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【連載】病棟・外来で役立つ! 事例で学ぶ急変・救急対応

血圧の異常がみられる患者さんのアセスメントと対応

  • 公開日: 2021/6/1

事例紹介

患者背景

Jさん、70歳代、女性


・既往歴:高血圧(普段の血圧は140/85mmHg程度)、糖尿病

・内服歴:アムロジン(降圧薬)、メトグルコ(血糖降下薬)

・入院前のADL:自立


現病歴

数日前から発熱を認め、本日から体動困難となり病院を受診。腎盂腎炎の診断で抗菌薬加療が開始され、夜間帯に緊急入院となった。


身体所見

・入院時バイタルサイン(3:00)

JCS10(呼びかけで開眼するが、指示動作が入るときと入らないときがあり、今ひとつはっきりしない)、呼吸30回/分、脈拍132回/分、血圧104/38mmHg、平均血圧60mmHg、SpO2 95%、体温38.7℃


入院時ADL:ストレッチャーで病棟に入院。

ベッドへの移動はぐったりしており自分でできないため、全介助で実施した。


・バイタルサイン(6:00)

JCS100、呼吸34回/分、脈拍141回/分、血圧86/32mmHg、平均血圧50mmHg、SpO2 91%、体温38.2℃


意識レベルが低下しているのに気づき、医師に連絡。

敗血症性のショックの診断でICUに移動となる。


状態を把握する

事例から読み解くべき患者さんの状態

●血圧に異常が生じている可能性がある

 ・血圧が普段に比べて低い(収縮期だけでなく拡張期も低い)

 ・平均血圧が低い

 ・トレンドが下降傾向

●呼吸が促迫し、頻脈が認められる

●発熱している


状態把握のために必要な知識とポイント

ポイント1:敗血症の可能性を考慮する

 Jさんは呼吸促迫や頻脈を認めており、意識の変調や血圧も、普段と比較して数値が低い状態にあり、入院の時点からショックの徴候を認めていたといえます。


 また、Jさんは発熱しており、経過やバイタルサイン、症状から感染症が疑われます。感染症が疑われる際に考えないといけないのが敗血症の存在です。敗血症のスクリーニングツールでは、ベッドサイドで簡便に評価できるquickSOFA(qSOFA)を活用します(表1)。


表1 qSOFA

項目スコア
呼吸数≧22/分1
意識の変容1
収縮期血圧≦100mmHg1

※2点以上の場合は敗血症を疑う

Singer M et al,The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3).JAMA.315(8),2016,801-10.より引用


 JさんをqSOFAで評価すると、入院した3時の時点で「呼吸数」や「意識の変容」は基準を満たしていますが、「血圧」は該当していませんでした。


ポイント2:血圧を読み解く

 血圧は患者さんの状態や測定条件によって変動しやすく、数値が高い・低いといった情報だけを見てもあまり役に立ちません。本事例において、血圧をどのように読み取いたらよいか解説します。


 血圧には収縮期血圧(systolic blood pressure:SBP)、拡張期血圧(diastolic blood pressure:DBP)、平均血圧(mean arterial pressure:MAP)の3種類があります。この血圧を規定する因子は「心拍出量」と「血管抵抗」です。簡単にいうと、SBPは心臓の力そのものを表し、DBPは血管抵抗に依存します。


 敗血症の初期では、末梢血管が拡張し血管抵抗が低下します。また、血管透過性が亢進することから、血管外に水分が漏出し循環血液量が減少します。この2つが敗血症で血圧が低下する主な原因ですが、恒常性を保とうとする反応により、身体は血圧をなるべく維持するために心拍出量を増やします。


 ここで着目したいのが、脈圧(基準値40〜60mmHg)とDBPの値です。脈圧はSBPとDBPの差のことで、1回心拍出量を反映しています。脈圧が広い場合は心拍出量が増加していることが考えられ、脈圧が狭い場合は低拍出状態の可能性があります。


 Jさんの血圧は104/38mmHgのため、脈圧は66と増大しています。DBPが38mmHgと低く脈圧が増大しているということは、敗血症性ショックと矛盾しません。なお、脈圧が増大しているときは、脈拍を触知すると強く触れます。これが敗血症の初期に「ショック」と認識されず、介入が遅れる要因の1つです。


 また、MAPの値を確認することも重要です。MAPは、心臓以外の臓器灌流の決定因子とされています。MAPの低下では臓器障害を生じることが問題となるため、「日本版敗血症診療ガイドライン2020」では、MAP65mmHg以上を目標とすることが記載されています1)


 MAPは「DBP+(SBP-DBP)/3」で算出します。これに当てはめると、JさんのMAPは60mmHgとなり、入院時からガイドラインの目標を下回っていることがわかります。このことから、Jさんは臓器障害を起こすリスクが高い状態といえます。


 入院時に評価に迷ったとしても、MAPの推移やバイタルサインの変動を短い間隔で再評価できれば、より早期に対応できたかもしれません。


 自動血圧計も動脈圧ラインのどちらも、SBPやDBPは条件によって誤差を生じますが、MAPは比較的正確に表示されるため、双方のデバイスにおいて最も信頼がおけるといわれています。臨床で着目してください。


緊急度を判断する

 緊急度は、1つの情報(今回であれば血圧の数値)だけでは判断できません。Jさんの場合、MAPが改善していないこと、頻脈が継続している状態から増悪傾向であることがうかがえ、緊急度は高いといえます。


 意識レベルの評価は、夜間帯の緊急入院かつ高齢者の場合、普段からこんなものかもしれないと思い込んでしまいがちですが、感染による意識障害の可能性をアセスメントできれば、緊急度や重症度の根拠となります。


状態に合わせて対処する

 Jさんはショック状態のため、心電図モニターの確認や酸素投与ができるよう、医師到着までに準備しておきます。輸液負荷やノルアドレナリンを使用する可能性も考えられることから、シリンジポンプをすぐ使えるように準備したり、必要であれば末梢静脈路をもう1本確保します。


 今回のケースでは抗菌薬の投与が始まっていますが、敗血症を疑う場合は、血液培養の採取や抗菌薬の投与が予測されるため、すぐ対応できるよう準備を整えます。


 定期的にモニタリングをしていく場合、血圧は同じ条件で測定することが大切です。


医師へ報告する

 医師に報告する際、血圧の値だけを伝えても、「だから何?」となってしまいます。アセスメントした結果、懸念していることや大事なことをまず伝えましょう(表2)。


 今回のケースであれば、MAPが低く、呼吸促迫や頻脈も持続しており「ショック状態」ということになります。緊急入院のため情報は限られますが、普段の血圧の値や外来での経過、入院後の経過などの情報から増悪傾向ということも介入しなければならない1つの根拠となります。


表2 ISBARCを用いた報告例

報告例
Identify
(報告者と患者の同定)
・○○病棟の看護師××です。△△病棟のJさんについて報告します。
Situation
(患者さんの状態)
・腎盂腎炎の診断で、本日入院したJさんがショックの状態です。
Background
(入院の理由・臨床経過)
・入院時から平均血圧が60台と低く、呼吸・循環不全がさらに悪化しています。
Assessment
(状況評価の結論)
・敗血症性ショックの状態が改善されていないため、危険な状態だと思います。
Recommendation(提言または具体的な要望・要請)
・すぐに診察をお願いします。
・到着までの間、何か準備しておくことはありますか?
Confirm(指示受け内容の口頭確認)
・(医師から指示があれば、指示の内容を復唱)

対応の流れを振り返る

 血圧の異常がみられる患者さんへの対応の流れについて、フローチャートで振り返ります。


血圧のフロー

引用・参考文献

1)日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会:日本版敗血症診療ガイドライン2020.日集中医誌 2021;28(Supplement):23-26.

●上田剛士:Dr.上田のもうダマサれない身体診察.メディカ出版,2019.

●田中竜馬:Dr.竜馬のやさしくわかる集中治療 循環・呼吸編 改訂版.羊土社,2020.

●内野滋彦:収縮期血圧と平均血圧”血圧90”って何?.INTENSIVIST2011 2011;3(2):280-1.

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