心不全患者さんの退院指導のポイントが知りたい!
- 公開日: 2026/3/3
増悪要因の個別把握と生活介入(食事と活動の再調整)
心不全管理の目的は、「心不全増悪の予防」と「再入院の予防」の大きく2点です。
まず、増悪予防においては、その患者さんがなぜ増悪に至ったのかを丁寧に振り返り、生活に起因する要因があれば、そこに焦点を当てた生活介入を行います。一般に、「食塩の過剰摂取」や「過活動」が増悪要因として挙げられますが、いずれについても客観的指標や明確な基準は十分とはいえないのが実情です。
減塩については、かつて推奨された「1日6g未満」という基準の根拠は十分ではなく、厳格な減塩が摂取エネルギー不足や微量栄養素不足を招くリスクも指摘されています1)、2)、3)。減塩の必要性やその程度は個別に判断し、エネルギー摂取が不足している場合には、まずエネルギー充足を優先します。高齢の心不全患者さんで過度な食塩摂取が疑われる場合にも、加工食品を減らして他の食品に置き換えるなど、エネルギー摂取量を維持しながら実践可能な減塩方法を提案することが重要です。
また、身体活動の低下が全死亡および心臓死リスクを高めることは複数の研究で報告されており、活動量の維持は極めて重要です4)。明確な根拠がないまま、「食塩の過剰摂取」や「過活動」を主因と決めつけ、強い制限を課すことは、QOLや生命予後を損なうおそれがある点に留意する必要があります。
なお、心不全増悪は原因が明確でない場合も少なくなく、病態によっては増悪そのものを完全に予防することが難しい場合もあります。その際にカギとなるのは、増悪の兆しを早期に捉え、適切に対応することで入院を回避する視点です
症状の意味付け支援と支援体制の構築
心不全のセルフケアは、以下の3要素で構成されます5)。
①セルフケア・メンテナンス(服薬、受診、運動、食事などの安定維持行動)
②症状の知覚(体重や症状のモニタリングとその変化の解釈)
③セルフケア・マネジメント(心不全増悪徴候や症状に気づいた後の具体的対応)
特に②③は、知識の提供のみでは行動に結びつきにくい領域です。心不全の症状は非特異的であり、他疾患でもみられることが多いという特徴があります。とりわけ高齢者では、息切れや倦怠感に対して無意識のうちに生活調整が加えられ、睡眠不足や気温などの環境要因として解釈されやすく、症状が心不全増悪と結びつかない場合があります。さらに、たとえ心不全症状として認識できたとしても、「もうすぐ外来受診日だから待とう」「1人では受診できない」「家族に迷惑をかけたくない」といった心理・社会的要因により、受診が遅れることも少なくありません。
このような背景にあるのが「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health:SDOH)」です6)。SDOHとは、人々が生まれ、生活し、働き、加齢していく環境に関連する非医学的要因を指し、セルフケア行動に直接的な影響を及ぼします。したがって、看護師をはじめとする医療者は、生活背景を踏まえた支援体制を整備することが求められます。
実践においては、患者さんとともに生活を振り返り、「当時の身体の変化が心不全の徴候であった」と理解できるよう支援します(症状の意味づけ支援)。そして、「次に同様の変化が生じた場合にどのように行動するか」を具体化し、体験の意味づけを行動変容へとつなげていきます。患者さん本人のみでの対応が困難な場合には、家族や地域資源を含めた支援体制の調整が不可欠です。
SDOHとは、患者さんが暮らし、年を重ねていくうえでの「非医学的な背景要因」を指します。心不全のセルフケアは、患者さんの努力や知識だけで成り立つものではありません。経済状況(受診費用の不安)、居住環境(急な坂道や階段の有無)、社会的孤立(独居で体調の変化を指摘してくれる人がいない)など、さまざまな要因が複雑に絡み合い、セルフケアの実行を阻む大きな「壁」となります。
これらの要因は、一見すると「本人の意欲」の問題のようにみえることがあります。しかし実際には、個人の努力だけでは解決が難しい社会的課題である場合が少なくなりません。看護師がSDOHの視点をもつことで、「なぜできないのか」という背景にある真の課題に気づき、多職種と連携した実行可能な支援へとつなげることができます。
脆弱期における移行期ケア
退院後30〜90日は、再入院が最も多い「脆弱期」とされており、この期間の再入院は適切な移行期ケアによって予防できることが少なくありません7)。退院時には次の点を確認します。
●うっ血が残っていないか
●外来受診が14日以内に設定されているか
●セルフケアが難しい場合、特別訪問看護指示などで訪問看護の支援が確保されているか
これらを確認することで、セルフケアのみに依存しない、多職種連携型の疾病管理へと円滑に橋渡することが可能になります。
引用文献
1)Grossniklaus DA,et al:Nutrient intake in heart failure patients. J Cardiovasc Nurs 2008;23(4):357-63.2)Lennie TA,et al:Micronutrient deficiency independently predicts time to event in patients with heart failure. J Am Heart Assoc 2018;7(17):e007251.
3)Ezekowitz JA, et al:Reduction of dietary sodium to less than 100 mmol in heart failure (SODIUM-HF): an international, open-label, randomised, controlled trial. Lancet 2022;399(10333):1391-400.
4)Doukky R, et al:Impact of physical inactivity on mortality in patients with heart failure. Am J Cardiol 2016;117(7):1135-43.
5)Riegel B,et al:The situation-specific theory of heart failure self-care revised and updated. J Cardiovasc Nurs 2016;31(3):226-35.
6)White-Williams C, et al:Addressing Social Determinants of Health in the Care of Patients with Heart Failure:A Scientific Statement from the American Heart Association. Circulation 2020;141(22):e841-63.
7)Ishihara S, et al:Incidence and Clinical Significance of 30-Day and 90-Day Rehospitalization for Heart Failure Among Patients With Acute Decompensated Heart Failure in Japan ―From the NARA-HF Study― Circ J 2020;84(2):194-202
