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【連載】病棟・外来で役立つ! 事例で学ぶ急変・救急対応

痙攣を起こした患者さんのアセスメントと対応

  • 公開日: 2021/5/17

事例紹介

患者背景

Iさん、60歳代、男性


・既往歴:脳梗塞で入院歴あり

・内服歴:抗凝固薬


現病歴

下血があっために救急外来を受診し、消化管出血の診断で入院中。パルスオキシメーター装着中で、意識レベルは清明。気道、呼吸、循環動態に特に逸脱はみられず経過していた。


入院後3日目、面会中の家族より「いつもと比べて様子がおかしい」と訴えあり。Iさんに近づき挨拶をすると、呼びかけに開眼するもののすぐに閉眼。見当識障害と意識レベルの低下がみられた。詳しく身体診察を行っていると急に右手が小刻みに震え出し、その後、呼びかけにも反応がなくなった。眼球は上転し、全身の筋肉に硬直がみられ、大きな震えが出現した。


身体所見

・痙攣発生前

意識レベルGCS* 12(E3V4M5)、呼吸15回/分、脈拍78回/分、血圧138/76mmHg、SpO2 99%、体温36.8℃


・痙攣発生後

意識レベルGCS 3(E1V1M1)、呼吸8回/分、脈拍145回/分、血圧220/146mmHg、SpO2 88%、体温36.5℃

瞳孔径R=L(5.0㎜)、対光反射鈍麻、眼球の偏位あり


*グラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale:GCS)


状態を把握する

事例から読み取るべき患者さんの状態

・呼びかけに反応しない

・眼球の偏位がある

・全身の筋肉に硬直がみられ、大きな震えが出現している


状態把握のために必要な知識とポイント

ポイント1:痙攣のタイプを把握する

 痙攣の際は、患者さんに意識がないことが多くあります。そのため、発見者から情報収集しながら、痙攣が起こっている部位(全身性、局所)、種類[強直性(筋収縮が一定時間続く)、間代性(筋肉が収縮と弛緩を交互に繰り返す)]、持続時間、眼球の異常、流涎、呼びかけに対する反応を確認し、痙攣のタイプを把握していきます。


 Iさんは眼球が上転し、全身の筋肉に硬直がみられ、大きな震えが出現していることから、全身性の強直性痙攣を起こしていると考えられます。全身性の強直性痙攣では、弓なりの姿勢になる「後弓反張」がみられることが多くあるため、その有無を確認することも大切です。


 痙攣の発症原因となる病態は多岐にわたります(表1)。頭蓋内病変だけではなく、他の疾患も考慮しながら介入していく必要があります。


表1 全身性痙攣の主な原因

原因
特発性(真性)痙攣原因がはっきりとしない痙攣
症候性痙攣(てんかん)

1.頭蓋内器質的疾患

脳血管障害(脳出血、脳梗塞)、頭部外傷、結節性硬化症、周産期脳損傷

2.頭蓋内感染症

髄膜炎、脳炎、脳寄生虫、神経梅毒、脳腫瘍、敗血症

3.脳循環障害

心室細動(VF)、Adams-Stokes発作など不整脈による失神、ショック、高血圧性脳症、子癇

4.代謝性疾患

低血糖、高血糖、電解質異常(低Na血症、高Na血症、低K症、低Mg血症)、高浸透圧状態、低酸素血症、尿毒症、肝性脳症、副腎・甲状腺疾患、熱中症

5.中毒、薬剤性

コカインなど幻覚薬、リチウム、リドカイン、三環系抗うつ薬、テオフィリン、アルコール離脱症候群(振戦せん妄)、一酸化炭素中毒、鉛中毒
その他

1.感染症

高熱による悪寒戦慄
2.精神科疾患

心因性発作(転換性障害、ヒステリー)、偽性痙攣発作(心因性痙攣発作)、過換気症候群、パニック発作

日本救急医学会,監:救急診療指針 改訂第5版.へるす出版,2018,p.283.より引用一部改変


ポイント2:ABCDを評価する

 A(気道)、B(呼吸)、C(循環)、D(意識)で初期観察をしますが、気道と呼吸の状態に特に注意して評価していきます。


 Iさんは、全身性の強直性痙攣が持続し、呼びかけに反応がなく、意識レベルはGCS 3(E1V1M1)に低下しています。意識レベルの低下により、舌根沈下や口腔内に分泌物が貯留しやすく、気道閉塞を起こす可能性が高い状態です。


 痙攣時は、全身の筋肉の収縮や脳代謝の亢進に伴い酸素を多く消費します。さらに、呼吸筋が随意運動の影響を受けることで呼吸抑制が起こりやすくなります。そのため、呼吸数や呼吸パターン、SpO2値を確認し、呼吸障害による低酸素血症に陥っていないか確認します。


 Iさんは痙攣発生後、呼吸8回/分と徐呼吸になり、SpO2も88%と低下していることから、呼吸障害による低酸素血症を生じていると考えられます。


ポイント3:検査結果を確認する

 痙攣時は、原因検索と状態判断のために、血糖値、動脈血採血(血液ガス)、一般採血などの検査が必要になります。


◆血糖値

 血糖値は一般採血のほかに、迅速な結果を得るために簡易的な血糖測定器を用いた方法でも測定します。低血糖による痙攣は早期対処が可能なため、その有無を必ず確認します。


◆血液ガス

 血液ガスは、どれか1つの項目の値だけに注目するのではなく、系統的にみていくことが大切です。特に、pH、乳酸値の上昇の有無、重炭酸イオン(HCO3-)、血液ガス上の酸素化(PaO2、PaCO2)は呼吸状態を判断するうえで重要になります。


 Iさんに起きた全身性の強直性痙攣では、呼吸障害による低酸素血症を起こしている可能性があります。その程度を知るうえで、血液ガスから呼吸性・代謝性アシドーシスを判断します。


 乳酸値の上昇では代謝性のアシドーシスが考えられ、PaO2の低下では、痙攣により呼吸が抑制されたことが考えられます。原因が中枢神経系による呼吸中枢の抑制に伴うものであれば、PaCO2が増加し、呼吸性のアシドーシスになることが予測されます。


 本事例の場合、痙攣により乳酸値が上昇し代謝性のアシドーシスを招くとともに、徐呼吸に伴う酸素化の異常で呼吸性アシドーシスも生じている可能性があります。


◆一般採血

 一般採血では、電解質異常の有無(K、Na、Mg値)、肝機能値、腎機能値を確認します。抗痙攣薬を内服している場合は、抗痙攣薬に対する血中濃度が適切な値を保てているか把握します。


 ほかに、12誘導心電図で不整脈(心室頻拍、心室細動、Adams-Stokes発作)の有無を確認し、心原性の失神を否定することも重要です。


緊急度を判断する

 訪室した直後は、意識レベルの低下以外、バイタルサインのABCは保たれている状態でした。


 しかし、痙攣が出現してからは呼びかけに反応がなくなり、意識レベルの低下を認めました。徐呼吸、頻脈、血圧の上昇、散瞳、対光反射鈍麻、眼球の偏位などもみられ、全身性の強直性痙攣の持続状態であることから、緊急度は高いと判断しました。


状態に合わせて対処する

◆痙攣を発見した看護師

 痙攣を発見した場合に重要なことは、その場所から離れずに緊急コールを鳴らす、または大きな声で助けを呼ぶなど応援要請をすることです。これは、発見者が患者さんの状態把握を行う必要があることと、二次的な合併症(ベッドからの転落とそれに伴う頭部外傷、ルート類が挿入されている場合の計画外抜去など)を予防するためです。Iさんは痙攣を起こしているため、その場を離れずに応援要請をします。


 Iさんは意識レベルが低下しており、舌根の沈下が生じると気道閉塞に繋がることから、用手的に気道を確保します。酸素投与を行い、呼吸が弱ければバックバルブマスクで呼吸を補助し、口腔内に分泌物が貯留している場合は吸引を実施します。用手的に気道・呼吸が保てない場合は、気管挿管の適応になるため準備と介助が必要です。


◆応援の看護師

 応援の看護師は、救急カートを持って病室に駆け付け、速やかに医師へ報告します。痙攣時は気道、呼吸、循環動態、意識レベルに変動をきたしやすいため、パルスオキシメーターだけでなく、心電図モニターを装着して、バイタルサインを経時的に把握します。

  

 抗痙攣薬(ジアゼパム)を投与するための末梢静脈路を確保し、薬剤の準備をします。ジアゼパムは呼吸抑制があるため、投与の際には注意して観察します。


 検査や処置の介助につく看護師、経時的に起きた出来事などを記録する記録者など役割を明確に決めると、混乱が生じず、適切に対応することができます。


医師に報告する

 全身性の強直性痙攣発作の持続は緊急事態です。医師には状況を簡潔的に伝える必要があり、ISBARCという方法がよく用いられます。


 急変事例では、ISBARCのすべてについて報告する必要はなく、直面している状況を要領よく手短に報告します。今回の事例であれば表3のように報告します。


表3 ISBARCを用いた報告例

報告例
Identify
(報告者と患者の同定)
・○○病棟の看護師××です。△△病棟のIさんについて報告します。
Situation
(患者さんの状態)
・Iさんが全身性の強直性痙攣を起こしています。
Background
(入院の理由・臨床経過)
・消化管出血により入院中です。
・意識レベルはGCS:E1V1M1、瞳孔径R=L(5.0mm)、対光反射鈍麻、呼吸は徐呼吸で、SpO288%、脈拍145回/分、血圧220/146mmHgです。
・現在も痙攣は消失していません。
Assessment
(状況評価の結論)
・低酸素血症を起こしていることも考えられ、危険な状態です。
Recommendation
(提言または具体的な要望・要請)
・至急診察をお願いします。
・酸素投与を行い、救急カートを用意して、抗痙攣薬を投与できる準備をしています。
Confirm(指示受け内容の口頭確認)・(医師から指示があれば、指示の内容を復唱)

対応の流れを振り返る

 痙攣を起こしている患者さんへの対応の流れについて、フローチャートで振り返ります。

痙攣フロー

参考文献

●日本救急医学会 監:救急診療指針 第5版.へるす出版,2018.

●日本神経学会 監:てんかん診療ガイドライン2018.医学書院,2018.

●池上敬一,他:患者急変対応コース for Nursesガイドブック.日本医療教授システム学会.中山書店,2008.



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