薬剤投与中にアナフィラキシー症状を起こした患者さんのアセスメントと対応
- 公開日: 2021/7/1
事例紹介
患者背景Mさん、30歳代、男性
・既往歴:なし
・内服薬:なし
現病歴
バイクを運転中の交通事故。右下腿骨骨折にて入院となり、当日に内固定術の手術を施行。術後、抗菌薬の点滴投与を実施。点滴投与開始15分後に、「全身の皮膚に掻痒感が出現している」と患者さん本人よりナースコールにて看護師に報告あり。看護師が身体診察を実施すると全身紅潮、腹部や大腿部内側に膨隆する皮疹が出現していた。
身体所見
意識レベルJCS 0、呼吸回数24回/分、脈拍90回/分、血圧98/50mmHg、SpO2 99%、体温36.5℃
・呼吸:喘鳴なし、咳嗽なし、嗄声なし
・呼吸音:副雑音聴取なし
・循環:橈骨動脈触知可能、四肢の末梢温暖
・全身紅潮、腹部や大腿内側に膨隆する皮疹、掻痒感の自覚症状あり
状態を把握する
事例から読み取るべき患者さんの状態
・全身に皮膚の掻痒感と紅潮、腹部や大腿部内側に膨隆する皮疹が出現している
・抗菌薬の投与後に症状が出現している
・喘鳴、咳嗽は認められない
・脈拍、血圧に異常はみられない
・橈骨動脈の触知が可能で、末梢の冷感はない
状態把握のために必要な知識とポイント
ポイント1:全身観察を行うMさんは全身の掻痒感を訴えています。全身観察を行ったところ、全身紅潮のほか、腹部や大腿部内側に膨隆した皮疹が認められました。抗菌薬の投与後に症状が出現していることから、薬剤に対するアレルギー反応が全身性に生じた、薬剤性のアナフィラキシー症状の可能性が示唆されます。
ポイント2:ABCDを評価する
喉頭浮腫などによる上気道閉塞を考え、気道は開通しているか、喘鳴や嗄声、咳嗽の出現、呼吸困難感や咽頭の異物感の有無、呼吸状態(呼吸回数、呼吸様式、チアノーゼの有無)を観察します。また、意識レベルや、不穏・興奮の有無を確認します。
Mさんは、自ら掻痒感を言葉として伝えていることから、発声に必要な息の通り(気道開通)はあり、意識障害はありません。喘鳴や咳嗽を認めず、喉の違和感も訴えていないため、喉頭浮腫や上気道閉塞を起こしている可能性は低いと考えられます。
さらに、アナフィラキシーショックを疑い、速やかに橈骨動脈、大腿動脈、頸動脈を触知し、血圧と頻脈・徐脈の有無を確認します。Mさんは、橈骨動脈の触知が可能で末梢の冷感がなく、その後のバイタルサイン測定においても、脈拍90回/分、血圧98/50mmHgであり、ショックには至っていません。
ポイント3:再度、皮膚症状を観察する
はじめの全身観察で気づけていない可能性がある、他の身体部位の皮膚症状(発疹、発赤の有無)を観察します。ほかに、嘔気・嘔吐、下痢や腹痛といった消化器症状の出現がないかの確認を行います。
ポイント4:抗原の曝露から症状出現までの時間を確認する
刺激性アレルゲン(抗原)が投与・摂取されてから症状出現までの時間を確認します。一般的に、原因となる抗原による曝露から早くて1分以内、多くは1時間以内に発症します。抗原の曝露から症状出現までの時間が短く、急激であるほど重篤とされています。
緊急度を判断する
Mさんは、上気道閉塞、血圧低下、脈拍異常を認めないため、緊急度は低いと考えられます。
血圧低下、頻脈・徐脈を伴うショック症状、意識レベルの低下や不穏・興奮状態を認める場合は、緊急度が高いと判断します。
状態に合わせて対処する
薬剤により皮膚症状や呼吸器症状が出現した場合は、抗原となる薬剤を直ちに中止します。静脈注射による投与を行っている患者さんでは原因薬剤を中止し、輸液ルートを新しいものに交換します。貼付薬剤であればすぐに剥がし、経口摂取の場合は胃洗浄が検討されます。
Mさんは、抗菌薬を点滴投与した後に皮膚症状が出現しています。速やかに抗菌薬の投与を中止し、全身観察とバイタルサインを測定します。
また、アナフィラキシーショックを生じている場合は、血管拡張による相対的な循環血液量減少、毛細血管透過性の亢進に伴う血管内容量の減少が起こるため、大量の輸液投与を行います。
呼吸、循環に異常をきたしている場合は、アドレナリン(皮膚・粘膜の血管を収縮させ、末梢血管抵抗を高める)の筋肉内注射をし、さらに重篤であれば静脈内投与を実施します。投与中は不整脈の出現や異常な血圧上昇を生じる可能性があるため、生体監視モニタリング機器を装着し観察を行います。
呼吸困難、発声困難、上気道狭窄症状(ストライダー*、頻呼吸など)が認められるケースでは、気道確保を行い、気管挿管が困難な場合は輪状甲状間膜切開が考慮されます。
なお、初期症状が軽快した数時間後に再発する二相性反応(遅発性反応)には注意が必要です。症状が一旦改善し緊急度が低下しても、症状の再発がないか経過観察を行います。
アナフィラキシー症状を発症した患者さんへの主な対応については、表1も参考にしてください。
*ストライダー:喉頭や中枢気管支の狭窄によって生じる連続性ラ音。吸気時に「ゼーゼー」「グーグー」と聞こえる
表1 アナフィラキシー症状を発症した患者さんへの主な対応
1.原因除去 ・経静脈的な薬剤の場合は直ちに中止、経口摂取の場合は胃洗浄を考慮する・蜂刺症の場合、針が残っていればそれを除去する |
2.容量負荷(大量輸液) ・等張液(生食、乳酸・酢酸リンゲル液)を1~4L投与する |
3.アドレナリン筋肉内投与、重篤な場合は静脈内投与(皮下注射は効果が遅くなる危険があるため望ましくない) ・筋肉内投与:0.3~0.5mgを15~20分ごとに繰り返し投与する・静脈内投与:0.1mgを5分かけてゆっくり投与、数分後ごとに繰り返す。持続投与の場合は1~4㎍/分で投与する ・β遮断薬を服用の場合はグルカゴン投与を考慮する。1~2mgを5分以上かけて静脈内投与、または5~15㎍/分で持続投与 |
4.抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー、H2ブロッカー) ・H1ブロッカー:クロルフェニラミン(ポララミン5mg)・H2ブロッカー:ファモチジン(ガスター20mg) |
5.ステロイド ・アナフィラキシーにおける気道浮腫やショックへの即効性効果はない・即効性のものでも効果発現まで4~6時間かかる ・メチルプレドニゾロン(ソルメドロール)125mgを4~6時間ごとに反復投与する |
6.喉頭浮腫を合併した場合は気道確保 ・100%酸素を投与し、必要であれば気管挿管、輪状甲状間膜切開を行う |
7.下気道浮腫(気管支喘息)を合併した場合はβ2選択的作動薬吸入 ・サルブタモール(ベネトリン)0.5~1.0mLを15~20分ごとに吸入する |
河野寛幸:アナフィラキシーの治療.ERで役立つ救急症候学-病態のメカニズムと初期治療-.シービーアール.2012,p.62.より引用一部改変
医師に報告する
医師に報告する際は、簡潔にわかやすく伝えることが重要です。ISBARCに沿って報告するとよいでしょう(表2)。
表2 ISBARCを用いた報告例
報告例 | |
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Identify (報告者と患者の同定) | ・○○病棟の看護師××です。△△病棟のMさんについて報告します。 |
Situation (患者さんの状態) | ・薬剤を投与後に発赤と膨隆疹、掻痒感の出現を認めています。 |
Background (入院の理由・臨床経過) | ・右下腿骨骨折で入院し、術後に抗菌薬の投与を行いました。 ・抗菌薬を投与後、全身の掻痒感、発赤、膨隆疹を認めました。 ・上気道の呼吸音は平静で、血圧は98/50mmHgです。末梢は温暖で、意識障害の出現は認めていません。 |
Assessment (状況評価の結論) | ・薬剤投与によるアナフィラキシーと判断し、薬剤は中止しています。 |
Recommendation(提言または具体的な要望・要請) | ・患者さんの診察と追加治療を実施するかの指示をお願いします。 |
Confirm(指示受け内容の口頭確認) | ・(医師から指示があれば、指示の内容を復唱) |
対応の流れを振り返る
薬剤投与中にアナフィラキシー症状がみられた患者さんへの対応の流れについて、フローチャートで振り返ります。
参考文献
●河野寛幸:アナフィラキシーの治療.ERで役立つ救急症候学-病態のメカニズムと初期治療-.シービーアール.2012,p.60-2.
●日本救急看護学会 監:アナフィラキシー.ファーストエイド すべての看護職のための緊急・応急処置.第2版.へるす出版,2017,p.92-7.
●日本救急医学会 監:救急診療指針 第5版.へるす出版,2018,p.555-9.