急性骨髄性白血病の現状と課題と最新の治療
- 公開日: 2019/7/16
2018年9月6日丸ビルホール&コンファレンススクエアにて、アッヴィによる血液がんメディアラウンドテーブルが行われました。テーマは「「急性骨髄性白血病」の現状と課題と最新の治療」です。講演は獨協医科大学 内科学(血液・腫瘍)教授 三谷絹子先生と、特定非営利活動法人 血液情報広場・つばさ 理事長 橋本明子さんです。
まず、三谷先生が「急性骨髄性白血病治療におけるアンメットメディカルニーズと今後への期待」をテーマに講演されました。
固形がんとは? 造血器腫瘍とは?
一般的に「がん」という言葉を聞いて連想されるのは、特定の部位に発生する固形がんであることが多いと思います。実際に、国立がん研究センターの統計(部位別のがん罹患率・死亡率)1)では上位を固形がんが占めており、造血器腫瘍の割合は少ないことがわかります。
固形がんと血液腫瘍を比べると診断方法は、固形がんが組織生検という侵襲度の高い検査が必要であるのに対し、造血器腫瘍は採血などの侵襲度の少ない検査で診断が可能です。また化学療法や分子標的療法の効果は、固形がんよりも造血器腫瘍のほうがあるとされています(表1)。
表1 固形がんと血液腫瘍
AMLは意外と身近な病気かもしれない
今回の講演のテーマとなっている急性骨髄性白血病治療(以下AML)は、造血器腫瘍のうちの1つです。人間の身体の中では、造血幹細胞が分化を繰り返すことでさまざまな血球を作り出していますが、造血器腫瘍はそのメカニズムに異常を引き起こします。
AMLの発症率は10万人に5人ほどといわれていますが、多くの疾患と同様、年齢とともに発症率は上がり80歳男性では10倍程度になります。
AMLに罹患するということとは
AMLとは体細胞が変異する遺伝子の疾患であり、変異の種類によって病態や予後が変わります。幹細胞が分化を繰り返すいずれかの過程で遺伝子変異が起き、細胞が正常に分化、成熟しないまま無制限に増殖します。
正常造血が行われないことにより、貧血や免疫力低下、出血などの症状が現れます。また、白血病細胞の増殖により、発熱やリンパ節・肝臓・脾臓の腫大をがみられ、これらの症状が急激に進むことも特徴です。検査には末梢血検査と骨髄検査などがありますが、骨髄検査をもって確定診断となります。
AML治療の基本戦略
WHO分類では、AML(分類中では「急性骨髄性白血病および関連前駆細胞腫瘍」と表記)を6つに分けており、染色体・遺伝子異常ごとの生存率もわかっています。患者さんがどのような染色体異常を持っているかを確認することは治療戦略をたてるためにも重要であり、患者さんの予後にも大きくかかわるため、治療開始時に把握しておくことが大切です。
・特定の遺伝子異常を有するAML
・骨髄異形形成関連の変化を有するAML
・治療に関連した骨髄性腫瘍
・特定不能のAML
・骨髄肉腫
・ダウン症候群関連骨髄増殖症
WHO 分類改訂第 4 版(2017)より引用
AMLの治療の際、若年者は標準的治療の適応となり寛解を目指すのに対し、高齢者は合併症などで臓器に障害があることも多く、抗がん剤の減量や支持療法を選択することになります。しかし、若年者であっても全ての人に抗がん剤が効くわけではなく、抗がん剤投与後に予後が不良の場合は、同種造血幹細胞移植に進むことになります。
アンメットニーズと分子標的療法
再発難治例、高齢者、長期生存率・治癒率の向上など、通常のAML治療でカバーできない分野は依然として残されており、分子標的療法への期待が高まっています。分子標的薬とは、化学療法とは違い腫瘍細胞のみを攻撃できる副作用の少ない治療で、低分子化合物と抗体医薬の2種類があります。日々新たな薬剤が承認されており、国内でもいくつもの分子標的薬が開発中です。2017年には米国で、AMLで最も頻度が高く予後不良な、FLT3変異に対する分子標的薬が承認(国内未承認)されました。分子標的療法と免疫療法(抗体薬)により、今後の白血病の治療が更に進歩することが期待されます。
続いて橋本さんが「待ち続けている患者の声~期待される急性骨髄性白血病の治療~」をテーマに講演されました。
橋本さんは、NPO法人血液情報広場・つばさを設立し、現在は理事長をされています。主な活動は情報提供、電話相談、つばさ支援基金などで、医療者を交えてのフォーラムなども積極的に行っています。
橋本さん自身も長男を白血病(CML)で亡くしましたが、その当時は(1986年)治療法も救済制度も何もありませんでした。厚生省への訪問、70万人分の請願書提出などの活動の結果、1991年に日本骨髄バンクが開始します。現在では登録ドナー数509,263人(2019年3月末)、非血縁移植者23,002件(2019年3月末)と広く認知されるようになった骨髄バンクですが、患者さんが真に求めているのは骨髄バンクそのものではなく「治療選択肢」であると橋本さんはいいます。
つばさでは、電話相談などで患者さんの想いに向き合い、意思決定の支援をしています。大抵の場合、がんの告知は急で、少なからず戸惑いや整理できない思いが生まれます。また、混乱している状態で医療者の説明、治療方針を理解することは困難です。「素人」の目線で「プロ」との向き合い方を共有しています。
患者さんに少しでも情報を。そんな思いで2018年も、つばさは全国各地でフォーラムを開催しました。
【引用・参考文献】
1)国立がん研究センター がん情報サービス(2019年7月8日閲覧)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html