ペースメーカーの看護|術前術後の観察項目・注意点・禁忌など
- 公開日: 2020/6/14
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ペースメーカーとは
心臓には、刺激伝導系という自ら神経の役割も果たす特殊な心筋があります(図1)。刺激伝導系には、洞結節からの電気刺激を心臓の収縮・拡張を司る固有心筋(作業心筋、横紋筋)に伝え、拍動として全身に血流を循環させる役割があります。
ペースメーカーとは、刺激伝導系の障害によって起こる徐脈を治療する機器のことです。一拍ごとに自己の心拍を監視し、心拍が欠落した際にペースメーカーで電気刺激を補い、心臓を拍動させます。
図1 刺激伝導系
ペースメーカーの機能
ペーシング
ペースメーカーの本体であるジェネレーターが電気刺激を出す機能のことをペーシング(Pacing)といい、心電図上ではスパイクとして記録されます。心房に刺激を与えて収縮させるのが心房ペーシング(A pacing)、心室では心室ペーシング(V pacing)と呼びます。刺激する電位が弱すぎると心筋は興奮せず収縮しません。心臓を興奮させるのに必要な最も小さい刺激の強さを閾値といいます。
センシング
ジェネレーターが心筋の興奮を感知する機能のことをセンシング(Sensing)といいます。どの程度の電気刺激を感知するかの設定を感度と呼びます。
ペースメーカーの適応・禁忌
適応
めまいや眼前暗黒感、失神などの脳虚血症状、および息切れなどの心不全症状を伴った洞不全症候群、徐脈性心房細動、高度房室ブロック、Ⅱ度房室ブロック、Ⅲ度房室ブロックの患者さんが適応となります。「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」をもとに、慎重に検討されます。
禁忌
禁忌はMRIですが、最近ではMRI対応型ペースメーカーも多くなっています。MRIに対応している機種かどうかを確認することが重要です。
ペースメーカーの看護(観察項目・注意点)
ペースメーカー植え込み術前の注意点
患者さんが安全・安心に手術を受けられるようにするためには、術前のかかわりが大切です。看護師が術前に確認すべき点や、注意を要する点について解説します。
情報収集
術前の情報収集として、バイタルサイン、心電図波形、採血データ、アレルギー(造影剤や消毒薬など)の有無、末梢静脈ラインの部位、植え込み部の皮膚の状態および感染の有無、手術歴(左乳房切除)、植え込みに対する不安の程度、シャントの有無、義歯の有無、利き手などの確認が必要です。末梢静脈ラインの留置位置
ペースメーカーは原則、左前胸部に留置し、末梢静脈ラインは左前腕に留置します。左前腕に末梢静脈ラインを留置するのは、末梢静脈ラインから造影剤を投与し、腋窩静脈、鎖骨下静脈を確認するためです。また、リード挿入の際に補液を増量することで、リードを挿入しやすくなります。
シャントが造設されている患者さんや手術後(特に左乳房切除)の患者さんでは、末梢静脈ラインを左前腕に留置できない場合があることから、確認が必要です。
COPD、SASの患者さん
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)や睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)の患者さんにも注意します。COPDの患者さんは高流量の酸素投与により高二酸化炭素血症になる危険性があり、SASの患者さんは皮膚切開時の鎮静薬の使用によって、気道狭窄を起こす可能性があります。
不安への対応
ペースメーカー植え込み術に対して不安が強い場合は、共感・受容的な態度で傾聴し、その理由をアセスメントします。精神的動揺が激しい場合は、伝えられた事実を正確に理解し、受け入れることが困難となり、医療者が伝えたことが頭に入っていない場合もあります。その際は説明内容を補足し、再度、医師からの説明の機会をセッティングするようにします。
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