①測定部位でどう違う?|もっと知りたい! パルスオキシメータ
- 公開日: 2021/4/21
パルスオキシメータ(プローブ分離型)による経皮動脈血酸素飽和度(SpO2)の測定部位には、主に手指、耳朶、前額部があります。新生児や乳幼児では、指尖部以外に手の甲、足の甲も測定に利用されます。測定部位の違いによるSpO2の特徴をみていきましょう。
なぜ測定部位に指がよく使われるのか?
皆さんもご存じのとおり、測定部位としてよく使われているのは手指です。測定部位の中で、手指は最も血流が多く流れており、脈波信号が大きく安定しているため、臨床現場における測定部位としてよく使われているのです。
SpO2は、製造メーカーによって異なりますが、多くは体動などのノイズ処理を行うため4~8秒(拍)の脈波信号のデータを用いて移動平均処理を行い数値化していますので、脈波信号の安定性がとても重要となります。したがって、臨床現場では体動ノイズが多い、または持続的に混入する、手が冷たくて脈波が小さくひろいにくい場合は、数値が出るまで時間がかかり、表示された値が本当かどうか疑わしい、といった経験があると思います。
測定部位による脈波信号の変動の違い
SpO2を数値化するためには、脈波信号が安定しており、大きいほうが有利です。脈波信号の大きさを示す指標は、灌流指標(Perfusion Index)や脈動率(Pulse-amplitude Index)と呼ばれており、PIという略称を用いています(図1)。
(日本光電より提供)
マシモSET フィンガーパルスオキシメータ マイティサットの場合
(マシモジャパン株式会より提供)
PIとは、プローブで測定する拍動成分と無拍動成分との比率で数値化されます(PI(%)=拍動性分/非拍動性分×100)。PIが大きければプローブを装着した部位の血流が多く流れていることとなります。
PIには正常値という概念がありませんが、指では、おおよそ2~10%程度で、循環血液量や末梢循環の状態で大きく変動します。末梢循環不全などの低灌流状態では、手指が最もその影響を受けやすくPIは循環不全のない安静時の約1/5~1/10に減少します。そのため、手指で測定困難となるケースは、ベッドサイドでよくみられます。
室温変化に伴う測定部位ごとの脈波信号の振幅変化を示した研究1)では、Cold Room(14℃)において手指が最も影響を受け、一方、前額部では、影響を受けにくいことがわかっています。耳朶のPIは前額部と同様に1%前後で、もともと脈波信号が小さく体動などのノイズの影響も受けます。しかし、耳朶は手指よりも末梢循環不全におけるPIの減少率は小さいため、測定困難な場合には、近年、よく装着部位として活用されています。
測定の実際
筆者らが現場で経験した症例を紹介します(図2)2)。敗血症性ショックによる末梢循環不全のため手指は冷感が強く、また足趾は阻血による壊死もありSpO2は測定困難です。モニタ画面にSpO2が表示されても、脈波の認識ができず値は信頼できません。
しかし、耳朶測定では、心電図の心拍に同期した脈波を認識しSpO2が99%と表示され、動脈血採血したSaO2の値(98.2%)と近似した値であることが確認できました。
末梢循環不全のため手指での測定では、脈波が検出できず、その後SpO2の値は表示されたが脈波を認識せず、値の信頼性が欠けている。一方、耳朶では安定して測定。
動脈ラインが入っていたとしても、頻回の採血は患者さんに侵襲が伴います。手指で測定できないほどの末梢循環不全があるという病態把握が重要ですが、この事例のように耳朶プローブも選択肢として活用することをおすすめします。
測定部位による反応時間のちがい
心拍動によって大動脈から手や足などの末梢血管までの脈波伝搬速度は、末梢にいくにつれて速くなりますが、血流速度はその逆で遅くなります。血中酸素飽和度に変化が生じた血液が末梢血管まで到達する時間は末梢にいくほど数値として反映されるまで時間差が生じます。つまり、SpO2の測定において、測定部位によって反応時間に差があり、SpO2の値の変化も異なってきます。
筆者らは、成人の健常ボランティアを対象とし、息こらえによるSpO2・脈拍数・脈波信号の変化を前額部と手指で観察しました(図3)3)。息こらえにより、空気中からの酸素の取り込みを失ったことで肺シャント*が生じ、ガス交換のないまま還元ヘモグロビン(酸素と結合していないヘモグロビン)を多く含んだ血液が肺静脈から心臓へ流入し、全身へ流れることになります。そのため、SpO2は低下しますが、前額部では息こらえから16秒後に、指では30秒後にSpO2が下がり、約15秒の差がみられました。
*肺シャント…肺胞内のガスと肺胞毛細血管を流れる静脈血が接触せず、ガス交換がされないまま心臓に還流している状態
呼吸再開後は、前額部のSpO2が上昇へ転換しつつも手指ではまだ下がり続け、前額部より遅れて上昇していく過程が観察できました。注目すべきは、前額部でSpO2は75%まで低下しているにもかかわらず、指では84%までの低下にとどまっていることです。これは、より低酸素の血液が脳血流として流れていたことを示しています。
また、耳朶の測定においても、筆者らの別の研究では、前額部と同じように、手指よりもSpO2低下が早くみられ、呼吸再開後もよりはやく上昇が確認されました。足趾にプローブを装着している場合は、解剖学的に血流が到達するまで時間がかかり、前額部や耳朶に比べ1分以上の遅れがみられました。SpO2の変化をすばやくとらえるうえで、足趾の装着は、このことを十分認識しておくことが必要でしょう4)。
このSpO2の変化の遅延は、脈拍数や心拍出量の影響を強く受けます。低酸素血症では、脈拍が上昇する人もいれば、低下する人もいるため、個人差があることを認識しておきましょう。
臨床の場面では、多くは手指にSpO2を装着しているため、前額部、耳朶、足趾などで生じるこのようなダイナミックな時間差と変動は知る由もありません。血行動態に全く問題のない健康な人であれば遅延時間は短縮しますが、低心拍出量症候群や末梢循環不全があれば、遅延時間は健常者よりもさらに延長します。患者さんに生じたSpO2の変化は、どこへ装着したプローブによる変化であるか、イメージしてみることも患者さんの状態によっては重要です。
引用・参考文献
1) Bebout DE, et al: Effects of cold-induced peripheral vasoconstriction on pulse amplitude at various pulse oximeter sensor sites. Anesthesiology 2002:96(sup 2):A5582)中井浩司,他:当院における耳朶SpO2センサの使用状況と臨床応用の可能性について.医療機器,日本医療機器学 2010; 80(5):499-501.
3)中井浩司,他:前額部センサによるSpO2計測の臨床的意義.第16回日本臨床工学会論文集 日本臨床工学技士会会誌 2006;(28): 161-2. 4)Hamber EA, et al:Delays in the Detection of Hypoxemia due to Site of Pulse Oximetry Probe Placement. J Clin Anesth.1999;11(2):113-8.