Wong-Mitchell分類
- 公開日: 2025/2/20
Wong-Mitchell分類は何を判断するもの?
Wong-Mitchell分類は、高血圧症に伴う眼底所見から、循環器疾患の発症リスクを予測するための指標です。
『高血圧診療ガイドライン2019』では高血圧について、「脳心血管病(脳卒中および心疾患)の最大の危険因子といえる」としています1)。高血圧は自覚症状がほとんどなく、健康診断で高血圧を指摘されても、治療をせずに放置してしまう患者さんも少なくありません。高血圧の状態が続くと血管に常に負担がかかり、動脈硬化が進行するため、早期から適切な血圧管理を行っていくことが必要です。
高血圧や動脈硬化の程度を調べるための検査として、眼底カメラや眼底鏡を使い、眼底の血管(網膜血管)、網膜、視神経などの状態を観察する眼底検査があります。特に網膜血管は、体外から直接観察できる唯一の血管であり、網膜血管を観察することで、全身の血管の状態を推測することができます。
眼底の高血圧性変化を評価する分類としては、Scheie分類やKeith-Wagener分類をもとにした慶大変法(KW分類)が広く用いられてきました。しかし、軽症所見に関しては、具体的な指導や高血圧管理計画における意義づけがなされていないうえに、KW分類で軽度と評価されても、循環器疾患の発症リスクが高くなることも報告されています2)。そのため、近年では、最新の根拠をもとに作成され、眼底所見の程度を循環器疾患の発症リスクと対応させたWong-Mitchell分類が新しい指標として用いられるようになってきています。
Wong-Mitchell分類はこう使う!
Wong-Mitchell分類では、眼底所見から循環器疾患の発症リスクを評価します(表)。Scheie分類やKW分類といった、従来の分類と対応させて診断が行われることもあり、リスクに応じた指導や介入が求められます。
例えば、『高血圧診療ガイドライン2019』において、「脳心血管病に対する予後影響因子」の1つとして「高血圧性網膜症」が挙げられていますが3)、高血圧性網膜症がみられる場合、Wong-Mitchell 分類では「中等度」に相当します4)、5)。中等度は循環器疾患の発症リスクが高いため、生活習慣の見直しだけでなく、速やかに降圧薬治療を検討する必要があります。
表 Wong-Mitchell分類
重症度分類 | 眼底所見 | 全身疾患との関連 |
---|---|---|
所見なし | 所見なし | なし |
軽度 | 網膜細動脈のびまん性狭細、網膜細動脈の局所狭細化・口径不同、動静脈交叉現象、反射亢進・混濁(銅線動脈) | 脳卒中、非症候性脳卒中、冠動脈疾患、循環器死亡の危険上昇あり(オッズ比 1~2) |
中等度 | 網膜出血(斑状、点状、火炎状)、毛細血管瘤、綿花状白斑、硬性白斑などの網膜症所見 | 脳卒中、非症候性脳卒中、認知低下、循環器死亡の危険高い(オッズ比 2以上) |
重度 | 網膜症所見に加えて乳頭浮腫 | 循環器死亡の危険が高い |
引用・参考文献
2)Jiaqi Li,et al:Mild Hypertensive Retinopathy and Risk of Cardiovascular Disease: The Suita Study.J Atheroscler Thromb 2022;29(11):1663-71.
3)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会:高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版,2019,p.49.(2025年1月17日閲覧) https://www.ningen-dock.jp/ningendock/pdf/Fundus-JSND.pdf
4)日本人間ドック学会 人間ドック画像検査判定マニュアル作成委員会 眼底部門:眼底健診判定マニュアル.p.1-2.(2025年1月17日閲覧) https://www.ningen-dock.jp/ningendock/pdf/Fundus-JSND.pdf
5)谷川篤宏:眼底所見「②高血圧の眼底」.現代医学 2024;71(1):115-8.
●川崎良:眼底検査の方法 高血圧症に伴う眼底変化・糖尿病による眼底変化.Japanese Journal of Cardiovascular Disease Prevention 2021;56(3):226-32.