貧血で心不全が増悪したり、心不全で貧血を合併したりするのはなぜ?
- 公開日: 2026/3/11
貧血による循環動態の変化と神経体液性反応の活性化
貧血では、ヘモグロビンの低下により動脈血酸素含量が減少し、組織への酸素供給が不足します。その結果、酸素不足を補う代償機構として交感神経が賦活され、心拍数増加と心拍出量増大が生じます。さらに、末梢血管拡張や腎血流低下に伴う有効動脈血液量の低下を介して、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)などの神経体液性因子が活性化します。その結果、ナトリウム・水の貯留による循環血漿量の増加(前負荷増大)が生じます。
また、血液粘稠度の低下に加え、低酸素に伴う内皮由来因子(一酸化窒素、血管内皮増殖因子など)や代謝性血管因子(乳酸、アデノシン、カリウムイオンなど)の作用により、全身血管抵抗が低下し、血圧が低下することがあります。これも二次的に交感神経およびRAASを賦活し、心負荷を増大させます1)。これらの機序は、うっ血や心筋虚血を起こしやすい状態をつくり、心不全の増悪を招きます。
心不全における鉄欠乏とその機序
心不全における貧血の原因は複雑で、複数の機序が併存することが少なくなりません。重症度が高いほど、その相互連関はより複雑になると考えられています。
最も研究が進んでいるのは鉄欠乏であり、貧血の有無にかかわらず高頻度に認められ、心不全の転帰に影響します1)。鉄欠乏には、体内鉄貯蔵の著減〜枯渇による「絶対的鉄欠乏」と、貯蔵鉄は保たれているにもかかわらず赤芽球系へ十分に動員できない「機能的鉄欠乏」があります。その機序としては、摂取不足・吸収障害・貯蔵障害・喪失などが関与します(表)。
表 鉄欠乏の機序と主な原因
| 機序 | 主な原因 | |
|---|---|---|
| 絶対的鉄欠乏 | 摂取不足 | 食欲低下、味覚異常、食事制限など |
| 吸収障害 | 右心系のうっ血に伴う腸管壁浮腫による鉄吸収の低下 | |
| 喪失 | 消化管出血、腫瘍、血管異形成など1) | |
| 機能的鉄欠乏 | 貯蔵障害 | 心不全で生じる炎症性サイトカインによるヘプシジンの増加 |
心不全による慢性炎症と鉄代謝障害
慢性炎症も重要な要因です。心不全では、心筋の伸展や圧・容量負荷の増大に伴う機械的ストレス(心筋への物理的な負担)、RAAS活性化に伴う単球・マクロファージの動員(神経体液性因子の活性化により心臓組織の炎症反応が高まり、炎症細胞が集積しやすくなる)、腸管うっ血による腸管透過性亢進とそれに伴う細菌・毒素の血中移行、さらに交感神経(ノルエピネフリン)調節の破綻など、複数の経路を介して慢性炎症が生じます。
こうした慢性炎症の結果、免疫細胞や心筋細胞が活性化され、炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-1、IL-6が産生・放出されます。これらのサイトカインは肝臓に作用して、鉄代謝を調節するホルモンであるヘプシジンの産生を促進します。ヘプシジンは鉄輸送体であるフェロポルチンの働きを抑制し、体内に存在する鉄が利用されにくい状態(機能的鉄欠乏)を引き起こします1)、2)。また、ヘプシジンは主に腎臓から排泄されるため、腎機能が低下している患者さんでは血中濃度が高くなりやすく、鉄欠乏がさらに進行する可能性があります。
炎症の影響は鉄代謝だけでなく、造血機能にも及びます。TNF-α、IL-1は赤血球産生を促す造血因子であるエリスロポエチン(EPO)産生を抑制し、さらにTNF-α、IL-1、IFN-γは骨髄における赤芽球前駆細胞の増殖・分化を阻害します。加えて、IL-1やIL-6によって活性化されたマクロファージにより、赤血球の寿命短縮や網内系での除去亢進が生じ、結果として炎症性貧血に至ることがあります2)。
心不全に伴う腎機能障害とRAAS・造血の関係
心不全では、慢性腎臓病(CKD)を合併していることが多く、CKDは貧血の独立した強力な予測因子です。
要因は多岐にわたりますが、腎機能低下に伴うEPO産生低下に加え、慢性炎症に伴うEPO抵抗性も貧血の発症・進展に寄与します1)、2)。心不全およびCKDにおける貧血の背景には、鉄代謝異常も深く関与しています。特に炎症によりヘプシジン産生が亢進すると、鉄の利用が障害される機能的鉄欠乏が生じ、EPO抵抗性の一因となります。さらにCKDでは、腎機能低下によりヘプシジンの腎排泄が低下するため、この鉄利用障害が助長されます。
RAASも造血調節に関与しています。RAASの過程で生成されるアンジオテンシンIIは、血管収縮作用に伴う腎髄質の低酸素化を介してEPO産生を刺激しうることや、骨髄の赤芽球前駆細胞に直接作用することが考えられています。しかし、心不全やCKDが進行すると、炎症や鉄利用障害などの影響が強く、こうした代償的な造血促進作用が十分に機能しないことが多く、結果としてEPO産生低下と貧血が進行します。
また、心不全治療に用いられるACE阻害薬やARBは、心・腎保護に重要な役割を果たす一方、アンジオテンシンⅡ低下や造血抑制ペプチドの分解抑制などを介して、ヘモグロビン値を軽度低下させることが報告されており1)、貧血を助長する一因となり得ます。
心不全における貧血の管理とケア
貧血は心不全増悪の一因であり、息切れ・易疲労・動悸・眩暈などの症状変化を計画的にモニタリングすることが重要です。明らかなうっ血所見に乏しい場合でも、症状の悪化時は貧血の進行を念頭に置き、血算や鉄関連の指標の評価について主治医に相談し、早期の対応につなげます。
心不全患者さんは、消化管うっ血に伴う吸収低下や、食事制限による摂取量の減少などの影響で、鉄欠乏に陥りやすい傾向にあります。そのため、食事量や内容を評価し、必要時には管理栄養士による個別介入を調整します。
経口鉄(特に硫酸鉄など二価鉄)は、悪心や腹部不快感などの消化器症状を起こしやすく、食欲低下につながることがあります。体重・食欲・摂取量をあわせて継続的に評価することが必要です。症状が持続する場合は、用量・製剤・投与間隔の見直しや栄養介入、必要に応じて静注鉄への切り替えが検討されるため、主治医に報告します。静注鉄は症状改善や再入院抑制効果が報告されています1)、2)。
輸血関連循環過負荷(TACO)のリスクと管理
輸血実施時には、体液量増加に伴う循環負荷の上昇やうっ血悪化(Transfusion Associated Circulatory Overload:TACO、輸血関連循環過負荷)のリスクに注意が必要です。
輸血量や輸血速度は、既往の心機能・腎機能・うっ血の有無などを踏まえて調整されます3)。看護師は、医師の指示に基づき適切な投与管理を行い、必要に応じて利尿薬の併用を実施します。バイタルサイン・SpO2・体重を含めた継続的かつ慎重なモニタリングを行い、TACOのリスク増大が懸念される場合には、速やかに医師へ報告します。
引用文献
1)Anand IS, et al:Anemia and Iron Deficiency in Heart Failure:Current Concepts and Emerging Therapies. Circulation 2018;138(1):80–98.2)Packer M. et al:Redefining Iron Deficiency in Patients With Chronic Heart Failure. Circulation 2024;150(2):151-61.
3)Carson JL,et al:Indications for and Adverse Effects of Red-Cell Transfusion. N Engl J Med 2017;377(13):1261-72.
