経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の看護|目的、適応、観察ポイント、合併症など
- 公開日: 2023/4/30
PCIとは
PCIとは、経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention)のことで、経皮的に橈骨動脈や大腿動脈などを通してカテーテル(治療デバイス)を冠動脈まで持ち込み、何らかの「介入(インターベンション)」を行う、虚血性心疾患に対する治療法です。
PCIの治療には歴史があり、1970年代に開発されてから、さまざまな改良が重ねられています。現在は、第3世代DES(薬剤溶出ステント:drug eluting stent )のデバイスにより、中長期にわたって治療効果が安定するようになり、PCIを行う際はDESを使用することが治療の標準となっています。
PCIの目的
PCIの主な目的は次のとおりです。
・生命予後の改善
・心筋梗塞・不安定狭心症などの急性冠症候群の発症予防
・安定狭心症の諸症状の改善とQOLの向上
PCIの適応
急性心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群
急性心筋梗塞では、冠動脈をきれいに拡げるというよりも、完全に血流の途絶えた状態から十分な冠動脈血流(TIMI分類のGrade3)を維持することを目的にPCIを行います。そのため、冠動脈をきれいに拡げることと十分な冠動脈血流を維持することの両方を達成できない場合、急性期の治療部位は最小限とし、再度しきりなおしてPCIを行うことがあります。
安定狭心症
安定狭心症に対するPCIは、「機能的虚血の存在」が術前検査で確認されている場合に行われます。
PCIの実際
アプローチ部位
PCIは緊急度により、待機的PCIあるいはprimary PCIが行われます(表)。待機的PCI、primary PCIともに、低侵襲であることと出血リスクの少なさから、橈骨動脈からのアプローチが推奨され、主流になっています。
ただし、血液透析患者さんや複雑病変で太いカテーテルでの治療が必要な場合などでは、大腿動脈が使用されます。上腕動脈もアプローチ部位の一つとして挙げられますが、事後の出血(圧迫のしづらさ)や正中神経麻痺を起こす可能性が高く、あまり使用されません。
表 待機的PCIとprimary PCI
待機的PCI | 緊急を要さず、待機的に行うPCIのこと。primary PCI以外のすべてのPCIが待機的PCIとなる。 |
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primary PCI | 主にST上昇型心筋梗塞(STEMI)に対して、緊急で行うPCIのこと。STEMIでは冠動脈が完全に閉塞し、徐々に心筋の壊死が進んでいく。閉塞した冠動脈を少しでも早く再開通させる必要があるため、primary PCIが行われる。 |
血管の拡張
アプローチ部位にシースを留置し、ガイドワイヤーを通して、ガイディングカテーテルを冠動脈の入口部まで進めます。造影剤を使用して、冠動脈の狭窄・閉塞部位や形状、重症度、周辺血管との解剖学的情報を把握し、診断します。
続いて、ガイドワイヤーを頼りに、画像診断のための血管内超音波(intravascular ultrasound:IVUS)や光干渉断層撮影法(optical coherence tomography:OCT)、虚血評価(FFR/iFR測定)のためのプレッシャーワイヤーを体外から病変部に持ち込み、治療の必要があるかどうか、どのような血管の拡げ方(バルーン拡張のさせ方)をするかを判断していきます。治療が必要と判断されれば、ガイドワイヤーを頼りにバルーンやステントなど、治療に必要なデバイスを病変部まで持ち込み治療を行います。
PCIの基本は、狭窄あるいは閉塞した血管をバルーンで拡げることですが、プラーク(粥腫)を機械的に圧排するため、血管内腔に解離を起こしたり、脂質コアが飛び散り治療部位より末梢に流れ、目詰まりを起こして血流が遅滞したりすること(スローフロー)があり、その結果、心筋梗塞を起こしてしまうこともあります。
こうした現象を最小限に抑えるためにも、IVUSやOCTなどといったイメージングデバイスを用いて病変部を詳細に観察し、治療デバイスの選択やどのように血管を拡げるかを決めています。
ステント留置
バルーンのみで病変部を拡げた場合、バルーン拡張直後から15分くらいまでの間に、血管内腔が狭くなる「リコイル」という現象が起こることがあります。リコイルは、ステントを留置することで防ぐことができます。
ステントを置くもう一つの目的として、血管の解離が徐々に拡がり、血管内腔が閉塞してしまうのを防ぐというのもあります。
薬物療法(DAPT)
冠動脈内に留置されたステント内が再狭窄を起こさず経過するためには、2種類の抗血小板薬(アスピリンとクロピドグレル硫酸塩、アスピリンとプラスグレル塩酸塩の組み合わせが代表的)を最短1カ月から1年にわたり内服することが必要であり、これを抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)といいます。
『2020年 JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法』では、出血リスクや元々の抗凝固薬の服薬状況を踏まえた、PCI施工後の抗血栓療法が提示されています1)。症例によって、必要な薬剤や服薬期間は異なるため、主治医に確認し、患者さんの教育的支援に活かしましょう。
PCIの看護
治療前
治療前オリエンテーション
患者さんに安全にPCI治療を受けてもらうためにも、治療前オリエンテーションはとても重要です。治療の目的や合併症などについては主治医が説明しますが、看護師は、検査や治療中に患者さん自身が注意すべきこと、治療前後の流れを説明します。
治療中の注意事項としては特に、①造影剤使用時に胸が熱くなる場合があること、②急に動くと危険なこと、③くしゃみや咳などが出そうなときは前もって伝えること(声は出せるということも説明する)、④治療中に胸痛などの症状が出現したときは、我慢せずに医療者に伝えることを説明します。
当院では専用のオリエンテーション用紙を用いて説明を行い、終了後はベッドサイドに掲示し、いつでも患者さんが確認できるようにしています。内容もポイントを絞り、イラストなども活用して、患者さんが理解しやすいように工夫しています(図1)。
また、このオリエンテーションのなかで、患者さんの治療に関する理解度を確認するのとあわせて、不安や緊張が和らぐような声かけも忘れずに行いましょう。
図1 治療前オリエンテーション用紙の例(日本赤十字社和歌山医療センター)
治療前の情報収集、観察ポイント
PCIでは、術中・術後に合併症が起こるおそれがあります。事前の情報収集で合併症が起こるリスクを把握し、リスクを最小限に抑えられるように準備します。
【造影剤アレルギーの有無の確認】PCIを行う際は造影剤を使用するため、造影剤アレルギーの既往の有無を確認します。既往がある患者さんには、術前にステロイド投与などを行うことがあります。
【腎機能の確認】腎機能が低下している患者さんでは、造影剤腎症のリスクが高くなります。血清クレアチニン値や推算糸球体濾過量値(eGFR)を確認し、腎機能の低下がみられる場合は、治療前の点滴負荷(ハイドレーション)の開始時間を医師に確認しましょう。当院では、腎機能が悪い患者さんには、前日からハイドレーションをして腎保護を行っています。
また、通常の腎機能であれば、治療開始直前に輸液を開始することが多いですが、透析患者さんの場合は余分な水分が入らないよう、出棟直前に輸液を開始します。
【内服薬の確認(抗血小板薬、抗凝固薬の内服歴)】病棟に薬剤師がいる場合は、協力してもらうとよいでしょう。ステントを留置した場合には、前述したとおり、DAPTを行う必要があるため、現在の服薬状況を把握しておくことはとても大切な視点です。
【中止薬の確認】治療前は絶食になります。糖尿病患者さんがPCI治療を受ける場合は、絶食に伴う糖尿病治療薬の中止について、医師に確認しましょう。
ビグアナイド系経口血糖降下薬を使っている患者さんは、ヨード造影剤を使用すると乳酸アシドーシスを起こす危険性があり、基本的には造影剤使用後48時間は休薬が必要です。当院では、病棟薬剤師とダブルチェックを行い、ビグアナイド系経口血糖降下薬一覧表を掲示し、使用状況を把握しています。
【穿刺部位と脈の触れる位置の確認】穿刺部位の違いで術後の安静度が変わるため、穿刺部位は事前に確認しておきます。また、術中・術後の血栓塞栓症の早期発見と診断のため、足背動脈(後脛骨動脈)の触知可能部位をマーキングします。
近年は、利き手と反対側の橈骨動脈から治療することが増えていますが、上肢にシャントがある透析患者さんや治療内容によっては、鼠経から穿刺する場合もあります。その場合は、穿刺部位の剃毛を行います。
治療後(病棟帰室後)
治療後の観察ポイント
治療後は、合併症が起きていないかフィジカルアセスメントをしっかりと行いましょう。当院では、帰室後30分ごと×4回のバイタルサインと穿刺部位の出血の有無を観察しています。PCI治療には、どのような合併症があるのかを事前に把握し、合併症による症状が出現していないかの視点で観察することが大切です。
主な合併症とケア
【造影剤アレルギー】乾性咳嗽、悪心、腹痛、動悸、掻痒感、呼吸困難感、血圧低下、SpO2低下などのアナフィラキシー症状がみられないか確認します。アナフィラキシーを発症した場合、酸素投与や補液、重篤であればアドレナリン投与が行われることもあるため、医師がすぐに治療できるよう準備しておくことも必要です。
【血栓塞栓症】術前にマーキングした部位で足背動脈の触知を行い、血栓塞栓症の早期発見に努めます。触知不良の場合は、血栓塞栓症が生じている可能性が考えられます。
【迷走神経反射】極度の緊張や穿刺の痛みなどが原因で、治療後に迷走神経反射が起こることがあります。バイタルサインや意識レベルを把握し、患者さんの状態によっては、補液やアトロピン硫酸塩の投与などを医師の指示のもと行います。
【心タンポナーデ】ロータブレーダ(電動ドリル)などのデバイスで石灰化した血管壁を削りすぎたり、バルーン拡張やステント留置時の過拡張で冠動脈を破裂させてしまうことがあります。冠動脈からの出血により血液が心嚢に貯留すると、心タンポナーデを引き起こします。血圧低下や脈圧の減少、頻脈がみられないか観察し、早い段階で気付けるようにします。医師に治療内容を確認し、ロータブレーダの使用や過拡張の情報があれば、より綿密な観察が必要になります。
【ステント血栓症・再梗塞】新たな不整脈の出現は、何らかの負担が心臓にかかっているサインです。重症不整脈に移行しないか注意深く観察します。胸部症状を訴えた場合は、12誘導心電図でST-T変化がみられないか確認することも必要です。PCI治療により、ST上昇が改善していたにもかかわらず再び上昇したり、別の誘導でのST上昇が確認されたりする場合は、ステント血栓症や再梗塞が疑われるため、速やかに主治医に報告します。
【心不全の増悪】心機能が著しく低下した患者さんは、PCI治療が侵襲となり、心不全が増悪することがあります。治療後は、酸素化の悪化(SpO2の低下、コースクラックルの聴取)や息苦しさの自覚がないか観察し、症状がみられた場合には主治医に報告します。
【穿刺部位の出血・血腫】ガーゼに血液の付着がないか、皮膚の硬さや色調に変化がみられないか、血圧が低下していないかを確認します。穿刺部からの出血や血腫を認めた場合は速やかに医師に報告するとともに、出血や血腫が生じている箇所をマーキングし、継続して観察します。
予防医学的なかかわり
動脈硬化性疾患の予防には、個々の動脈硬化のリスクを評価し、介入可能な因子を管理することが重要です。冠動脈疾患患者さんも同様に、冠危険因子の是正がなければ、繰り返し発症するリスクがあります。
急性心筋梗塞での入院時には、発症を繰り返さないためのパンフレット指導など、各施設で取り組まれていると思いますが、狭心症治療のためにクリニカルパスに沿って入院する場合などではどうでしょうか。この場合の入院期間はたいてい1泊2日~2泊3日と短いこともあり、教育的な視点でのかかわりは、ほとんど行われていないのではないでしょうか。当院の現状も同様でした。
しかし、予防医学の視点から考えると、心不全とそのリスクの進展ステージ(図2)を進行させないためにも、入院が短期間であっても「患者教育のチャンス」と捉えてかかわることは大切です。個々の患者さんの冠危険因子を把握し(図3)、是正できる項目はないかを患者さんと話し合うだけでも、患者さんが「変わるきっかけ」になるかもしれません。
図2 心不全とそのリスクの進展ステージ
図3 冠危険因子を把握するための看護記録の工夫(日本赤十字社和歌山医療センター)
引用文献
2)Yancy CW, et al:2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure:a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines. Circulation 2013;128:e240-327.