脳死の判定基準
- 公開日: 2020/1/6
1. この基準は何を判断するもの?
脳死とは、脳幹を含む脳のすべてに不可逆的なダメージが加わることで機能が停止する状態を指します。心臓は拍動を続けているものの自発呼吸がなく、人工呼吸器を装着しても近い内に心停止に至るのが一般的です。
日本において、「死」は「心拍動の停止」・「自発呼吸の停止」・「対光反射の消失・瞳孔散大」の3徴候に基づき判定しています。これに準ずると脳死は「死」とされませんが、臓器移植法では臓器を提供する意思がある場合に限り脳死を「死」と認めています。
脳死は法律上定められた「死」であり、一般的な概念における「死」と異なります。そのため、脳死に至っているか否かは極めて慎重に判定する必要があります。そこで厚生労働省は臓器移植を前提とした脳死判定の際には厳重な基準を定め、なおかつ「判定者は脳死判定に関して豊富な経験を有し、かつ臓器移植に関わらない医師2名以上で6時間をあけて2回判定を繰り返す」とのルールを設けています。
2. 判定基準はこう使う!
脳死判定は、病気や事故などの外傷に対する治療中に臨床所見や検査所見から脳死が疑われ、なおかつ臓器提供の意思を示している患者さんに対し臓器移植を前提として行います。脳死が疑われる状態とは、器質的脳障害によって深昏睡状態や自発呼吸の消失を認め、かつ器質的脳障害の原疾患の確定診断が行われていること、原疾患に対するすべての適切な治療を施しても回復の見込みがないと考えられるものです。
ただし、急性薬物中毒、低体温、代謝・内分泌障害など脳死と類似した状態になりうる患者さん、知的障害者など臓器提供の意思確認が難しいケースに対し脳死判定は行いません。対象が18歳未満の場合は、虐待の疑いがないことも確認します。
判定項目は
・深昏睡(JSC:300、GCS:3)
・瞳孔の固定・瞳孔径が左右とも4mm以上
・脳幹反射(対光反射・角膜反射・毛様脊髄反射・眼球頭反射・前庭反射・咽頭反射・咳反射)の消失
・脳波平坦
・自発呼吸の消失
の5つにわたり、6時間以上の間隔をあけ2回判定を行います。いずれの判定でも項目を満たす場合のみ脳死と判定し、臓器移植に向けた調整が開始されるのです。
除外例
・脳死と類似さいた状態になりうる症例(急性薬物中毒、代謝・内分泌障害)
・知的障害等の臓器提供に関する有効な意思表示が困難となる障害を有する者
・被虐待児、または虐待が疑われる18歳未満の児童
・年齢不相応の血圧(収縮期血圧)
・低体温(直腸温、食道温等の深部温)
・生後12週未満(在胎週数が40週未満であった者にあっては、出産予定日から起算して12週未満)
3. 脳死判定について看護師が知っておきたいこと
実際に法令に基づいた脳死判定を行うのは脳神経外科医など脳死判定に長けた医師と定められています。しかし、医師以外のスタッフも、脳死とされうる状態ではどのような徴候が認められるかを知っておく必要があります。特に臓器提供の意思がある患者さんの場合、速やかに脳死判定を進めるべきであり、臓器移植に向けた体制を整えていかなければなりません。バイタルや状態を確認する際、脳死判定の基準を満たしていると考えられる患者さんがいる場合はできるだけ早く医師に報告するようにします。家族への対応も必要となるため、自身の施設では臓器移植に関する手順がどのようになっているのかも確認しておきましょう。
また、本人・家族ともに臓器提供の意思がない場合であっても脳死判定基準を満たす患者さんは数日以内に心停止に至る可能性が高いため、状態の変化を慎重に観察することも大切です。
参考文献
1)厚生労働省:脳死判定基準概要「法的脳死判定マニュアル」(平成 11 年度厚生科学研究費「脳死判 定手順に関する研究班」)より抜粋.(2019年12月9日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/04/dl/s0405-4h.pdf
2)脳死判定基準のマニュアル化に関する研究班:法的脳死判定マニュアル.(2019年12月9日閲覧)https://www.jotnw.or.jp/files/page/medical/manual/doc/noushi-hantei.pdf