲ相試験.
4)Endo H,et al:Effects of clazosentan on cerebral vasospasm–related morbidity and all-cause mortality after aneurysmal subarachnoid hemorrhage: two randomized phase 3 trials in Japanese patients.J Neurosurg 2022;137(6):1707-17.
5)ネクセラフォーマジャパン:ピヴラッツポケットガイド,p.9.(2025年9月25日閲覧) https://www.door.nxera.life/wp-content/themes/wp-nxera/assets/pdf/pivlaz_pocket-guide.pdf
●ネクセラファーマジャパン:ピヴラッツ点滴静注液150mg 添付文書.(2025年9月25日閲覧) https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/150923_2190418A1023_1_02

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