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【連載】病棟・外来で役立つ! 事例で学ぶ急変・救急対応

失神を起こした患者さんのアセスメントと対応

  • 公開日: 2021/6/30

事例紹介

患者背景

Lさん、30歳代、女性


・既往歴:片頭痛のみ。検診で特に異常の指摘なし

・内服歴:片頭痛に対して処方されている漢方薬を内服中

・アレルギー:なし


現病歴

深夜の救急外来を友人と受診。問診用紙には、腹痛にチェックあり。問診用紙の自由記載欄には「トイレで気が遠くなった」と記載あり。


「今日はどうされましたか?」の問いかけに対し、「急にお腹が痛くなって、トイレで座っていたら冷や汗が出てきて、気分が悪くなって。気を失って、気が付いたらトイレの壁にもたれかかっていました。友達がドアを開けて助けてくれたみたいです」と回答。院内トリアージの段階では腹痛症状は既に消失しており、これといった症状や徴候はなかった。


友人「お腹が痛いと言っていたLさんの声が急に聞こえなくなり、壁に身体が当たるような物音がしたので急いでドアを開けたら、Lさんが倒れていました。2~3度声をかけるうちに意識が戻りました。時間にして30秒前後だったと思います。顔色は血の気がなくて青ざめていましたが、数分でよくなりました」


・最終食事:午前中に屋外バーベキュー

・最終月経:5日前


身体所見

意識レベルJCS 0(意識清明)、呼吸18回/分、脈拍70回/分、血圧120/75mmHg、体温36.5℃、SpO2 97%

皮膚に冷感湿潤なし、顔色良好、外傷なし


検査

12誘導心電図:異常なし


状態を把握する

事例から読み取るべき患者さんの状態

・トイレで冷や汗が出てきて、気分が悪くなった

・トイレで気が遠くなり、気を失った

・意識が回復した直後は顔面蒼白がみられたが、数分でよくなった

・受診時の第一印象では、呼吸・循環・意識に緊急性のある異常はない

・受診時のバイタルサインの異常、ショック徴候は認められない

・12誘導心電図で異常は認められない


状態把握のための知識とポイント

ポイント1:ABCDを評価する

 受診時のLさんは、第一印象で特に問題はなく、バイタルサインの異常やショック徴候も認められませんでした。


ポイント2:てんかん発作との鑑別を行う

 Lさんは問診用紙に「トイレで気が遠くなった」と記載し、「今日はどうされましたか?」という問いかけに対しては、「気を失って、気が付いたらトイレの壁にもたれかかっていた」と回答しました。


 失神患者さんのほとんどは、自らの症候を「失神」とは申告せずに、「気が遠くなった」「倒れた」「転んだ」「目の前が暗くなった」「めまい」「貧血」など、多岐にわたる表現をするといわれています1)。Lさんも「失神」とは申告せずに、「気が遠くなった」「気を失った」と表現しました。


 失神は「一過性の意識消失の結果、姿勢が保持できなくなり、かつ自然に、また完全に意識の回復がみられること」と定義されています2)。原因は血圧低下による一過性全脳虚血であり、一過性意識障害の半数以上を占めます。血圧低下による一過性全脳虚血であることから、救急搬送された失神患者さんの17%に外傷の合併がみられるとされています1)。失神の分類は表1のとおりです。


表1 失神の分類

分類救急患者における失神の頻度内訳
起立性低血圧による失神約15%①原発性自律神経障害
②続発性自律神経障害
③薬剤性
④循環血液量減少
反射性(神経調節性)失神)30~40%①血管迷走神経性失神
②状況失神:咳嗽失神、排便失神、排尿失神など
③頸動脈洞症候群
心原性(心血管性)失神約10%
①不整脈
②器質的疾患
原因不明の失神
約35%

European Society of Cardiology et al:Task Force for the Diagnosis and Management of Syncope.Guidelines for thediagnosis and management of syncope (version 2009). EurHeart J 2009;30(21):2631-71. より引用改変


 失神に似た状態として、てんかん発作が挙げられます。てんかん発作との鑑別では、一過性意識障害が短時間に自然に回復したか、それとも意識障害が数分以上遷延した後で徐々に意識が回復したかがポイントとなります。


 また、失神の場合、前駆症状として悪心・嘔吐、冷汗、血の気の引くようなめまい感があります。はじめの問診の時点で、Lさんから「冷や汗が出てきて、気分が悪くなって」というフレーズが出ています。これは、失神の前駆症状であることが考えられます。


 その場にいた友人からの情報も、失神なのか、それともてんかんなど他の原因なのかを考える際に参考になります。友人は、トイレで「お腹が痛い」と言っていたLさんの声が急に聞こえなくなり、壁に身体が当たるような物音がしたために急いでドアを開け、2~3度声をかけるうちにLさんの意識が戻ったと話しました。時間にして30秒前後の出来事であったそうです。


 そのときのLさんの顔面は蒼白していましたが、数分で顔面蒼白はなくなったとの情報もありました。ここでの顔面蒼白という情報は、一時的な低血圧状態であったことを示唆する情報になります。


ポイント3:12誘導心電図を確認する

 失神の中でも予後不良といわれているのが、不整脈や器質的心疾患が原因となる心原性失神です。12誘導心電図で心拍数や心電図波形に異常が認められれば高リスクである可能性が高く、異常を認めなければ心原性失神の可能性は大幅に低下する3)とされています。Lさんの場合、12誘導心電図に異常は認めませんでした。


緊急度を判断する

 問診で得た情報、バイタルサイン数値、身体所見などの情報を統合して緊急度の判断を行います。決して、一つの症状や状態、数値だけで判断しないよう注意します。


 12誘導心電図で異常があった場合は、緊急度レベルを上げる際の根拠になるほか、失神に伴う外傷がある場合は、その程度も緊急度を決定する際の情報になるため、注意深く観察します。


 Lさんの場合、問診から得た情報やバイタルサイン、身体所見、12誘導心電図に異常は認められず、緊急度は高くないと判断できます。


状態に合った対処の仕方

 心電図は、失神患者さんの診療において必須の検査であるといわれています4)。失神を疑う患者さんには12誘導心電図を実施し、異常があった場合は心電図モニタリングを行います。


 また、Lさんは意識清明ですが、バイタルサインの異常や冷汗、顔面蒼白などの症状が持続していれば頻回に状態観察を行い、末梢静脈ラインの確保など先読みをした対処が必要となります。


医師への報告

 報告をする際は、ISBARCに沿って要領よく手短に行います。仮に、Lさんが12誘導心電図で徐脈性不整脈を認めている場合、報告例は表2のようになります。


表2 ISBARCを用いた報告例

報告例
Identify
(報告者と患者の同定)
・救急外来の看護師××です。独歩で来院された30歳代女性のLさんについて報告します。
Situation
(患者さんの状態)
・Lさんがトイレでの失神を疑うエピソードで受診しています。
Background
(入院の理由・臨床経過)
・心疾患の既往はありませんが、12誘導心電図で徐脈性不整脈を認めています。
Assessment
(状況評価の結論)
・徐脈性不整脈が原因の心原性失神が考えられ、緊急度は高いと考えます。
Recommendation(提言または具体的な要望・要請)
・早急に12誘導心電図波形の確認と診察をお願いします。
Confirm(指示受け内容の口頭確認)
・(医師から指示があれば、指示の内容を復唱)

対応の流れを振り返る

 失神を起こした患者さんへの対応の流れについて、フローチャートで振り返ります。

失神フロー

引用文献

1)日本内科学会:内科救急診療指針2016.総合医学社,2017,p.22-3.

2)日本循環器学会,他:失神の診断・治療ガイドライン 2012年改訂版,p.3.

3)日本内科学会:内科救急診療指針2016.総合医学社,2017,p.26.

4)日本循環器学会,他:失神の診断・治療ガイドライン 2012年改訂版,p.42

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