意識障害がみられる患者さんへのアセスメントと対応
- 公開日: 2021/4/7
事例紹介
患者背景Fさん、70歳代、男性
・既往歴:高血圧、Ⅱ型糖尿病
・内服薬:アムロジピンベシル酸塩錠、インスリン注射
現病歴
1週間前より糖尿病性ケトアシドーシスで入院し、点滴・内服治療を実施。症状軽快に伴い退院予定だったが、退院前日の朝に倦怠感および食思不振の訴えあり。午後にバイタルサイン測定のため訪室したところ、ベッド上で側臥位になり意識障害を認めた。呼びかけに対する反応が乏しく、会話が成立しない状況。苦悶表情を認め、左胸や腹部に右手を当て激しい痛みを伴う様子。呼吸は速く浅く、皮膚は冷たくじっとり湿潤し、顔面蒼白が観察された。
身体所見
・普段のバイタルサイン
呼吸22回/分、脈拍70回/分、血圧150/60mmHg、体温36.1℃、SpO2 97%
・意識障害発生後のバイタルサイン
意識レベルGCS*10(E3V3M4)、呼吸38回/分、脈拍130回/分、血圧100/40mmHg、体温36.1℃、SpO2 95%
*グラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale:GCS)
気道狭窄音、嗄声、舌根沈下、呼吸音に異常なし
瞳孔不同なし、対光反射あり
構音障害なし
簡易血糖値180mg/dL
検査
・頭部CT:頭蓋内病変なし
・胸部単純X線:縦隔拡大
・胸部CT:大動脈解離
状態を把握する
事例から読み取るべき患者さんの状態
・退院前日の朝から体調に変化があり、訪室時に意識障害を認めている
・苦悶表情を認め、左胸や腹部に右手を当て激しい痛みを伴っている
・バイタルサインに変動が生じており、皮膚の冷感や湿潤、顔面蒼白を認めている
状態把握のための知識とポイント
ポイント1:迅速評価を行う視覚・聴覚・触覚を使い、患者さんに接触後数秒間で全体的な状態について迅速評価を行います。迅速評価では、A(気道)、B(呼吸)、C(循環)、D(意識・外見)を評価します。
Fさんの呼吸は速くて浅く、皮膚も冷たく湿っており顔面蒼白が認められました。さらに、呼びかけに対する反応が乏しく、意識レベルの低下がみられることから、呼吸、循環、意識に異常を認めます。
ポイント2:一次評価を行う
一次評価では、バイタルサインや身体診察(視診、聴診、触診など)を用いて、A(気道)、B(呼吸)、C(循環)、D(意識)、E(体温)を評価します。
Fさんは、発語があることから気道は開通していますが、意識レベルの低下を認めます。舌根沈下や気道閉塞が生じる可能性があるため、気道を観察し、緊急対応できるよう準備します。
呼吸音に問題はないものの、呼吸数38回/分と頻呼吸で異常と判断します。通常、呼吸仕事量の増加では、酸素消費量が増大しSpO2低値が生じます。呼吸仕事量を軽減させるための介入として、酸素投与や安静、呼吸補助などが必要となります。
循環は、脈拍数の増加と血圧低下からショックと判断します。この状態が継続すると、代償機能の破綻によるさらなる血圧低下が予測されます。
意識については、GCS10点と意識障害を認めます。瞳孔所見、対光反射は異常なく、構音障害はありません。右手を胸部に当てていますが、麻痺の有無は確認できていません。
体温は36.1℃と異常はありませんが、冷汗が認められます。診察や検査などで体温低下を招く可能性があるため、不必要な露出を避け、保温します。
以上のことから、一次評価では「B:呼吸」「C:循環」「D:意識」に異常を認めます。
ポイント3:二次評価を行う
一次評価で生命の危機的状態に対する緊急処置(安定化処置)を実施した後に、二次評価を行います。二次評価では、状態変化についての情報収集や問診、詳細な身体診察、必要に応じて各種検査(表1)を行い、原因検索します。
表1 意識障害に至った際に実施される主な検査
中枢神経疾患 | 頭部CT、頭部MRIなど |
失神 | 12誘導心電図、胸部単純X線、心エコー、胸部CT検査など |
低酸素 | 血液ガス分析など |
電解質・代謝性病態 | 血液検査、血糖測定など |
感染性病態や体温異常 | 血液検査、各種培養検査、髄液検査など |
中毒 | 血液検査、トライエージ®など |
また、意識障害の原因検索ツール「AIUEOTIPS(アイウエオチップス)」(表2)による評価も行います。
表2 AIUEOTIPSを用いた原因検索(Fさんの場合)
Fさんのアセスメント内容 | |||
---|---|---|---|
A | Alcohol | 急性アルコール中毒 | 入院治療中でアルコール摂取はありません。 |
I | Insulin | 糖尿病昏睡、低血糖 | 血糖値は、180mg/dLでコントロールされています。 |
U | Uremia | 尿毒症 | 尿毒症は、血液検査や尿検査から異常ありません。 |
E | Encephalopathy、Endocrinopath、Electrolytes | 肝性脳症、内分泌障害、低ナトリウム血症などの電解質異常 | 電解質は、血液検査から異常ありません。 |
O | Overdose、Oxygen | 睡眠薬、鎮静薬、麻薬、呼吸不全 | SpO2は95%ですが、血液ガス分析では異常ありません。 |
T | Trauma、Temperature | 外傷、低体温、熱中症 | 外傷はありません。 |
I | Infection | 感染症 | 感染が疑われる所見はありません。 |
P | Psychogenic | 解離性障害、うつ、統合失調症 | 既往歴に精神疾患や中毒はありません。 |
S | Shock、Stroke、Seizure、Syncope | ショック、脳卒中、てんかん、血管迷走神経性失神など | 意識障害があり、ショックを認め、胸腹部を押さえ苦悶表情があります。 |
一次評価や二次評価から、Fさんは脳卒中や心血管系疾患が疑われます。実際、頭部CT所見では頭蓋内病変はみられなかったものの、胸部単純X線検査で縦隔拡大、胸部CTで大動脈解離を認めました。
大動脈解離を発症すると、大動脈弁閉鎖不全、心タンポナーデ、心不全、四肢虚血、末梢循環障害が起こり、重篤な状態に陥ります。
緊急度を判断する
Fさんは、検査で大動脈解離を認めています。また、ショックに伴う脳の血流低下により意識障害を起こしていることから、緊急度は高いと判断します。
状態に合わせて対処する
Fさんは急性大動脈解離を発症しているため、安静にし、酸素投与、輸液、降圧管理を行います。状態悪化時に緊急処置ができるよう、ICU管理、物品の確認、緊急手術の準備をします。家族への病状説明も必要となるため、調整・連絡もします。
医師に報告する
医師への報告は、簡潔明瞭に行います。「ISBARC」(表3)を活用するとよいでしょう。
表3 ISBARCを用いた報告例
報告例 | |
---|---|
Identify (報告者と患者の同定) | ・○○病棟の看護師××です。糖尿病内科に入院中のFさんについて報告します。 |
Situation (患者さんの状態) | ・午後のバイタルサイン測定で訪室したところ、意識障害を認めます。 ・胸部や腹部に激しい痛みがあるようです。 |
Background (入院の理由・臨床経過) | ・明日退院の予定ですが、朝から倦怠感と食欲不振を訴えていました。 ・バタルサインは、血圧100/40mmHg、脈拍130回/分、呼吸数38回/分、体温36.1℃、SpO295%です。GCSはE3V3M4、瞳孔所見の異常はありません。 ・明らかな麻痺は確認できませんが、胸に右手を当て痛がる様子があります。 ・簡易血糖値は180mg/dLです。 |
Assessment (状況評価の結論) | ・脳卒中や心血管系疾患が疑われます。 |
Recommendation (提言または具体的な要望・要請) | ・至急診察をお願いします。 ・画像検査、採血などが必要でしたら指示をお願いします。 |
Confirm(指示受け内容の口頭確認) | ・採血とCT検査ですね。準備します。 |
対応の流れを振り返る
意識障害がみられる患者さんへの対応の流れについて、フローチャートで振り返ります。