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【連載】酸素の上げどき?下げどき?

上げとくの? 下げとくの? −医師はこう考え、こう動く−

  • 公開日: 2015/2/14

酸素の上げ下げについて考えていきましょう。


Q. 医師によって、酸素の上げ下げの指示もまちまちで、投与中の患者さんに対してどのように上げて、下げるべきかイマイチはっきりしません。

A. [Doctor’s Comment]
ズバリシンプルに言い切ります。酸素療法は多くの場合がメリットとなりますが、ある病態の患者さんにはそれが悪い結果を引き起こすことがあります。その病態を考慮した場合には低酸素血症にならない正常範囲下限から正常領域程度でコントロールすればよいと考えてください。
一般的にはSpO2 90~95%程度。重度の慢性呼吸不全の患者さんはSpO2 90弱~94%程度です。


Doctor’s Commentをより理解するために、事例をみながら医師がどう考えているのかを解説していきます。

CASE 結核に対する胸郭形成術を施行されている88歳男性 施設入所中で重度のヘビースモーカー。かかりつけ医より労作時のみ在宅酸素療法1Lが処方されている状態であった。
今回発熱は認めなかったが、数日前より痰の量の増加があり、SpO2 87%(室内気)とのことで救急搬送となった。身体所見では気管の短縮、胸鎖乳突筋の肥厚を認め、全肺野で両側のWheezeを聴取。精査の結果、COPD急性増悪として、研修医の判断で気管支拡張剤吸入とステロイド投与開始、 並びに酸素投与開始となった。
ところが夜間に痰が上手く出せずにSpO2 83%まで低下していることを担当看護師が発見、夜間指示には具体的な指示はなく適時酸素アップ可という指示のみであった。呼吸が苦しそうであったことから、酸素をマスクで5ℓ投与開始したところ、穏やかそうになったため経過を見ていた。
しかし、朝のオムツ交換時に呼吸停止状態で発見。CO2ナルコーシスの病態になっていた。

このようなCASEのとき、どこで上げ下げを判断すればよいのでしょうか。この事例を踏まえて解説していきます。
キーワードは、CO2ナルコーシス、酸素毒性、SpO2、PaO2、高CO2血症!


下げなければならない状態はコレ!

CO2ナルコーシス

 CO2ナルコーシスを呈するのは、多種多様の基礎疾患が考えられます。一般的には慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎)、間質性肺炎、結核に対する胸郭形成術後など肺に気質的疾患がある場合や、神経筋疾患による換気不全があります。
 
 症例を振り返って見てみましょう。COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪であるという情報があります。CO2ナルコーシスをわかりやすく例えると、これらの患者さんは慢性的な酸素不足の状態にあり(金欠に例えると頑張って働いても貧乏な状態ですね)、そこで大量の酸素をもらったら(1億円宝くじが当たったことにしましょう)急に働くことが嫌になって辞めてしまったような状態です。故に、慢性的な呼吸不全の場合には必要以上の酸素投与は特に危険です。このような病態を踏まえてどのように対応したらよいのでしょうか。

 最近の文献からオススメの提案をしてみましょう。上記のような慢性呼吸不全の患者さんの最適SpO2目標は90弱〜94%程度(PaO2 60〜70Torr)とされます2)。また、可能であればベンチュリーマスクを利用し、FiO2(吸入酸素濃度)は4%から7%程度ずつ徐々に上げて、PaO2とPaCO2を血液ガスで測定することが望ましいです。もし鼻カニューラを使用する場合は、1L/分ずつ注意して様子を見ながら増量することが重要です3)。たとえ、症例のように医師の指示で自由にUp可など記載があったとしても、CO2ナルコーシスを起こしそうな病態には注意してください。

CO2ナルコーシス 看護師はどこに着目すべき? 現場の看護師がこのような慢性的な呼吸障害の患者さんを受け持ったときにどこに着目すべきか!? そこが問題です。答えは病歴・既往歴・喫煙歴・身体所見です。病歴では50mを歩けない程度の労作時の呼吸苦、慢性的な咳嗽等の症状と職業で炭鉱やアスベスト等の曝露がないかの確認をしてください。既往歴では肺がん、肺気腫、結核、喘息、間質性肺炎等を聞いてください。喫煙歴は正直に教えてくれず、誤認されやすいため、生涯の内で何歳から何歳まで平均何本吸っていたかのように問診するとよいでしょう。

 次に身体所見をみてみましょう、視診が重要です! ビア樽状の胸郭やばち指、気管短縮(short trachea)、胸鎖乳突筋の肥厚、フーバー徴候等は慢性的な呼吸不全の指標になります。

 特徴的な所見は、体幹のるい痩、横隔膜の平坦化、滴状心(心臓が縦長に細くなってしまっていること)が多いので今度このような患者さんを受け持ったときに必ず観察してみてください。医師はこのように複合的な情報と身体所見からCO2ナルコーシスを起こしそうな慢性的な二酸化炭素の貯留がありそうか、酸素投与に注意が必要かを判断しているのです。このような患者さんのSpO2が95%以上と必要以上に多い場合には医師は減量の指示を出すことでしょう。  

酸素毒性

 さて筆者の周囲の現役看護師に聞いてみました。酸素のイメージは酸素カプセルや酸素バーなどの流行から、どうやら医療従事者にも良い印象そうです。

 しかし、文献的には10年前とは随分異なってきております。ある報告でも、高濃度酸素投与により活性酸素が増加し、肺細胞傷害を生じさせることがわかってきています。それらはARDS(急性呼吸促迫症候群)の原因となると同時に、喀痰の自然な排出が上手く行かず、さらに免疫細胞の殺菌力が障害される等のことが起こり、結果的に肺炎の原因となります。

 このような高酸素性肺傷害はPaO2で450Torr以上、またはFiO2で0.6以上とされており、必要量以上の酸素投与と長期投与は無駄なだけでなく、はっきりと人体に害になることが次々と証明されてきているのが現状です4)。つまり現在の医師の基本的な考え方として、積極的に早い段階で過剰な量の酸素投与はなるべく減少させるように努力する傾向があると思います。読者の皆様には原則として酸素投与下でSpO2 100%が許されるのは緊急気管挿管時のみであると思ってもらってよいかもしれません。
 

上げなければいけない状態はコレ!

 酸素を上げるべきポイントとしては、大まかには低酸素血症時がほとんどであると思ってもらってよいです。つまり室内気呼吸下でPaO2<60 Torr、またはSpO2<90%の状態です。ただし、労作時や夜間就寝時のみにSpO2が低下する場合には詳細な観察により原因を評価してください。

 医師の具体的な酸素投与の方針決定として、労作時の低下に対しては医師または看護師が付き添い、SpO2を監視しながら歩行試験などの運動負荷を行います。そのうえでSpO2が90%以上を保つような適切な投与量でオーダーを出します。一方で睡眠時に低下が見られる場合には、夜間のSpO2変動を記録し、夜間のみの適切な最小酸素投与量を決定します。

 また過度にCO2ナルコーシスを恐れる余りに必要なときに十分な酸素投与がされていないケースも散見されます。原則としてSpO2<90は酸素投与の適応と覚えるとよいでしょう。


 ここまで、医師がどのように考えて、酸素指示を出しているかについてお話してきました。

 施設間の差、医師の専門性による見識の差はあるかと思いますが、できるだけ客観性をもってシンプルに説明したつもりです。もちろん、そのオーダーについて疑問があれば、担当する医師に上記の内容を踏まえた上で遠慮なく聞いてみてください。良質な医療は、チームの共通した認識の上に成り立つものですから。

引用・参考文献

1)The impact of introducing medical emergency team system on the documentations of vital signs. Chen J, Hillman K,Bellomo R, Flabouris A, Finfer S, Cretikos M; MERIT Study Investigators for the Simpson Centre and ANZICS Clinical TrialsGroup. Resuscitation. 80,2009,p35-43.
2)Standards for the diagnosis and treatment of patients with COPD: a summary of the ATS/ERS position paper. Celli BR,MacNee W, ATS/ERS Task Force Eur Respir J. 23(6),2004,p932.
3)Initial oxygen management in patients with an exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease. Durrington HJ,Flubacher M, Ramsay CF, Howard LS, Harrison BD. QJM. 98(7),2005,p499.
4)Kallet RH, Matthay MA. Hyperoxic Acute Lung Injury. Respir Care 58,2003.p123-41
5)Kerith S, et al. Clubbing: An update on diagnosis, differential diagnosis, pathophysiology, and clinical relevance. J Am Acad Dermatol 52,2005,p1020-8.
6)García Pachón E. Paradoxical movement of the lateral rib margin(Hoover sign)for detecting obstructive airway disease.Chest. 2002 Aug;122(2),2002,p651-5.

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