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【連載】病棟・外来で役立つ! 事例で学ぶ急変・救急対応

発熱している患者さんのアセスメントと対応

  • 公開日: 2021/7/15

事例紹介

患者背景

Nさん、50歳代、女性


・身長154cm、体重72kg、BMI 30.4kg/m2

・既往歴:なし

・内服歴:なし


現病歴

右大腿骨遠位下部粉砕骨折により手術を実施。術後は右大腿から下腿遠位にかけてシーネ固定を必要としたが、本日、手術後1カ月が経ち、午前中にシーネを除去。午後からはリハビリ室で右下肢の関節可動域訓練(ROM訓練)を実施した。家族仲は良く、連日娘が3歳の孫を連れて面会に訪れている。孫は保育園に通っており、最近、咳や鼻水を認めていた。


19時に食事の下膳をするため訪室したところ、食事摂取量が少ないことが確認できた。Nさんに何か変わりがないか尋ねると、「今日はシーネを外すのに緊張しちゃって、リハビリもやったからね。疲れちゃったわ」と返答があった。表情はいつもと変わった様子はないものの、やや赤ら顔で頻呼吸を呈している。体温を測定したところ、38.5℃。昨日から咳と喉の痛みがあるとの訴えあり。


身体所見

意識レベルGCS15(E4V5M6)、呼吸30回/分、脈拍80回/分(心房細動)、血圧138/72mmHg、体温38.5℃、SpO2 99%(室内気)

呼吸(呼吸苦、息切れなし、呼吸補助筋の使用なし)、呼吸音(副雑音聴取なし)


ADL

手術後1カ月の間は、シーネ固定のため松葉杖歩行(右下肢免荷)を実施


検査

・胸部単純X線:異常陰影なし

・胸部CT:異常陰影なし

・血液検査:WBC 12900/μL、CRP 3.74mg/dL、D-ダイマー 0.5μg/mL


状態を把握する

事例から読み取るべき患者さんの状態

・赤ら顔で頻呼吸を呈している

・昨日から咳と喉の痛みがある

・発熱を認める


状態把握のための知識とポイント

ポイント1:感冒の可能性を確認する

 発熱以外に咳・鼻水・喉の痛みの有無、症状の出現時期、どのくらい続いているか、同じような症状を呈する人が身近にいないかを確認します。発熱のほかに、咳・鼻水・喉の痛みのうち2つ以上の症状を認めれば感冒が疑われます。Nさんは孫が保育園に通っており、最近、咳や鼻水を認めていたことから、感冒である可能性が高いことが考えられます。


 ウイルス感染の場合、3日以内に解熱しますが、4日以上発熱が続く場合は細菌感染の可能性が考えられ、発熱の原因検索を行っていく必要があります。インフルエンザが流行している時期であれば、インフルエンザの迅速検査を行います。


ポイント2:肺炎の可能性を確認する

 肺炎による発熱を疑う場合は、咳や痰、呼吸苦の有無、聴診により肺副雑音の有無、酸素投与の必要性、呼吸補助筋の使用、呼吸数を確認します。また、食事のときにむせ込むなどのエピソード、既往歴に嚥下に影響を与える疾患がないかを確認することも大切です。


 Nさんは肺炎につながるような既往がなく、呼吸苦や呼吸補助筋の使用はありません。呼吸数は30回/分と頻呼吸ですが、SpO2 99%(室内気)で肺副雑音の聴取もありません。採血データ上、炎症所見の上昇は認めるものの、胸部単純X線やCT画像上、陰影は認めていません。肺炎の可能性は否定できます。


ポイント3:尿路感染症の可能性を確認する

 女性は尿道が男性よりも短く、尿路感染症のリスクが高くなります。Nさんは松葉杖を使用し、自力で排泄行為ができており、清潔の保持も問題ありませんでした。また、排尿時痛や尿の混濁、残尿感、頻尿などの症状もないことから、尿路感染症は否定的です。


ポイント4:カテーテル熱の可能性を確認する

 点滴の挿入は、皮膚のバリア機能に破綻をきたします。そのため、点滴が挿入されている場合は、発赤、腫脹、熱感、排膿の有無を観察します。Nさんは食事摂取が可能であり、点滴の投与はされていないため、カテーテル熱は否定的です。


ポイント5:褥瘡感染の可能性を確認する

 1カ月間のシーネ固定による皮膚との摩擦によって、皮膚トラブルを生じる可能性があります。シーネと皮膚の接触部に傷や発赤、腫脹、浸出液がみられないか確認します。


ポイント6:薬剤熱の可能性を確認する

 身体所見や検査所見で異常を認めない場合は薬剤熱を疑います。薬剤熱は、比較3原則(比較的元気・比較的徐脈・比較的CRPが低い)が特徴です。


 新たに使用を開始した薬剤はないか、使用している点滴や内服薬もすべて確認し、発熱以外の症状が出現していないか観察します。薬剤熱は、薬剤を中止することで72時間以内に解熱します。


ポイント7:深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症の可能性を確認する

 Nさんはギプスが外せたことで、右下肢のROM訓練が実施されました。1カ月間のシーネ固定により右下肢の動きが制限されると、静脈血栓が形成され肺塞栓症のリスクが高くなります。大きな血栓が肺の太い血管に詰まることで呼吸苦や息切れ、胸痛を生じますが、一部で発熱を認めることがあります。


 Nさんは、咳嗽はありますが、呼吸苦や息切れはなく、SpO2 99%(室内気)で経過しています。また、所見を疑うDダイマーは低値であり、深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)や肺血栓塞栓症の可能性は低いと考えます。


緊急度を判断する

 Nさんは前日から咳・喉の痛みがあり、本日になり発熱を認めています。咳や鼻水の症状があった孫との接触(Sickコンタクト)があることから、風邪症候群の可能性が高いと考えます。


 採血データ上、WBC・CRPの上昇を認めていますが、フィジカルアセスメントや検査所見から鑑別に挙げた疾患の可能性は考えにくく、緊急度は低いと考えます。今後、熱型やバイタルサインの変化を観察していく必要があります。


 感染症が疑われ、quickSOFA(qSOFA)に照らして、「意識の変容」「呼吸数≧22回/分」「収縮期血圧≦100mmHg」のうち2項目以上満たす場合は敗血症の可能性があり、集中治療を考慮する必要があるため、緊急度が高いと判断します。


 ほかに、足を動かしたときに、突然の足の痛みや呼吸苦・息切れが出現し、採血によるDダイマーが高値の場合、DVTや肺血栓塞栓症を発症していることが考えられ、緊急度は高くなります。


状態に合わせて対処する

 発熱は免疫系を活性化させる生体防御反応の一つです。そのため、ルーチンの解熱療法は実施しません。ただし、発熱による不快感がある場合、呼吸需要および心筋酵素需要の軽減、中枢神経障害の予防が必要なケースでは解熱療法が行われます。


 Nさんの場合、症状緩和を目的にクーリングを開始するとともに、適切な水分補給や安静を促しました。


医師に報告する

 Nさんは、感冒による発熱の可能性があるため、ISBARCのツールに従って、医師への報告を行いました(表)。報告は結論から述べ、簡潔に伝えることが大切です。


表 ISBARCを用いた報告例

報告例
Identify
(報告者と患者の同定)
・◎◎病棟の看護師××です。◎◎病棟のNさんについて報告します。
Situation
(患者さんの状態)
・Nさんが38.5℃の発熱を認めています。
Background
(入院の理由・臨床経過)
・右大腿骨粉砕骨折の術後入院中で、本日よりROM訓練が開始されています。
・SpO299%、呼吸回数30回/分、血圧138/72mmHg、脈拍数80回/分です。
・Nさんは昨日より咳と喉の痛みを訴えており、面会に来られているお孫さんが風邪をひかれていたそうです。
Assessment
(状況評価の結論)
・SpO2低下や呼吸苦がないこと、Sickコンタクトがあり、喉の痛みと咳嗽を認めていることから、感冒の可能性があると思います。
Recommendation(提言または具体的な要望・要請)
・インフルエンザの検査を行いますか。
Confirm(指示受け内容の口頭確認)
・インフルエンザの迅速検査ですね。

対応の流れを振り返る

 発熱がみられる患者さんへの対応の流れについて、フローチャートで振り返ります。


発熱フロー

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