経皮的心肺補助法(PCPS)の看護|観察項目・手順とケアのポイント、アラームとトラブルシューティング
- 公開日: 2023/7/10
PCPS装着時の観察項目・手順とケアのポイント
駆動装置・回路部分の観察項目・手順
「経皮的心肺補助法(PCPS)装着の準備・介助、合併症」で紹介した合併症が発生していないかの確認が必要です。観察すべき項目はかなり多くなるため、駆動装置の確認、脱血管の刺入部から送血管の刺入部までというように、順を追って確認していくと漏れなく観察できます(図)。
図 PCPSの観察項目・手順
全身管理のポイント
PCPSの目的は心肺機能のサポートなため、酸素化された血液が組織・臓器(組織還流)に届けられているかを観察・評価することが重要です。
PCPSの流量はカニューレサイズに依存します。例えば、17Frの送血カニューレ、21Frの脱血カニューレを使用した場合、流量は2.0~3.0L/分以上となりますが1)、PCPSからの送血は心臓にとっては自己の心拍出とぶつかり合うことになる、つまり、後負荷が高まることになるため、流量をただ高く保てばよいというわけにはいきません。
流量がその患者さんにとって適切であるかは、平均動脈圧が65mmHg以上に保たれているか、尿量が確保されているか、乳酸値の上昇をきたしていないか、混合静脈血酸素飽和度(SvO2)>70%を保てているかなどで判断します。
回転数を変更していないにもかかわらず流量減少を認める場合には、その原因や原因特定に必要となる情報を観察し、速やかに医師に報告します。圧力センサーが取り付けられている場合は、数値の推移や変化である程度の原因を推測することが可能です(表1)。
表1 流量減少の原因と圧力モニター(回路内圧)値の変化
脱血管内圧 | 人工肺前圧 | 送血管内圧 | 考えられる原因 | |
---|---|---|---|---|
脱血不良 | ・循環血液量の減少 ・脱血カニューレの位置不良 ・回路の屈曲 | |||
ポンプ不全 | ・血栓形成 | |||
人工肺不全 | ・血栓形成 | |||
送血不良 | ・送血カニューレの位置不良 ・回路の屈曲 末梢血管抵抗の上昇 |
自己心からの心拍出量とPCPSからの流量がぶつかるミキシングゾーンの位置の把握も重要です(「経皮的心肺補助法(PCPS)装着の準備・介助、合併症」を参照)。ミキシングゾーンの位置はSpO2で推測しますが、ミキシングゾーンの位置によって自己心の回復状態を評価することもできます。
自己心が回復してきて、脳への血流が自己心拍由来になった場合は、人工呼吸器による酸素化の調整を図らなければなりません。
ここまで、装置・回路由来の合併症発生の有無の確認や循環・呼吸状態の評価について述べてきました。PCPSを装着する患者さんは、当然のことながら重症であるため、長期間の臥床状態を余儀なくされ、ICU入室期間も長くなります。
人工呼吸器関連肺炎(VAP)、廃用症候群、ICU神経筋障害(ICU-AW)、スキントラブル、せん妄、深部静脈血栓症といった、ICU入室患者さんに発症する2次的合併症の発症リスクも増大します。PCPSが装着されているから、「絶対安静」「全く動かさない/触らない」では、2次的合併症の予防が難しくなります。
適切な薬剤・ライン管理、愛護的なケア、不用意・不必要な侵襲を与えないといったことはもちろん重要ですが、循環動態の変調がないか、流量が確保されているかを確認しつつ、可能な範囲でのヘッドアップ、左右への後傾側臥位などの体位管理を考えなければなりません。体位を変えることによって、循環動態の変調や脱送血不良が起こる場合でも、マットレスを手で押し下げたり、小枕を挿入して除圧したりすることで、褥瘡予防が図れます。
その他に、経静脈栄養の組成は適切かどうかの確認、どのタイミングから経腸栄養を始めるのかの検討、尖足や関節拘縮を予防するための四肢ROM運動の実施など、栄養管理やリハビリテーションも検討し、可能な範囲で取り組んでいかなければなりません。
その他の観察ケア
PCPSを装着する患者さんは生命の危機状態に晒されるため、患者さん・家族のメンタルサポートも重要です。時に終末期ケアが必要になる場合もあります。
PCPSのアラームとトラブルシューティング
アラーム
PCPS装置のアラームの原因として、表2のようなものが挙げられます。
表2 PCPS装置の代表的なアラームの原因
PCPS装置で閾値を設定する必要があるアラームは、流量アラーム、圧力アラームです。設定値の目安はあるものの、状態悪化のトラブルを未然に防ぐために、どのような数値でアラートを出し、気づけるようにするかは患者さんごとに異なります。
トラブルシューティング
トラブルの発生状況にもよりますが、まずは応援を呼びます。PCPS装置が停止してしまう事態が起これば、速やかに手回しハンドルに回路を付け替えて、手動でポンプを回します。手動ポンプへの移行の間、自己心により血圧が保てない場合は心臓マッサージが必要です。
回路の接続部やカニューレの事故抜去などが発生した場合は、すぐに鉗子で回路のクランプ(送血側→脱血側と遮断する)、刺入部の圧迫を行います。流量の急激な低下であれば、応援が駆けつけるまでの間に、「駆動装置・回路部分の観察項目・手順」「全身管理のポイント」で紹介した内容をもとに確認を行い、駆け付けた医師・看護師に状況を伝えます。
引用文献
1)日本循環器学会,他:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).p.98.(2023年5月22日閲覧) https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf
イラスト/早瀬あやき