心エコー検査の看護|目的、種類、検査結果の見方など
- 公開日: 2021/1/14
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心臓超音波検査(心エコー検査)とは
心臓超音波検査(以下、心エコー検査)は、心臓近くの胸壁に超音波をあててその反射波を画像化し、心臓の状態を調べる検査です。心エコー検査とも呼ばれます。非侵襲的かつ簡便に心臓の状態、働きを判定できることから、日常診療の場で広く用いられています。
心エコー検査の目的
①心腔内の各部位の形態・大きさを観察します。
②心臓の各部分の動きを観察し、心機能を評価します。
③心腔内の圧や血流を推測し、血行動態を評価します。
心エコー検査の種類と特徴
心エコー検査の種類と特徴は表1のとおりです。目的の①②では心臓の形態・動きをみる心エコー法が、③では血液の流れを可視化するドプラエコー法が用いられます。
表1 心エコー検査の種類・目的・特徴
種類 | 目的・特徴 | |
---|---|---|
心エコー法 | 断層エコー法 | ・心臓の形態および動態を二次元で表示 |
Mモード法 | ・超音波ビーム上にある心臓内構造物の動態を表示 ・縦軸はプローブからの距離(観測点の深さ)、横軸は時間を示す ・時間分解能、距離分解能に優れる | |
ドプラエコー法 | カラードプラ法 | ・血流の方向や速度をカラーで表示 ・定量評価には不向き |
パルスドプラ法(PW) | ・特定の領域における血流速度の計測が可能 | |
連続波ドプラ法(CW) | ・血流の最大速度の計測が可能 ・距離分解能に欠け、血流測定位置の特定はできない |
心エコー検査の正常値、検査結果の見方、検査結果からわかること
心エコーは、心機能や血行動態の把握、原因疾患の検索、治療効果の判定において中心的な役割を果たしています。表2をはじめとするさまざまな項目がありますが、患者さんの病態を評価・把握するために、特に重要な項目について取り上げます。
表2 心エコー検査の正常値
文献1)、2)を参考に作成
見る項目⇒左室拡張末期径(LVDd)、左室収縮末期径(LVDs)、左室駆出率(LVEF)
わかること⇒左心室の大きさと収縮能(心臓にかかっている負担)
左心室の大きさは左室拡張末期径(left ventricular end-diastolic diameter:LVDd)や左室収縮末期径(left ventricular end-systolic diameter:LVDs)、左心室の収縮能は左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)を見て評価します。
左心室の大きさの変化から、心臓にかかっている負担を評価できます。心臓は最大の役割である「全身に必要な酸素と栄養を届ける」ために、心拍出量を維持しようと努力します。しかし、心臓の収縮力が落ちてしまい維持が難しくなると、心臓を大きくすることでカバーしようとします(フランクスターリングの法則)。
収縮力が低下していることが原因で、咳、息切れ、浮腫、食欲低下といった心不全症状が出ているような状態では、心室は大きくなっています。ここでの心室の大きさとは、左心室が拡張したときの大きさ(LVDd)を指します。正常値と比較するのではなく、心不全症状が治まっているときのサイズと比較しましょう。
治療効果が得られれば、左心室は症状がなかった頃の大きさに戻る可能性がありますが、それとは別に、弁膜症などに伴う長年の圧・量負荷によって経時的に心臓のサイズが大きく変化してきている患者さんもいます。一時点での心エコー結果を見るのではなく、経時的に心臓の変化を捉えることは、患者さんの病気の歴史を捉えるうえでも重要です。
見る項目⇒左室駆出率(LVEF)
わかること⇒心不全のタイプ
LVEFの数値から心不全のタイプを把握できます(表3)。
表3 LVEFによる心不全の分類
定義 | LVEF | 説明 |
---|---|---|
LVEFの低下した心不全 (heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF) | 40%未満 | ・収縮不全が主体 ・現在、多くの研究において標準的心不全治療下での LVEF低下例がHFrEFとして組み入れられている |
LVEFの保たれた心不全 (heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF) | 50%以上 | ・拡張不全が主体 ・診断は心不全と同様の症状を来す他疾患の除外が必要 ・有効な治療が十分には確立されていない |
LVEFが軽度低下した心不全 (heart failure with midrange ejection fraction:HFmrEF) | 40%以上50%未満 | ・境界型心不全 ・臨床的特徴および予後については研究が不十分 ・個々の病態に応じて治療を判断する |
LVEFが改善した心不全 (heart failure with preserved ejection fraction, improved:HFpEF improvedまたはheart failure with recovered EF:HFrecEF) | 40%以上 | ・LVEFが 40%未満の患者が治療経過で改善した患者群 ・HFrEFとは予後が異なる可能性が示唆されている |
文献3)、4)を参考に作成
LVEFが低下すると心拍出量が得られず、左心室の手前で血液が渋滞し、肺鬱血を来すようになります。このように、LVEFが低下した心不全をHFrEF(heart failure with reduced EF)といいます。
心不全であってもLVEFが保たれている患者さんもいます。LVEFが保たれた心不全はHFpEF(heart failure with preserved EF)と呼びます。左心室の収縮力が保たれていても、左心室の拡張能が低下していると前・後負荷の増大により左心房圧が容易に上昇し、肺鬱血に至ります。
見る項目⇒E/A、E/e’
わかること⇒拡張能
拡張能は、左心房から左心室へ流入する血液の波であるE/A(E波:心室A波:心房)や、僧帽弁の弁輪部の移動速度波形(e’)などから評価できます。簡単にいうと、E波は左心室が収縮する動きを、e’は左心室が拡張する動きを表しています。E/e’の値が12~15mmHg以上(E/e’の正常値は8mmHg以下)の場合、左心室の拡張能が低下した固い心臓と評価できます。
見る項目⇒下大静脈径(IVC径)
わかること⇒循環血液量
循環血液量の増加や減少は、心窩部から下大静脈(inferior vena cava:IVC)を観察することで評価できます。具体的には、呼気終末のIVC径(最大径:15mm以下、呼吸性変動:50%以上)を見ます。IVC径が大きく(21mm以上)、呼吸性変動が小さければ(50%以下)、静脈圧が上昇している(血液うっ滞がある)と判断されます(表4)5)。
表4 IVC径と呼吸性変動からみた静脈圧
最大下大静脈径(mm) | 呼吸性変動(%) | 推定右房圧(mmHg) |
---|---|---|
≦21 | ≧50 | 0~5 |
≦21 | <50 | 5~10 |
>21 | ≧50 | 5~10 |
>21 | <50 | 15 |
Rudski LG,et al:J Am Soc Echocardiogr. 2010 Jul;23(7):687-8.を参考に作成
IVC径が小さく(10mm以下)、呼吸により径が大きく変動・虚脱する場合は、循環血液量が不足していると考えられます。同一の患者さんであれば過去のIVC径と比較し、経時的変化を確認することが重要です。
見る項目⇒弁口面積、圧較差
わかること⇒弁の逆流や狭窄の重症度、弁膜症の手術適応
弁の逆流や狭窄の重症度(表5)、手術適応も心エコーの計測結果をもとに判断します。弁口面積や圧較差などは、弁膜症の手術適応の判断に重要なデータになります。各弁膜症により手術適応が違うため、『弁膜症治療のガイドライン(2020年度改訂版)』を参照してください。
表5 狭窄の重症度評価(僧帽弁狭窄症の場合)
軽症 | 中等症 | 重症 | |
---|---|---|---|
僧帽弁口面積(MVA) | 1.5~2.0cm2 | 1.0~1.5cm2 | <1.0cm2 |
平均圧較差(mPG)* | <5mmHg | 5~10mmHg | >10mmHg |
拡張期圧較差半減時間(拡張期PHT)* | <150ミリ秒 | 150~220ミリ秒 | >220ミリ秒 |
*mPGおよび拡張期PHTは血行動態の影響を受けるため、参考程度とする
日本循環器学会,他:弁膜症治療のガイドライン(2020年改訂版)(2011年合同研究班報告).(2020年10月26日閲覧)https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2020_Izumi_Eishi.pdf.p.43.より引用一部改変
実際の心エコー画像の見方
下記の図は拡張型心筋症患者さんの心エコー画像です。左心室全体で収縮する動き(壁運動)が低下し、左心室が大きくなっています。
図 拡張型心筋症の心エコー画像

僧帽弁は左心室壁についているため、左心室が大きくなることで両サイドに僧帽弁の位置が移動し、逆流を生じます。これを機能性僧帽弁逆流といいます。また、左心室壁は薄くなっていることが多いです(心室が大きくなる際に壁を薄くしてのばすようなイメージ)。
看護師の役割、検査結果の活用の仕方
医師は、診断や治療方針の決定、治療効果の判定のために検査結果を見ます。一方、看護師の役割は生活者としての患者さんの療養を支援することです。検査結果もそのために活用できるようになるのが理想と考えます。
例えば、LVDd/Ds(心臓が拡張して収縮する)の差が2~3mmの患者さんがどのような生活を送っているのか想像してみます。
このような心機能では、階段の昇降は2~3段で休憩が必要になるのではないか、入浴は難しい可能性があるなど、日常生活行動の一つひとつが当たり前にできない状態かもしれません。数値で表すと「Dd/Ds:66/64mm」ですが、患者さんの生活に置き換えて想像し、困りごとや苦労はないか、どのような療養支援が必要かをアセスメントできるようになるとよいでしょう。
引用・参考文献
1)Daimon M,et al:JAMP Study Investigators. Normal values of echocardiographic parameters in relation to age in a healthy Japanese population: the JAMP study. Circ J 2008;72(11):1859-66.
2)Lang RM, et al:Recommendations for cardiac chamber quantification by echocardiography in adults: an update from the American Society of Echocardiography and the European Association of Cardiovascular Imaging. J Am Soc Echocardiogr 2015;28(1):1-39.e14.
3)Yancy CW, et al:2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure:a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines. Circulation 2013;128:240-327.
4)Ponikowski P,et al:Authors/Task Force Members. 2016 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure:The Task Force for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure of the European Society of Cardiology (ESC). Developed with the special contribution of the Heart Failure Association (HFA) of the ESC. Eur J Heart Fail 2016;18:891-975.
5)Rudski LG,et al:J Am Soc Echocardiogr. 2010 Jul;23(7):687-8.
●日本循環器学会,他:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)(日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン).(2020年10月26日閲覧)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf
●佐藤幸人,他:心不全基本のきほんのそのまたキホン.ハートナーシング 2018;31(10):16-8.
●岩倉克巨:岩倉克臣:絶対わかる心エコー.羊土社,2012,p.14-7.
●赤石誠 編:心エコー図―撮る、診る、読む―.メジカルビュー社.2006.
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