1. トップ
  2. 看護記事
  3. 診療科から探す
  4. リウマチ・膠原病科
  5. 全身性エリテマトーデス(SLE)診療の標準化-本邦初SLE診療ガイドライン発行-

全身性エリテマトーデス(SLE)診療の標準化-本邦初SLE診療ガイドライン発行-

  • 公開日: 2020/3/8

2019年10月30日、「本邦初の全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン発行〜SLE診療の現在(いま)医師と患者の立場から〜」をテーマにメディアセミナーが開催されました。現在、日本における全身性エリテマトーデス(SLE)患者数は約6万人とされています1)。ここでは、本ガイドライン作成に携われた北海道大学大学院医学研究室免疫・代謝内科学教室 渥美達也先生の講演をレポートします。

全身性エリテマトーデス(SLE)とは

 全身性エリテマトーデス(SLE)は免疫システムの疾患であり難病に指定されています。自分のからだを攻撃対象として見誤り攻撃をかけてしまうため、各臓器にさまざまな症状が表れます。SLEのポイントは、臨床的多様性が高く、活動性の高い状態が継続するケース、発症しても比較的症状が落ち着いているケースなどその経過はさまざまです。治療に対する反応もそれぞれで、治療によって寛解したり、寛解と憎悪を繰り返したりします。

諸外国のガイドライン

 諸外国では、SLEに関するガイドラインが複数作成されています。
 
 例えば、アメリカリウマチ学会作成のループス腎炎の治療ガイドライン(2012年)は今でもよく使われています。英国リウマチ学会のガイドライン(2018年)は、疾患活動性を「軽症」「中等症」「重症」の3つに分類し、寛解導入療法や寛解維持についてわかりやすくまとめています。このガイドラインの目的は医療費の償還です。SLE患者さんはガイドラインに沿った治療を受けることで医療費支給の対象となります。欧州リウマチ学会のガイドライン(2008年発行2019年改訂)は、システマティックレビューによるエビデンスに基づいた標準治療を示しています。そのため、このガイドラインはヨーロッパ各国ごとに異なる医療事情を必ずしも考慮しているというものではありません。

日本初のSLE診療ガイドライン

 今回の「全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019」は、厚労省自己免疫研究班と日本リウマチ学会の共同作業により完成しました。日本の医療事情に合わせた専門医向けのガイドラインとして、全日本リウマチ学会会員向けに公開。書籍も出版されています。本ガイドラインでは、腎炎、神経精神病変、皮膚病変、血液病変についてはシステマティックレビュー、その他病変についてはナレーテブレビューによって推奨文を作成。推奨の強さは「推奨」「提案」「考慮」の3段階で示しています。

 このガイドラインに掲載されているSLE診療のアルゴリズムでは、「すべてのSLE患者さんにHCQ投与を考慮」となっています。HCQ(ヒドロキシクロロキン)は世界のSLE診療における標準的な薬剤です。そのため、HCQにはSLEの再燃リスクの低下・血栓症リスクの低下・皮膚症状と関節痛に有効性を示すなど、多くのエビデンスがあります。それでも推奨レベルを「考慮」としているのは、長期使用の合併症として網膜症を発症する可能性が挙げられているためです。日本ではまだ使用経験が浅い薬剤であり、日本人に使用することへのリスクについて検証されるまでは慎重な姿勢を示すことになりました。

 妊娠・出産に関連した治療薬の選択についても、まだまだエビデンスは少ないのが現状です。専門医がいつどれだけの抗ループス薬を使用してもよいか、そのコンセンサスを明確に示していく必要があります。

 また、本ガイドラインではSLEの患者さんのモニタリングに関する推奨文も掲載しています。SLEはさまざまな臓器が障害される全身疾患であることから、総合指標として各臓器の状態をモニタリングし評価していきましょう、ということが書かれています。

治療目標は「SLEの社会的寛解の維持」

 現在のSLE治療目標は、生命予後のさらなる改善とともに長期にわたり患者さんの生活の質を落とさないことです。SLEは若年女性に好発する疾患ですが10年生存率は90%以上と非常に高いことがわかっています。本ガイドラインは、患者さんの労働生産性を維持・妊娠出産ができる・家庭生活を送れるなど、SLEでない健常者と何ら変わりない社会生活が継続して送れることを目指し作成されました。SLE診療に関するエビデンスやリファレンスがまとまっており、専門医にぜひ参考にしてもらいたいと考えています。

参考文献

1) 難病情報センター:全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49)(2020年2月14日閲覧)https://www.nanbyou.or.jp/entry/215
2) 日本リウマチ学会編:全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019.南山堂,2019.
3) 日本リウマチ学会:皮膚エリテマトーデスおよび全身性エリテマトーデスに対するヒドロキシクロロキン使用のための簡易ガイドライン2015.10.20版(2020年2月14日閲覧)https://www.ryumachi-jp.com/info/guideline_hcq.pdf

この記事を読んでいる人におすすめ

カテゴリの新着記事

ヘルスケア・イノベーションフォーラム「認知症の早期発見・診断・治療の実現に向けて求められる変化」

2024年10月11日、東京・帝国ホテルの会場とオンラインのハイブリッド形式にて、日本イーライリリー株式会社と米国研究製薬工業協会(PhRMA)が共催する「第7回ヘルスケア・イノベーションフォーラム」が開催されました。 当日は、神戸市長の久元喜造先生による「認知症神戸モデル」の

2024/11/15