経皮的心肺補助法(PCPS)の原理・効果、装置・回路の仕組み、適応・禁忌
- 公開日: 2023/6/12
PCPSとは
経皮的心肺補助法(percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)とは、急性循環不全に対して、機械を用いて循環を補助する治療法のことです。
機械を使って酸素化した血液を送る治療としては、COVID-19重症患者さんの治療として、ニュースなどでも取り上げられ広く名前が広まったextracorporeal membrane oxygenation(ECMO)があります。
ECMOというと、呼吸不全に対する治療法を思い浮かべる人も多いと思います。呼吸不全に対して実施されるのは、送脱血の方法が静脈脱血-静脈送血(VV)ですが、ECMOには静脈脱血-動脈送血(VA)という送脱血の方法もあります。国際的には、循環や呼吸補助を目的とした機械的循環補助法のことをECMOと呼び、日本ではそのECMOのなかで、VA ECMOのことをPCPSと呼んでいるようです。
PCPSの原理・効果
PCPCは、遠心ポンプと膜型人工肺を用いた閉鎖回路から成り、太い静脈に挿入されたカニューレから脱血、膜型人工肺で血液を酸素化し、太い動脈に挿入したカニューレから送血することで循環流量を補助します(図1)。PCPSの脱血カニューレは大腿静脈、送血カニューレは大腿動脈に留置されることが多いですが、患者さんによっては頸静脈や腋窩動脈などにカニューレが留置されることもあります(図2)。
図1 PCPSの構成イメージ
図2 カニュレーションの位置
PCPSによる流量補助は、正常の心拍出量の50~70%程度とされています。PCPS装着によって全身臓器への血液灌流は改善されますが、機械から逆行性に血液を流す(心臓に向かって血を流す)ため、心臓にとっては負荷(左心室の後負荷上昇)がかかることになり、肺水腫を引き起こすことも考えられます。
そのため、大動脈内バルーンパンピング(intra-aortic balloon pumping:IABP)やIMPELLAという補助循環ポンプカテーテルを併用し、心臓の負担を軽減させる場合もあります。IMPELLAとの併用は、VA ECMO+IMPELLAで、「ECPELLA」と呼ばれることもあります。
PCPS装置・回路の仕組み
駆動装置(駆動コントローラー)
遠心ポンプを駆動させるための装置で、遠心ポンプの回転数が設定できます。ほとんどの機種でフローセンサー(流量計)が付いており、回路内を通る血液流量の値が表示されます。
その他、回路圧の測定、回路内の気泡や温度変化を検知できる機種、メーカーによっては、冷温水槽や酸素ブレンダー(ガスブレンダー)が一体となっているものもあります。
冷温水槽
PCPSでは、体外(回路)に血液を出すことにより血液温が低下してしまうため、加温した水を人工肺に流し込んで血液を温めます。冷温水槽の温度をコントロールすることで血液温を管理できるため、低体温療法における体温調整にも対応できます。
酸素ブレンダー(ガスブレンダー)
酸素ブレンダーは、空気に酸素を混ぜて、膜型人工肺に送り込む装置です。
遠心ポンプ
PCPSでは、一般的に遠心ポンプが用いられます(図3)。遠心ポンプは容器内に羽根車があり、それが高速回転することで中心部が真空状態となり血液が引き込まれ、遠心力によって血液が押し出されます。血液は落差によっても流れ込むため、脱血部より低い位置に設置されます。
図3 遠心ポンプ
膜型人工肺
膜型人工肺は、生体肺で行われているガス交換を代行するものです。膜型人工肺の内部は、中が空洞となっている中空糸が束ねられています(図4)。中空糸の表面は目には見えない孔が開いており、空洞の中を酸素ブレンダーから送り込まれたガスが通り、中空糸の外側を血液が通り、ガス交換が行われます。
図4 膜型人工肺の原理・仕組み
回路
送脱血回路と膜型人工肺と遠心ポンプが別々となっているものや一体となっているもの、抗血栓のためのコーティングがされているものなど、メーカーによってさまざまあります。
その他
上記に挙げた装置や仕組み以外に、膜型人工肺の結露防止のための温風加温装置、血液パラメーターモニター、ACT測定装置、回路内圧力センサーなどが用いられることがあります。また、緊急停止時に使用する手動ハンドル、回路をクランプするための鉗子の準備も必要です。
PCPSの適応・禁忌
PCPSの適応や禁忌は文献によって異なりますが1)、2)、3)、4)、適応は従来の治療にもかかわらず、死亡リスクの高い急性の重症心不全、重症呼吸不全などです。禁忌は、予後不良の見込みが高い症例や大動脈解離で送血により解離腔拡大のリスクがある症例、さらなる出血を助長するような病態などが挙げられます(表)。
表 PCPSの適応・禁忌
適応 | ◆従来の至適治療にもかかわらず死亡リスクの高い急性の重症心不全、重症呼吸不全 ・心筋梗塞や心筋炎で、IABP施行下でも心係数が1.5L/min/m2以下の重症ポンプ失調例 ・難治性で繰り返す心室細動や心室頻拍患者 ・開心術後のLOS(低心拍出症候群) ・急性肺血栓塞栓症によるショック ・偶発性低体温による循環不全 ・重症胸部外傷 ・ARDS など ◆急性冠症候群の冠動脈形成術までのサポートやブリッジ |
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禁忌 | ◆非可逆的脳障害 ◆大動脈解離 ◆重度の大動脈弁閉鎖不全症 ◆止血困難な進行性出血 ◆悪性疾患の末期状態 ◆閉塞性動脈硬化 ◆播種性血管内凝固症候群(DIC) |
※ほとんどが相対的禁忌となる
引用文献
1)ELSO:Extracorporeal Life Support Organization (ELSO) General Guidelines for all ECLS Cases,2017.p.4.(2023年5月22日閲覧)
https://www.elso.org/ecmo-resources/elso-ecmo-guidelines.aspx
2)日本循環器学会,他:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).p.98.(2023年5月22日閲覧)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf
3)日本循環器学会:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版).p.43-4.(2023年5月22日閲覧)
http://www.shiga-med.ac.jp/~hqeiyo/AHF2011.pdf
4)日本救急医学会:医学用語解説集(2023年5月22日閲覧)
https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0722.html
イラスト/早瀬あやき