【連載】ICU・HCU看護のQ&A! 皆さんの疑問にお答えします!
アドレナリン製剤の種類と使い分けが知りたい!
- 公開日: 2025/8/26
アドレナリンの作用
アドレナリンは交感神経系に作用するカテコラミン製剤の一種で、心停止やアナフィラキシーショックなど、生命の危機的状況において使用される薬剤です。特に集中治療や救急においては、アドレナリンの薬理作用、適応、製剤の種類、濃度、投与経路の違いを理解しておく必要があります。
アドレナリンの薬理作用は、主にα受容体およびβ受容体に対する刺激作用です。α1受容体に作用することで血管収縮を引き起こし、末梢血管抵抗が上昇して血圧が上がります。また、β1受容体に作用することで心筋の収縮力が増強され、心拍数が増加して心拍出量が上昇するほか、β2受容体に作用することで気管支平滑筋が弛緩し、気道が拡張します。このように、アドレナリンは循環および呼吸に対する作用をもっており、急変時や重症患者さんに対して用いられます。
心停止時での使用
アドレナリンは複数の製剤が存在しているため、それぞれの濃度や投与方法を把握しておくことが必要です。
救急カートを確認すると、ボスミンⓇ1mgあるいはアドレナリン注0.1%シリンジ「テルモ」が常備されていると思います。濃度はいずれも1mg/mLで、心停止時に静脈内または骨髄内に原液投与します。アドレナリンはAdvanced Cardiovascular Life Support(ACLS)においても標準化された投与薬剤となっており、投与することで速やかに循環動態に作用し、心拍再開が期待できます。
なお、アドレナリンと似た名前をもつ薬剤にノルアドレナリン(ノルアドリナリンⓇ注1mg)がありますが、β受容体への作用が弱いため、心停止に対しては使用しません。
アドレナリンは心停止時以外にも用いられます。例えば、ICUにおいて、血圧維持が困難なショック状態の患者さんがいた場合、ボスミンⓇ注1mgを50mLの生理食塩水や5%ブドウ糖液で希釈して、シリンジポンプで投与速度を細かく調整しながら持続的に静脈投与することがあります。希釈濃度や投与速度は、医師の指示や施設のプロトコールで取り決めがあるはずですから、常に医師の指示内容を確認し、持続投与に用いる場合は原液のままボーラス投与されることがないように注意します。
アナフィラキシーショック時での使用
アナフィラキシーショックの際は、筋肉内注射用アドレナリンが用いられます。エピペンⓇという商品名で聞き覚えのある人もいるのではないでしょうか。
エピペンⓇは自己注射薬で、アドレナリン0.3mg(または0.15mg)が含まれています。主に院外での一次対応に用いられますが、院内であっても、常備されているものがあれば使用したり、患者さんが保有しているエピペンⓇがあればそれを投与したりすることもあります。エピペンⓇは筋肉内注射が前提です。静脈内に投与すると過量投与となり、重篤な不整脈や血圧の急上昇などを引き起こすおそれがあるため、正しい投与方法を確認しておきましょう。
また、アナフィラキシーショックに対しては、ボスミンⓇ注1mgやアドレナリン注0.1%シリンジ「テルモ」が用いられることもあり、投与量を調整したうえで、筋肉内注射をします。心停止時とは投与量も投与経路も異なる点に注意が必要です。
アドレナリン取り扱い時の注意点
救急カートや病院の薬剤管理においては、ラベル表示をわかりやすくしたり、薬剤の保管場所を統一したりしていると思いますが、こういったことが臨床での迅速な対応に影響します。さらに、病棟、救急、ICUにかかわらず、チーム全体で薬剤の取り扱いについて共有し、急変対応シミュレーションなどを定期的に行うことができれば、誤投与の防止につながります。
アドレナリンを取り扱ううえで最も留意すべき点は、「同じアドレナリンでも、濃度・投与方法・目的が大きく異なる」ということです。「アドレナリンを静注して」と指示された場合、心停止時は1mg/mL製剤の原液を1mL静注するのが適切1)ですが、アナフィラキシーショックに対して1mL静注すると過剰投与になります。適切な濃度・投与方法でなければ蘇生効果が得られなかったり、逆に有害事象を起こしたりする可能性があるため、患者さんの状態や目的に応じて、正しい製剤を選択できる知識と判断力をもつことが看護師として不可欠です。