敗血症の看護|原因、診断、治療、看護のポイント
- 公開日: 2024/3/15
はじめに
皆さまは敗血症に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。
「感染症がひどくなって、全身の具合が悪くなった」という大まかなイメージは思い浮かぶ方が多いかもしれませんが、具体的に言葉で説明するのはとても難しいことと思います。
本記事では、国内ガイドラインである「日本版敗血症診療ガイドライン2020」と国際ガイドラインである「Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock 2021」をもとに、敗血症の大事な要点をわかりやすく解説してまいりたいと思います。
敗血症とは
敗血症は「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義されています1)。
感染症によって、人間の生体反応が調節できなくなってしまい、生命を脅かす臓器障害を起こしてしまう病態のことを指しており、特定の疾患ではなくさまざまな感染症をきっかけに生じます。
イメージが湧きやすいように、一つ例を挙げたいと思います。
尿路感染症を発症したご高齢の患者さんが入院されました。発熱があって汗をたくさんかいており、脱水症で腎臓の機能が落ちています。また、呼吸も苦しそうで、頻呼吸になっています。意識もどこかぐったりしていて傾眠傾向です。
この患者さんの病気は尿路感染症ですが、それによって身体が生体反応を起こし、その結果として全身の症状・臓器障害が引き起こされていますよね。 このような状態のことを「敗血症」と呼んでいます。
古い書籍では「菌血症」という言葉が「敗血症」と同じ意味で使われていることがありますが、現在その二つは明確に区別されています。
敗血症の原因
敗血症は、細菌やウイルス、真菌といったさまざまな病原体によって引き起こされます。
細菌が原因となることが最も多いとされていますが、敗血症患者さんの約半分が細菌培養陰性であったという報告2)もあり、原因となった病原体がわからないこともあります。
感染源としては、肺炎、腹腔内感染症、尿路感染症の頻度が高いといわれています。
敗血症のリスクが高い患者さんとは
敗血症の代表的なリスク因子として、65歳以上の高齢者、免疫抑制状態、糖尿病、肥満、悪性腫瘍が挙げられます。
また、敗血症のリスクとなる状況としては、集中治療室で治療している、菌血症である(血液培養が陽性)、肺炎による入院、新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2)に罹患しているなどがあります。
したがって、私たちは上記に当てはまるような感染症の患者さんを受け持ったときに、重症化しないかどうか、普段よりも注意して観察をする必要があります。
敗血症の診断
敗血症の診断は「①感染症もしくは感染症の疑いがあり、かつ②SOFA(sequential organ failure assessment)スコアの合計2点以上の急上昇」1)をもって行います。
SOFAスコア(表1)とは、意識・呼吸・循環・肝・腎・凝固に分けて臓器障害を評価するスコアリングのことです。各臓器障害を認めない場合を0点として、臓器障害が重篤になるほどスコアが高くなるように設定されています。
したがって、感染症を疑う状況であり、SOFAスコアが普段よりも2点以上の急上昇を認めた時点で、その患者さんは敗血症の診断となります。
表1 SOFAスコア
スコア | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
意識 Glasgow coma scale | 15 |
13-14 |
10-12 |
6-9 |
<6 |
呼吸 PaO2 / FIO2(mmHg) |
≧400 |
<400 |
<300 |
<200および呼吸補助 |
<100および呼吸補助 |
循環 |
平均血圧≧70mmHg |
平均血圧<70mmHg |
ドパミン<5μg / kg / 分 あるいは ドブタミンの併用 |
ドパミン5-15μg / kg / 分 あるいは ノルアドレナリン ≦0.1μg / kg / 分 あるいは アドレナリン≦ 0.1μg / kg / 分 |
ドパミン>15μg / kg / 分 あるいは ノルアドレナリン >0.1μg / kg / 分 あるいは アドレナリン>0.1μg / kg / 分 |
肝 血漿ビリルビン値(mg / dL) |
<1.2 |
1.2-1.9 |
2.0-5.9 |
6.0-11.9 |
≧12.0 |
腎 血漿クレアチニン値 (尿量〔mL / 日〕) |
<1.2 |
1.2-1.9 |
2.0-3.4 |
3.5-4.9 (<500) |
≧5.0 (<200) |
凝固 血小板数(× 103 / μL) |
≧150 |
<150 |
<100 |
<50 | <20 |
以前は、ベッドサイドで敗血症を早期発見するためにスクリーニングスコアとして、qSOFA(表2)というものが用いられていました。しかしながら、現在qSOFAは特異度が高いが感度が低い(見逃しが増えてしまう)という点において、使用する際は注意が必要であるとされています。
表2 quick SOFAスコア
意識変容 |
呼吸数≧22回/分 |
収縮期血圧≦100mmHg |
敗血症の症状
敗血症の一般的な症状としては、低血圧、頻脈、頻呼吸、発熱・低体温があり、それに加えて感染源に一致した症状(肺炎:喀痰、咳嗽、呼吸困難など、腹腔内感染症:腹痛など)が出現します。
また、敗血症が重篤になって、敗血症性ショックへと進行した場合は、ショックの徴候(意識障害、CRT延長、チアノーゼなど)を来すこともあります。
敗血症の治療
敗血症の治療の重要なポイントとして「早期発見・評価」、「初期蘇生」、「感染源の検索と治療」、「集中治療管理」が挙げられます。
早期発見・評価
病歴聴取、バイタルサインの評価を始めとする診察、気道確保や酸素投与などの呼吸安定化、静脈路の確保などを行いながら、初期検査(血液検査、微生物学的検査、画像検査など)を行います。
敗血症の予測、早期介入が敗血症診療の鍵となりますので、早期発見・評価は常に念頭に置きましょう。
初期蘇生
最初の3時間以内に晶質液を30mL/kg投与を検討し、さまざまな指標を参考にして輸液負荷を行います。また、平均動脈血圧の目標は65mmHgとします。
これらはあくまでガイドラインに則った推奨ですので、こまめにエコー検査などで個別に評価を行う場合は、必ずしも守らなければいけないわけではありません。
輸液の過剰投与による弊害も指摘されておりますので、適切な輸液療法をさまざまな指標で考える必要があります。
使用する輸液の第一選択は晶質液(乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液、生理食塩水など)となります。多量の輸液を要した症例に関しては、アルブミン製剤の使用を検討する場合もあります。
血管収縮薬を用いるときは、「ノルアドレナリン」の使用を第一選択とし、ノルアドレナリンを増量していく際に、「バソプレシン」を追加で使用することもあります。
また、ボリュームステータスや動脈血圧が適切であるにもかかわらず、臓器の低灌流が持続している場合には、ノルアドレナリンに「ドブタミン」を追加するか、「アドレナリン」を単独で使用することがあります。
さらに敗血症性ショックの状態で昇圧薬を使用している場合、ステロイドの投与を検討することもあります。
このあたりは施設や医師によって、治療の考え方・フローが異なりますので、ぜひ各施設のご事情を確認していただきますようお願いいたします。
感染源の検索と治療
敗血症性ショックの可能性がある、または敗血症の可能性が高い人には、可能であれば認知してから直ちに抗菌薬を投与することが推奨されています。
また、抗菌薬を投与するだけでなく、培養検査の提出や感染症の原因検索を行い、原因となった感染源に応じた治療を検討することも非常に大切です。 敗血症の原因となった感染源によっては、ドレナージや手術治療が必要となる場合もあります。
集中治療管理
ICU入室が必要な敗血症、敗血症性ショックの患者は、早期の入室を検討します。
敗血症は前述の循環管理や感染症治療に限らず、せん妄の予防、呼吸管理、栄養療法、リハビリテーションなどさまざまなアプローチで全身の管理を行う必要があります。
医師・看護師だけでなく、さまざまなメディカルスタッフのサポートが必要となり、モニタリングも頻回になることから、ICUをはじめとするユニットでの集中治療管理は非常に大切です。
敗血症の予後
文献によってさまざまですが、ある研究では敗血症の死亡率は10%以上、敗血症性ショックの死亡率は40%以上と報告されています3)。
予後不良因子として、年齢や高血糖、凝固異常、発熱・低体温、白血球減少、血小板減少、併存疾患の存在が挙げられます。感染部位としては、尿路感染による敗血症が最も死亡率が低いといわれており、腸管虚血による敗血症の死亡率が高いという報告もあります4)。
敗血症の長期予後として、退院後も死亡リスクや再入院のリスク上昇との関連が示唆されており、睡眠障害や関節痛、認知機能の低下、臓器障害の残存など長期的な影響を残す場合もあります。
敗血症の看護におけるポイント
①早期発見
敗血症の治療を行う上で一番大切なのが早期発見です。
どの病棟にいる患者さんであっても、感染症はいつ発症してもおかしくはありません。
かつてはqSOFAを用いたスクリーニングが推奨されていましたが、現在は他のスクリーニングツールと比較して推奨されていません。
一つのスコアに頼るのではなく、各施設・各病棟でよく見る患者さんや病気に合わせたルール・フローをみんなで確認することが大切です。
②第六感の言語化
皆さんが持っている第六感を言語化することも非常に大切です。
「何か変だな」「なんとなく具合が悪そう」など状態の変化に気づいたときは、バイタルサイン測定や問診・アセスメントを行い、具体的にどのような変化があるのか言語化をしてみましょう。
「なんとなく具合が悪そう」という気づきから「傾眠傾向、見当識障害」を発見することができれば、それは意識障害の増悪というアセスメントになり、敗血症の早期発見における大きなヒントとなります。
③各臓器における症状・身体所見の客観的な評価
敗血症診療で大切なのは、血液検査や画像検査だけではありません。症状や身体診察でのみ取得することのできる情報から気づく臓器障害の進行もあります。
以下に各臓器における確認すべき症状・身体所見の例を挙げます。
神経 | JCS、GCS、脳神経症状、四肢の運動・感覚、せん妄意識変容 |
循環 | 脈拍、血圧、モニター心電図、心音、末梢冷感、CRT、浮腫、動悸、ふらつき |
呼吸 | 呼吸数、SpO2、呼吸音、呼吸様式、喀痰の性状、痰の吸引頻度脈拍 |
腎・電解質 | 尿量、尿の色、飲水量、体重、浮腫、口渇感 |
消化管・肝 | 腸蠕動音、便の性状、排便回数、食事摂取量、嘔気、腹痛 |
内分泌・血糖 | 血糖値、脈拍、体温、浮腫、活動性 |
④栄養療法、せん妄の評価と管理、リハビリテーション
近年、敗血症・敗血症性ショックが栄養状態の悪化や認知機能の低下、廃用症候群の進行に関連しているということが、トピックになっています。
医師だけでなく、看護師や他のメディカルスタッフも含めみなさんの力を合わせて取り組む必要があります。
栄養療法
栄養の投与目標を明確に共有し、食事摂取量や便の性状に応じて栄養投与方法、食事内容変更の提案を行いましょう。栄養療法はとても大切ですが、同時に害になってはいけません。目標設定したうえで、適切な投与経路、適切な形態、適切な増量方法を意識しましょう。
せん妄の評価と管理
敗血症による重症患者の認知機能低下は非常に大事な問題です。リハビリテーションなどの刺激はもちろん、せん妄を見逃さないことや適切な生活リズムを維持できるようにすることも大切です。リハビリテーションの進行、せん妄のスクリーニング、睡眠時間を意識した観察を行いましょう。
リハビリテーション
重症患者だからといって、ずっとベッドで横になっているままでは、筋力低下・関節拘縮が進行するだけでなく、他の疾患発生リスクも増加させてしまいます。
医師にリハビリテーションの制限をこまめに確認して、可能な範囲内で継続をしていきましょう。最初は関節可動域訓練や受動的な運動が主となるかもしれませんが、リハビリテーションスタッフと連携しながら、適切なステップアップをしていきましょう。
引用文献
1)日本版敗血症診療ガイドライン2020. 日本集中治療医学会雑誌 2021;28:
2)Shipra Gupta et al. Culture-Negative Severe Sepsis: Nationwide Trends and Outcomes. Chest. 2016 Dec;150(6):1251-1259.
3)Mervyn Singer et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016 Feb 23;315(8):801-10.
4)Aleksandra Leligdowicz et al. Association between source of infection and hospital mortality in patients who have septic shock. Am J Respir Crit Care Med. 2014 May 15;189(10):1204-13.
参考文献
●Laura Evans et al. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock 2021. Intensive Care Med. 2021 Nov;47(11):1181-1247.
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