5.CPAP治療の導入時の面接指導とマスクフィッティング
- 公開日: 2020/3/22
CPAP治療を開始することになった患者さんに対して、どのような説明が必要になるのかを解説します。
事例
追突事故を起こしたAさんは、S病院の内科で検査を受けて睡眠時無呼吸症が疑われました。以前より高血圧と高血糖も指摘されています。医師から睡眠時無呼吸症を放置することによって、高血圧や糖尿病が悪化するだけでなく脳血管疾患の危険性が高まると説明されてPSG検査を受けました。その結果、AHI=25回/時の中等症と診断され、CPAPが処方されます。
Aさんは高校から文系で、器械の操作には苦手感があるようです。医師の診察と処方箋の作成が終了したので、これから具体的なCPAP治療の説明を受けることになりました。
導入までに必要なこと
CPAPの治療を受けることが決まったら、下記のような手続きが必要です。
①機材をレンタルするための書類上の手続き
②マスクフィッティング
③機材の操作方法と治療の進め方の説明
④トラブル時の対応方法と今後の診療についての説明
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療を受ける患者さんは概ね理解力の良好な成人が多いとはいえ、例えば動作不良の場合には連絡するとか、治療を中断するなど機材が必要なくなった場合には速やかに返却するなど、常識的な範囲での責任が伴うことをあらかじめ説明します。
問診とマスクの選択
マスクの種類を説明すると「口を開けて寝てしまうから鼻だけのマスクはきっと使えない」といわれることがよくあります。まず、問診で鼻腔の閉塞があるかどうか確認します。問診の内容として、鼻腔の通気がない方は睡眠中だけでなく、覚醒しているとき(本を読んでいるときなど)でも口を開けて呼吸しますので、日中も口呼吸かどうかを確認してください。最近体重が増えてSASが悪化したというような方では、悪化に伴って口呼吸が増悪している可能性もあるので「子供のころから口呼吸ですか」と質問すると、生まれつきの鼻腔の通気障害の有無を確認することができます。
口呼吸が気になる場合や慢性的な鼻炎がある患者さんには耳鼻科の受診を勧めます。鼻腔通気試験という検査や、適切な治療を受けることでCPAPが快適に使えるようになることも多いです。
マスクフィッティング
適切なマスクフィッティングのためには、肌に接する面ができるだけ少ない形のマスクを基本として、患者さんの希望に合うマスクを選択します。鼻だけのマスクや、鼻腔に当てるピロー型といわれるマスクが一般的です。可能であれば数種類を試用して、患者さん自身で選んでいただいた方がその後の取り扱いにも責任感が生まれます。
ネーザルマスク
ネーザルマスクの特徴は、マスク部が比較的小さいことです。鼻と口を覆うマスクと比較すると強めの圧力が必要な場合でも空気漏れが少なく使用できます。また、マスクと皮膚が接触する面積が小さいため接触性皮膚炎や蒸れなどの皮膚トラブルも起こりにくくなります。例えば下のマスクはマスク部のサイズが5種類あります。小さすぎるとマスクの内側が鼻翼にあたり、大きすぎると空気漏れしやすかったり、体を動かした際にずれやすくなりますので確認しながら調節します。
ある程度合わせたら試運転用のCPAP機材に接続し、一番弱い圧力で運転して風を感じてもらいます。敏感な患者さんは「吸いすぎる」「息が吐けない」等、訴えることがあります。その場合には、「軽く吸って―、鼻からゆっくり吐いて―」のように何回か声掛けして合わせてもらいます。多少の抵抗があっても呼気できることがわかったら、そのまま横になってもらって様子を見ることも効果的です。
装着時に空気漏れで頬や目元に風を感じるようであれば、ベルトを少し(5mm位)ずつ調整してください。また、このような試運転であまり乗り気でない場合でも、使い方の説明(後述)によっては導入できる場合が多いので、「上手ですね」とほめて終わりにします。
●ドリームウィスプ ネーザルマスク(フィリップス)
写真提供:株式会社フィリップス・ジャパン
ピロー型マスク
ピロー型マスクは軽くて肌への接触が少ないことが強みです。睡眠中に頭部をどのくらい動かすかは患者さんそれぞれなので、使ってみないと評価は難しいのですが鼻腔に接触する部分と支えるベルト部分と、両方の感触が良いことが長期に使用するうえでは重要です。下記のマスクは鼻腔に触れる部分の柔らかさが特徴です。睡眠時無呼吸症の症状が重い方はCPAPの作動する圧力が高くなりますので、肌に強めに押し付けても違和感が少ないことをチェックして選択します。
●AirFit® P10 マスク(テイジン)
提供:帝人ファーマ株式会社
フェイスマスク
フェイスマスクは24時間口呼吸が主である患者さんに適用になります。接触部分は大きくても鼻と口を覆うことで口呼吸を可能にします。鼻腔の形態によって通気がない患者さんだけでなく、アレルギー症状などで一時的に口呼吸が難しくなる場合にも使います。肌への接触面が大きいため空気漏れが多いことやそれをなくすためにベルトを締めすぎて発赤や医療関連機器圧迫創傷発生の危険があることが注意点です。フルフェイスマスクも数種類ありますので、患者さんのお顔の形にあったものを選ぶことが大切です。また、CPAPはもともと少量の空気漏れを許容するタイプの器材なので、空気漏れの量をデータで確認して多少の漏れは容認することでベルトの締めすぎも防ぐことができます。
●アマラフルフェイスマスク(フィリップス)
写真提供:株式会社フィリップス・ジャパン
使い方の指導
次に、機械の使用方法を説明します。このとき、患者さんの理解度や認知機能に応じた説明を心がけます。CPAPは比較的シンプルな医療機器ですが、機械が苦手な患者さんにとっては医療機器を自宅で使うというだけで負担になります。患者さんの受け止め方を見ながら説明内容を調整することも必要です。
特に、加温加湿器を使用する場合には結露への対策が必要です。ホースが結露する場合、少量であれば布団の中(パジャマの真上のところ)にホースを通すことでかなり改善します。また、加温加湿器に入れた水が機械部分に流れ込まないようにすること、定期的に乾燥させたり交換してカビの発生を防ぐことなどにも注意しましょう。
最後に、治療を始めるにあたり初日から理想的な使い方や、自覚症状の劇的な改善が望めるとは限らないことを伝えます。安定した使用ができるようになるまでに数カ月かかる場合もありますし、CPAP使用時間もはじめから長く使える人ばかりではありません。
初めの数日はマスクをつけて布団に入り、30分から1時間くらい呼吸を合わせてみるつもりで過ごし、その間に眠れなかったら外して翌日試す、というやり方でもよいと思います。マスクをつけて眠れないということに過度に敏感にならず、だんだん慣れてきたら「いつのまにか眠っていた」という感じになる方が自然に導入できます。
トラブルは治療開始後1カ月がもっとも多く報告されています。つまり、治療開始から初めての受診までの間にいろいろな問題が起こるということです。そのため、患者さんが心配になったり使用が困難となった場合に相談できる窓口を伝えておくことが大切です。相談は「日中使わないときは電源を抜いてもよいのか」というような簡単な質問から、「夜中にマスクの脇から風がでて目が覚める」というような、改めてマスクフィッティングが必要な複雑な問題までいろいろです。まずは電話やメールなどで相談できる窓口を案内し、病院で受診しなければ解決できないような内容かどうかを見極めて対処できるような体制作りが求められます。
事例つづき
わかりました。とりあえず明日の夕方届いたらCPAPを使ってみます。何か気になったらコールセンターに電話すればいいんですよね。
こう言って、Aさんは看護師と一緒に選んだ自分用のマスクをもって帰宅しました。
次回はその後のAさんのフォローアップについてみていきましょう。