ホルター心電図の看護|検査の手順と注意点、トラブル時の対応
- 公開日: 2021/1/8
ホルター心電図とは
ホルター心電図は24時間心電図検査ともいわれ、日常生活中の心電図を記録し観察する検査です。
一般的な12誘導心電図検査では、ベッドに臥床した状態で短時間での観察となりますが、心臓は絶え間なく拍動を繰り返しており、睡眠中や運動中など行動パターンによって動く速さは変化しています。そのため、短時間の観察では、動悸やめまいなどの自覚症状があっても、異常が発見されない場合が多くあります。
ホルター心電図では小型の検査装置を24時間携帯することで、日常生活中の心臓の状態や、1日のうちの変化を確認できます。
ホルター心電図の目的
・動悸や息切れ、胸の痛みなどの症状があったときの24時間の心電図変化を捉えます。
・不整脈や虚血性心疾患をより確実に診断します。
ホルター心電図の主な適応
・胸痛、動悸、息切れ、めまい、失神などの自覚症状がある
・不整脈の発生回数、重症度の評価
・虚血性ST下降、Brugada型ST上昇の評価
・抗不整脈薬、抗狭心症薬の薬効評価
・ペースメーカー機能の評価
・自律神経機能の評価
ホルター心電図の誘導の種類
ホルター心電図の主な誘導は、NASA、CM2、CS2、CM5、CC5の5つです(図1)。
図1 ホルター心電図の主な電極装着位置
NASA | CM2 | CS2 |
---|---|---|
CM5 | CC5 |
---|---|
各症例に応じて誘導を選択することで、目的に合った波形を測定できます。実臨床では単独誘導だけで測定することはほとんどなく、各誘導の特徴(表)を把握し、検査目的に応じて誘導を組み合わせて測定します。
表 主な誘導法の特徴 ※電極装着位置は図1を参照
誘導名 | 類似誘導 | 長所 | 短所 |
---|---|---|---|
NASA | V1またはaVF | ・P波の認識良好 ・体動による基線の動揺や筋電図の混入が少ない ・不整脈の分析に適している | ・体位、個人差により波形変化が大きい |
CM2 | V2またはaVF | ・アーチファクト(雑音)*1が少ない ・不整脈の分析に適している | ・波形が小さい |
CS2 | V2 | ・P波の認識良好 ・不整脈の分析に適している | ・筋電図が入りやすい |
CM5 | V5 | ・波形が大きい ・虚血の検出力に優れる | ・偽性ST低下がみられやすい |
CC5 | V5 | ・V5との近似性に優れる ・体位の影響が少ない | ・呼吸による基線変動が大き |
*1:筋電図、静電気、電源・誘導コードの断線などが原因で生じる
葉山恵津子:ホルター心電図できれいな波形をとる工夫.検査と技術.41(13),2013,1259-63.を参考に作成
電極の付け方
きれいな波形が記録されなければ、正しい解析ができません。きれいな波形というのは、判読可能な心電図情報が記録され、かつアーチファクト(雑音)が少ない波形を指します。きれいな波形の最大の敵は雑音です。なるべく雑音の入らない電極の付け方を身につけましょう。
「胸骨柄」や「鎖骨上で平らな部分*2」に陰極(マイナスの電極)を装着することで、筋電図が入りにくく、きれいな波形が記録できます。
*2:一般的には鎖骨下と記載されているが、実際は鎖骨上で平らな部分のほうが安定し、筋電図も入りにくい
ホルター心電図検査の手順
1.問診・診察を行う(医師)
動悸や胸痛、めまいなどの気になる症状、生活環境、既往症、今までの変化などについて医師が問診を行います。その後、心音や全身の診察をします。
2.電極を装着する(看護師もしくは検査技師)
①皮膚の前処理を行う
電極装着部位をアルコール綿で拭き、皮膚の汚れを落とします。続いて、皮膚と電極の接触抵抗を下げるため、皮膚前処理剤(図2)で電極装着部位を同じ方向に2~3回擦ります。余分な皮膚前処理剤は、濡れたガーゼまたは湿らせたティッシュペーパーで拭き取ります。
アルコール綿と皮膚前処理剤を用いた処理はそれぞれ目的が異なるため、省略せずに行いましょう。
図2 皮膚前処理剤の例
②電極を装着する
誘導コードと接続し、電極を装着します。装着時は、皮膚と電極をしっかり密着させるのがポイントです。
電極にはボタン式とクリップ式があります(図3)。ボタン式はボタン部分が電極を押さえることから、ノイズが発生しやすくなります。そのため、ホルター心電図など活動中の心電図波形の モニタリングには、電極に影響が及びにくいクリップ式が適しています。
図3 ホルター心電図の電極の種類
余った誘導コードは、そのままにしておくと体動時に揺れてアーチファクトの原因になるため、ひとまとめにするなどします(図4)。その他は、各製品の取扱説明書に記載されている手順に従いましょう。
図4 余った誘導コードの処理の仕方
③波形とノイズを確認する
記録を開始する前に、波形の振幅やノイズの混入具合を確認します。この時点でノイズの混入が強ければ、皮膚前処理が適切に行えていたか、電極が皮膚にしっかり密着しているか、誘導コードの固定は確実か、コードに断線はないかなど確認し、再度波形記録をチェックします。
3.心電図をつけて日常生活を送る(患者さん)
普段どおりの生活を送りながら、心電図を記録することに意味があります。検査中に不整脈や胸痛などの自覚症状が出現した場合は、検査機器にあるイベントボタンを押すと症状があった時間として記録されます。
食事の時間や排泄など検査中の行動をなるべく詳しく行動記録メモ(図5)に書き留めてもらい、症状が出たときの状態については特に詳しく記入するように伝えましょう。この行動記録メモも診断の確定に必要な情報になります。
図5 行動記録メモの例
4.電極を外す(看護師もしくは検査技師)
ホルター心電図を装着してからおよそ24時間後に電極を外します。電極による皮膚障害がないかを観察し、かゆみや赤みがある場合は、医師に診察を依頼しましょう。
5.波形を解析し、判読判定する(医師)
検査機器が読み取った波形、行動記録メモ、イベントボタンの結果を照らし合わせ、医師が診断します。
6.検査結果を説明する(医師)
医師が診断結果や今後の治療方針について、患者さんに説明します。
検査上の注意点
検査前
検査期間
検査は2日間にわたって行われます。事前に2日間のスケジュールを空けておいてもらいます。
服装
検査機器が装着しやすいよう、ワンピースなどは避け、上下に分かれた服装(肌着)で来院するように伝えます。襟元が広く開いた洋服は電極が見えることがあるため、検査当日は着てこないよう、あらかじめ説明しておきましょう。
検査中
食事、飲酒、スポーツ、仕事、家事
日常生活レベルの制限はなく、食事、飲酒、スポーツ、仕事、家事などは普段どおり行えます。「検査中、あまり動かないほうがよいでしょうか?」という質問を患者さんから受けますが、普段どおり過ごしてもらうことが不整脈や虚血性心疾患の発見・診断に繋がります。
ただし、電極がはがれてしまうと検査結果が得られないため、検査装置をぶつけたりしないようにするなどの注意は必要です。検査機器にはあまり触れないように説明することも、きれいな波形を記録するためには重要になります。
服薬
医師から特別な指示がない限り、普段どおり服用できます。
携帯、パソコン
携帯電話やパソコンの使用は問題ありません。注意が必要なのは、電気毛布や電気カーペット、低周波・高周波治療器の使用です。これらは波形に影響するため、使用は控えるよう伝えます。
入浴、シャワー
入浴やシャワーが可能かどうかは、検査機器に防水機能が付いているかによります。取扱説明書を参照し、患者さんに説明しましょう。ホルター心電図による入浴中のモニタリングは、心血管事故の予防・早期発見に有用と考えられるため、むやみに禁止する必要はありません。
患者さんへのさまざまな注意事項は、簡単なパンフレットにまとめて渡せるように準備しておきます。無料でダウンロードできるものもあるため、活用するのもよいでしょう。
◆患者さん向け資料
「患者さん向けリーフレット・小冊子、ホルター心電図検査を受けられる患者さんへ」(日本光電)
https://www.nihonkohden.co.jp/iryo/patient/pdf/holter_normal.pdf「24時間ホルター心電図検査を受けられる方へ」(スズケン)
https://www.suzuken.co.jp/product/equipment/pdf/leaflet1.pdfトラブル時の対応
電極が外れてしまったとき
入院中であれば再装着ということになりますが、通院でのホルター心電図検査で電極外れがあった場合は、外れたままで構わないと説明しましょう。再検査が必要かどうかは、装着時間と記録されている波形から医師が判断します。
皮膚がかぶれてしまったとき
事前に、消毒による皮膚障害や電極かぶれの経験がないか確認しておきましょう。アルコール綿にアレルギーがある場合は、クロルヘキシジンで皮膚前処理を行います。
小児や皮膚脆弱性の患者さんに対しては皮膚前処理剤の使用は控え、皮膚にやさしいタイプの電極を使用します(図6)。
図6 皮膚にやさしい電極の例
皮膚皮膜剤で皮膚を軽く拭き、電極の刺激から守ることも大切です(図7)。皮膚被膜剤は、ストーマ周囲などの皮膚を保護するために用いられますが、当院では、電極の刺激から保護したい部位に使用することもあります。
それでも皮膚がかぶれたり、赤みやかゆみが出現した場合は、検査期間中であっても電極を外して問題ないことを説明しておきましょう。
図7 皮膚被膜剤の例
検査結果の見方
検査終了後、一般的に図8のような検査結果が患者さんに渡されます。
図8 検査結果の見本
検査結果には基本調律、心拍数、期外収縮などが記されており、患者さんが自覚しているめまいや動悸、胸痛などの症状の原因が何なのか、治療的介入の余地があるのかを医師が判断し、患者さんに説明します。治療を行うことになった場合、患者さんが安全に受けられるように、看護師は医師とともに支援する必要があります。
心電図は、心臓の状態を非侵襲的かつ持続的に伝える非常に便利なモニターのひとつで、多くの情報を私たちに与えてくれます。ですが、看護師の仕事は、心電図を読むことではありません。診療の補助と療養上の世話であり、患者さんを「看る」ことです。
心電図波形をみて心臓の動き・血液の流れを想像し、患者さんの生活までつなげて考えられるようになることが、看護師が心電図を読む意義といえます。
参考文献
●葉山恵津子:ホルター心電図できれいな波形をとる工夫.検査と技術;41(13),2013,1259‐63.
●新村一郎:ホルター心電図のとり方、読み方.日本小児循環器学会雑誌28(2)、2012,p.28-34.
●慢性虚血性心疾患の診断と病態把握のための検査法の選択基準に関するガイドライン(2010年改訂版)p.9-13.
●杉山裕章:読者質問箱、患者自身が自己除去してしまったホルター心電図検査は、どの程度記録されていれば臨床的意義がありますか?検査と技術44(3),2016,p.250.
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