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【連載】循環器科で必要な看護技術を学ぼう!

経皮的心肺補助法(PCPS)装着の準備・介助、合併症

  • 公開日: 2023/7/3

PCPS装着の準備・介助

 PCPSを装着し、駆動を開始させるまでの流れは表1のとおりです。PCPS装着は、心肺蘇生と同時並行で行う場合もあり、実際にはもっと複雑になります。

 PCPS装着にあたって、回路の充填薬剤、カニューレのサイズ・留置方法(セルシンガー法、セミセルシンガー法、カットダウン)など、どの診療科がどのような処置方法で行うのか、準備者や介助者は誰になるのかは、患者さんの状態や使用物品、施設・部署によって異なります。

 看護師として重要なことは、施設内でPCPS装着になったケースが発生した際の各職種の役割や使用物品、手順を確認しておき、PCPS装着の流れをイメージできるようになっておくことです。

表1 PCPS装着・駆動開始までの流れ

①PCPS装置、回路(充填含む)、送脱血カニューレ、処置用資材やエコーを準備する(準備を依頼する)
②必要に応じて患者さんを移動する。左右のベッド柵は下ろし、頭・足元の柵は取り外し、高さを調整する
③穿刺部位を露出させる(時間的猶予がある場合は、身体の下に防水シーツを敷き、後頸骨動脈や足背動脈の拍動を確認し、マーキングを行う)
④エコーにより穿刺血管を同定する
⑤穿刺部および周囲を消毒する
⑥術者・介助者は滅菌手袋、滅菌ガウン、マスク、帽子を装着する
⑦滅菌ドレープで清潔野を展開する
⑧送脱血カニューレ、処置器械など資機材を術野に出す
⑨穿刺針を挿入、ガイドワイヤーを留置し、ダイレーターで穿刺部を拡張する(または皮膚を切開し、血管を露出させる)
⑩送脱血カニューレを留置し、クランプする(血管を露出している場合は、穿刺または血流を遮断し、血管を切開して留置する)
⑪ヘパリンを静脈投与する(50-100単位/kg)
⑫回路を術野に出し、クランプされていることを確認し切断する
⑬ヘパリン加生食でカニューレ内を満たしながら、回路とカニューレを接続する
⑭遠心ポンプの回転数を上げ、回路のクランプを外す
⑮流量を確認し、酸素流量と回転数を調整する(初期目安 血液流量:O2流量=1:1)
⑯穿刺部を保護し、回路を固定する
⑰胸部レントゲン写真などでカニューレの位置、採血にてACT値を確認する

PCPS装着中の合併症

患者関連の合併症

 PCPS装着で患者さんに関連する代表的な合併症は、①出血、②感染、③神経学的合併症(低酸素・血栓塞栓)、④下肢虚血です。

①出血

 回路内での血液凝固を予防するため、抗凝固薬が投与されます。また、回路内で血小板が活性化ならびに凝集することで、血小板や凝固因子が減少します。そのため、易出血傾向となり、カニューレ穿刺部から出血したり、鼻腔などの粘膜や消化管出血を引き起こしたりすることもあります。ACT値を適宜確認するとともに、出血させないよう愛護的ケアを行います。体動によって出血を助長する場合もあるため、不用意に刺激を与えないことや適切な鎮静管理が求められます。

②感染

 PCPSを装着している患者さんには、PCPSの送脱血カニューレ以外に多くのラインが留置されています。重症患者さんは栄養状態も不良の場合が多く、感染しやすい状態にあり、時に敗血症を引き起こすこともあります。患者さんの清潔保持、的確な抗菌薬投与、ライン管理、栄養管理など、基本的な感染対策をしっかりと行います。

③神経学的合併症(低酸素・血栓塞栓)

 PCPSを装着している間は、患者さん自身の肺(自己肺)で酸素化を十分に行う必要がないため、人工呼吸器の設定値は下げていることが多いです。

 自己肺の機能が低下していると、患者さん自身の心臓(自己心)から送り出される血液は十分に酸素化されていないことがありますが、その場合、自己の心拍出と大腿動脈から逆行性に送られる血液とが混ざる位置によって、酸素化が不十分な血液が脳へ灌流されます。

 この自己心からの血流とPCPSからの血流が混ざるところはミキシングゾーンと呼ばれ、通常は右手で経皮的酸素飽和度(SpO2)を測定し、脳へ流れ込む血液が適切に酸素化されているかを評価します(図)。

 また、回路内に形成された血栓が脳の血管に飛び、脳梗塞を発症することもあります。

図1 ミキシングゾーンとその位置の変化

政岡祐輝:PCPS装着中の看護のポイント.ICUでよく使う機械の入門・実践を看護の視点で解説(前編)IABP・PCPS.重症集中ケア 2017;16(5):52.より引用

④下肢虚血

 PCPSでは、大腿動脈に太いカニューレが留置されるため、下肢血流が阻害され虚血を引き起こすことがあります。

 下肢虚血の有無を早期に発見するためには、後頸骨動脈や足背動脈といった下肢動脈の拍動触知(またはドップラーで確認)、皮膚温の確認が大切です。下肢虚血が疑われる場合は、末梢に向けた別のカニューレを留置し、PCPS回路の送血側にある側枝と接続し、下肢血流を確保することもあります。

図2 末梢側への灌流

末梢側への灌流

 ①~④の合併症以外にも肺合併症、腎機能障害、腸管合併症などを引き起こすことがあるほか、PCPSを装着する患者さんは、重症患者さんに起こり得る2次的合併症も発生しやすくなります。

装置・回路関連の合併症・トラブル

 装置や回路関連の主な合併症やトラブルとしては、①回路内血栓、②人工肺不全、③溶血、④血液流量減少、⑤空気混入、⑥カニューレの事故抜去、⑦突然の停止が挙げられます。

①回路内血栓

 PCPS装着中は、ヘパリンで抗凝固管理され、抗血栓のコーティングが施された回路が用いられますが、回路内血栓はどうしても発生してしまいます。

 好発部位は人工肺や回路分枝部・接続部ですが、それ以外に形成されることもあります。定期的に脱血カニューレから送血カニューレまでをペンライトなどを当てながら目で追っていき、血栓がないか確認する必要があります。

 脱血カニューレから人工肺までの間で発見した血栓は、形成されていた部位を記録に残し、継続して観察します。人工肺から送血カニューレの間で発見した血栓は、塞栓症を引き起こす可能性があるため、速やかに医師に報告し、必要に応じて回路交換などの処置介助を行います。

②人工肺不全

 人工肺不全は、回路内血栓とともに頻度が高い合併症で、血栓や結露によって起こります。人工肺不全が起こっているかどうかは、送血管と脱血管の血液の色(酸素化されていれば鮮血色となる)、人工肺出口での血液のガス分析で判断できます。

 人工肺前後に圧力センサーを設置している場合は、その圧較差の推移で判断することも可能です。結露に関しては、ガスフラッシュ(人工肺につながっている酸素の流量を一時的に上げて、結露を飛ばす)を行います。血栓や結露以外にも、長時間の利用によって血液の血漿成分が漏れ出し、酸素化が阻害されることもあります(血漿リーク)。

③溶血

 遠心ポンプからの吸引が脱血速度を超えた場合(特に脱血カニューレが細い場合)や回路内の抵抗が増した場合、赤血球が壊れ溶血が発生します。溶血尿の有無を観察するほか、脱血に問題がある場合は脱血側回路がガタガタと振動するので目視や触って確認したり、圧力センサー(脱血圧、人工肺前後)をモニタリングしたりすることで、回路内の問題を速やかに発見できるように努めます。

④血液流量減少

 PCPSに用いる遠心ポンプはローラポンプとは異なり、ポンプの回転数と血液流量は比例しません。回路内抵抗の上昇、脱血不良、送血カニューレ先の血管抵抗の上昇などの原因により、送り出す血液流量が減少します。脱血が十分でない場合は、先述のように脱血側の回路がガタガタと振動するため、圧力センサー(脱血圧、人工肺前後)の変化から問題点を推測します。

⑤空気混入

 空気混入は、脱血回路側の圧力が陰圧になっている回路分枝から採血などを実施した際の操作ミスで起こる可能性があります。その他に、回路を急に閉塞させることによって、血液内から気泡が発生してしまうこともありえます(キャビテーション)。

⑥カニューレの事故抜去

 カニューレの事故抜去が起こると、大量出血や回路内への大量の空気混入という重大な状況に陥ります。事故抜去が起きないように、カニューレの縫合や固定用テープで確実に固定されているか、回路の重みで引っ張られていないかの確認が必要です。体位変換時などは回路が引っ張られないように慎重なケアが求められます。また、もしもの際に備えて、回路をクランプするドレーン鉗子はPCPS装置と一緒に準備しておきます。

⑦突然の停止

 PCPSも機械なので、突然停止することもありえます。緊急事態に備え、必ず手回しポンプを置いておきます。突然の停止の際に、遠心ポンプから手回しポンプへの付け替え方法がわからない、手回しポンプの使い方がわからないでは困ります。必ず操作方法や回路の取りつけ方の確認・練習をしておくことが重要です。

イラスト/早瀬あやき

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