吐血した患者さんのアセスメントと対応
- 公開日: 2021/4/19
事例紹介
患者背景Gさん、70歳代、女性
・既往歴:未治療の食道静脈瘤、認知症、心房細動、肝硬変
・内服薬:ワーファリン錠1㎎、ファモチジンD錠10㎎、カロナール®錠200㎎ 3錠
・生活歴:喫煙なし、1年前まで毎日飲酒
・ADL:車椅子移動、要介護3
現病歴
夜間にタール便があり、その2時間後に寝ている状態で茶碗1杯程度の血を吐き救急要請。救急隊にてショック状態と判断され、医師の指示で救急隊により末梢静脈路を確保され、酢酸リンゲル液の投与を行いながら搬送。
病院搬送時に四肢冷感あり、冷汗あり、呼吸促迫あり、橈骨動脈触知可、声かけに対して反応あるが閉眼。
身体所見
意識レベルJCSⅡ-10、GCS*11(E3V3M5)、呼吸30回/分、脈拍142回/分、血圧75/43mmHg、体温36.6℃、SpO299%(リザーバーマスク10L/min)
腹部膨満あり、腹部圧痛なし、腹部膨隆なし、嘔気あり、嘔吐なし、黄染なし、咳嗽なし
鼻出血なし、口腔内出血なし
*グラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale:GCS)
検査
・緊急上部消化管内視鏡検査:食道静脈瘤からの出血あり
・胸部単純X線:背側無気肺あり。明らかな肺気腫や炎症はなし。胸水なし
・単純CT:胃内に高吸収域あり
・心電図:心房細動
・血液ガス:PH 7.422、PaCO2 18.6mmHg、PaO2 211mmHg、HCO3– 15.5mmol/L、BE -11.2 mmol/L、Lac 4.2 mmol/L、RBC 270万個/μL、WBC 20870万個/μL、Hb 8.2g/dL、Ht 25.1%、PLT 21.1、PT 52sec、APTT 43.1sec、AST 54U/L、ALT 17U/L、LDH 182U/L、ChE 39U/L、T-Bil 1.3mg/dL、BUN 60mg/dL、Cr 1.43mg/dL
緊急上部消化管内視鏡検査(esophago gastro duodenoscopy:EGD)にて食道静脈瘤からの出血を認め、内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)を施行
状態把握のための知識とポイント
事例から読み取るべき患者さんの状態
・四肢冷感、冷汗、呼吸促拍を認める
・肝硬変、食道静脈瘤の既往がある
・夜間にタール便を認めている
・発熱、咳嗽はない
状態把握のために必要な知識とポイント
ポイント1:ABCDを評価する出血に伴う急激な循環血液量の低下は、出血性ショックにつながります。適切な対応をしなければ死に至る可能性もあるため、ショックを早期に把握することが重要です。Gさんには四肢冷感、冷汗、呼吸促迫などがあり、ショックの徴候を認めます。
ポイント2:吐血か喀血かを鑑別する
「口から血を吐いた」という情報から吐血か喀血の可能性が考えられ、鑑別が必要です。
吐血とは、Treitz靱帯より口腔側の消化管からの出血を指します。食道からの出血(食道静脈瘤破裂、マロリーワイス症候群など)では鮮紅色、胃・十二指腸からの出血(胃・十二指腸潰瘍、急性胃粘膜病など)ではコーヒー残渣様の吐血をきたします。また、上部消化管からの出血ではタール便を伴うケースが多くみられます。
一方、喀血は肺や気管からの出血です。喀血も鮮紅色を認めますが、血液に気泡を含み、咳や痰、発熱を伴います。
Gさんの場合、口から吐いた血液の性状は定かではありませんが、夜間にタール便を認めており、上部消化管から出血していることが示唆されます。肝硬変の既往に加え、未治療の食道静脈瘤があること、鼻出血や口腔内出血がなく、喀血を疑う所見もみられないことから、未破裂静脈瘤の破裂による吐血の可能性が高いと考えられます。
ポイント3:出血量を確認する
Gさんは、茶碗1杯程度の血を吐いたと話しています。茶碗1杯の出血は200mL程度と予測されますが、吐血のほかに、2時間前からタール便も認めています。そこで、ショック指数(shock index:SI)から出血量を推測します(表1)。
SIは「心拍数/収縮期血圧」で算出します。これに当てはめると、GさんのSIは約2.0となり、2L程度出血していることが考えられます。
表1 出血性ショックの重症度分類とショック指数、出血量、症状・所見
※ショック指数が0.5 以上で出血していると判断する。1.0以上で出血性ショックと判断する
American College of Surgeons:Advanced Trauma Life Support Course.Student Manual,7th ed. Chicago, IL: American College of surgenous,2004.より引用、一部改変
ポイント4:検査結果を確認する
血液検査結果では、RBC・Ht・Hb(貧血の程度や出血量の推測)、PLT・PT・APTT(血液凝固障害の判断)、AST・ALT・LDH・ChE・T-Bil(肝機能の状態の把握)、BUN・Cr(出血量、腎機能障害の判断)などを確認します。
ほかに、誤嚥性肺炎、消化管穿孔、腹水の確認、出血源の特定のため、胸腹部単純X線検査やCT検査が実施されます。
緊急度を判断する
Gさんは冷汗と呼吸促迫を認め、輸液投与下の搬送でショック所見があり、緊急度は高いと考えます。
また、SIが約2.0であること、採血結果もPaCO218.6mmHg、HCO3– 15.5mmol/L、BE -11.2 mmol/L、Lac4.2mmol/Lと、代謝性アシドーシスの状態を呼吸性に代償しています。現在はPH7.422ですが、いつアシドーシスに傾いてもおかしくない状態である点からも、緊急度は高いと判断できます。
状態に合わせて対処する
ABCDアプローチによる評価に沿って対処します。
◆A(気道)
Gさんは発声があり、気道は確保されていますが、吐血が持続する場合は窒息や誤嚥性肺炎のリスクがあります。吐血の際は顔を横に向け、口腔内の吐物を除去し、気管挿管の準備をします。
◆B(呼吸)
呼吸状態は頻呼吸ですが、酸素投与でSpO2 99%に保たれています。しかし、SpO2はヘモグロビン量に対する酸素の結合割合であり、貧血があれば運搬される酸素量は減少するため、各組織への酸素供給は低下します。総合的に判断し、酸素流量の増量や貧血の補正を行います。
◆C(循環)
出血による循環血液量低下のため、細胞外液を補充する必要があります。20G以上の留置針で2本の末梢静脈路を確保し、大量輸液による低体温を予防するため、39℃に加温した輸液を投与します。大量輸液は希釈性の凝固障害を起こす可能性があることから、総輸液量が3Lを超えるまでに、濃厚赤血球輸血や新鮮凍結血漿の投与の準備をします。
さらに、Gさんはワルファリンを内服しています。ワルファリン内服中の出血性合併症の救急処置として、ワルファリンを中止し、ビタミンKの投与が必要とされるため、ケイツー®Nの投与ができるように準備します。出血を抑制するために用いられるトラネキサム酸も用意しておきます。
循環血液量の低下が30%以上になると収縮期血圧の低下をきたすほか、脈圧30mmHg以下は血管内容量の低下を意味します。バイタルサインを頻回に測定し、状態変化を見逃さないよう十分注意します。
◆D(意識)
循環血液量の低下は各臓器や脳の血流を減少させ、ヘモグロビンの低下は各組織への酸素供給を減少させます。Gさんは認知症の既往もあるため、元々の意識状態を確認したうえで、意識状態の変調に対応できるようにします。
「アシドーシス」「低体温」「凝固異常」は死の3徴候といわれています。体温管理に努め、凝固異常を防ぎ、アシドーシスが進行しないようにすることが重要です。
ほかに、食道静脈瘤破裂の場合、内視鏡的静脈瘤結紮術や食道静脈瘤硬化療法が行われます。検査の準備を進めるとともに、止血が困難な場合はS-Bチューブを挿入する可能性があるため、用意をしておきます。緊急の検査や治療時は、家族への説明や同意書の取得が必要になることから、家族の状況も確認します。
医師に報告する
治療により止血が確認できるまでは、状態悪化の可能性が常にあります。輸液や輸血を投与しているにもかかわらず血圧や脈圧の低下を認める、頻脈から血圧低下を伴い徐脈への移行がみられる、頻回な吐血や意識レベルの悪化などがみられた場合は、早急にその状態を医師に報告します。
報告ツール「ISBARC」を活用すると、より適確に伝えることができます(表2)。
表2 ISBARCを用いた報告例
報告例 | |
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Identify (報告者と患者の同定) | ・救急外来の看護師××です。吐血で搬入されたGさんの現在の状態について報告します。 |
Situation (患者さんの状態) | ・搬入時、血圧は70台で、頻脈と呼吸促迫を認めました。 |
Background (入院の理由・臨床経過) | ・救急隊接触時から、末梢静脈路確保が行われ、酢酸リンゲル液の投与を継続していますが、バイタルサインの改善がありません。 |
Assessment (状況評価の結論) | ・上部消化管からの出血による出血性ショックが持続していると考えます。 |
Recommendation (提言または具体的な要望・要請) | ・急変のリスクが高く、早急な医師の診察が必要です。 |
Confirm(指示受け内容の口頭確認) | ・(医師から指示)今すぐ行きます。バイタルサインの変化に注意し、急変時の準備をしておいてください。 ・(指示の内容を復唱)バイタルサインの変化に注意し、急変対応の準備をしておきます。 |
対応の流れを振り返る
吐血がみられた患者さんへの対応の流れについて、フローチャートで振り返ります。