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【連載】麻酔を極めよう!

第6回 末梢神経ブロック(伝達麻酔)|適応、方法、合併症・副作用

  • 公開日: 2021/6/21

末梢神経ブロック(伝達麻酔)とは

 末梢神経周囲に局所麻酔薬を投与する麻酔法で、伝達麻酔とも呼ばれます。脊柱管内の脊髄から出た脊髄神経(末梢神経)は四肢や体幹に枝分かれしていきます。手術部位に合わせた神経支配を考慮し、目的とする末梢神経本幹や神経叢(解剖学的に名前の付いた太い神経やその束)の周囲に行います。局所浸潤麻酔と異なり、ブロックされた神経より末端の神経支配領域全域が麻痺するため、より確実で強力な鎮痛方法と言えます。ブロック範囲は最低限に留められるため基本的に呼吸や循環への影響はなく、運動機能制限も限定的です。また抗凝固薬や抗血小板薬を服用していても施行可能な点(傍脊椎や腹腔神経叢などの体内深部を除く)が硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔と異なります。上肢の手術ではブロック単独で行われることもありますが、複数のブロックを組み合わせたり、全身麻酔と併用されることは少なくありません。


適応

 末梢神経ブロックには実はさまざまな方法があります。痛みの緩和、交感神経ブロックによる血流改善のために行うなど、手術以外にペインクリニック領域でも行われます。手術時は局所麻酔薬を使用しますが、慢性痛に対する治療では熱凝固法や神経破壊薬なども使われます。ペインクリニックでは、胸背部の帯状疱疹後神経痛や肋間神経痛では肋間神経ブロック、肩関節周囲炎では腕神経叢ブロック、顔面神経麻痺に対する星状神経節ブロックなどが行われます。手術麻酔では、上肢や肩の手術では腕神経叢ブロック、下肢の手術では大腿神経ブロックや坐骨神経ブロック、腹部には腹横筋膜面ブロックや腰方形筋ブロック、腹直筋鞘ブロック、胸部では肋間神経ブロックやPECSブロックなどさまざまな方法が行われています。また、経尿道的膀胱切除術(TUR-Bt)では術中の電気刺激による大腿の内転を防ぐために脊髄くも膜下麻酔の上、閉鎖神経ブロックを追加することがあります(この場合鎮痛目的ではなく運動神経麻痺による不動目的)。


 今回の連載では手術時を想定した説明をしていきます。


方法

 末梢神経ブロック処置時の感覚異常のサインと神経損傷の関係性が高いことがわかっているため、処置中に患者さんの感覚異常に気づけるよう意識下もしくは軽度の鎮静下で行われます。穿刺方法には解剖学的ランドマーク法(目印となる骨や動脈、筋肉等を触知して探す方法)、電気刺激法、エコーガイド法などがあります。エコーガイド法ではブロックの成功率や鎮痛効果が上がり、処置時間が短縮すると言われています。


 手術室では基本的にエコーガイド下で行われますが、電気刺激を併用することもあります。今回はエコーガイド下穿刺を中心に説明していきます。


①エコーで穿刺部位を確認し、穿刺の準備する
患者さんのブロックする側の体側に施行者(医師)が立ち、患者さんを挟んで反対側にエコー本体を配置します。エコーで目的とする神経を描出し穿刺のイメージを行った後、ブロックの皮膚穿刺部位と周辺を消毒し滅菌布をかけます。


②ブロック針の準備(局所麻酔薬や神経刺激装置含む)
事前にブロック針には延長チューブと局所麻酔薬を吸ったシリンジを繋いでおきます。ブロック針は針先が鈍になっており、直接神経を障害しないようになっています。また、四肢の神経の同定を容易にするため、電気刺激を行う場合は電気刺激専用のブロック針と神経刺激装置が必要になります。


③エコープローベを滅菌プローベカバーに挿入する
穿刺は清潔操作で行いますので、介助者(医師もしくは看護師)はエコープローベを施行者が持つ滅菌プローベカバーに不潔野から挿入します。


④局所皮下浸潤麻酔を行う
皮膚穿刺部位に23-27G程度の細い針で局所皮下浸潤麻酔を行い、エコーガイド下にブロック針を刺入していきます。


⑤エコーで確認しながら穿刺し、薬液を注入する
エコーで針先を描出しながら目的の神経周囲まで針を進めた後、シリンジの吸引試験で血液や髄液の逆流などがないことを確認し、局所麻酔薬を注入していきます。注入時に抵抗がある場合、神経内注入になっていることがあるので抵抗がない場所に針先を移動し直してから注入します。局所麻酔薬は15-30mL程度必要です。術後長時間の鎮痛目的にカテーテルを留置して、持続注入を行うこともあります。


実施例

四肢のブロックの例として腕神経叢ブロック(図1)、体幹ブロックは腹横筋膜面ブロック(図2)を例示します。


図1 腕神経叢ブロック
腕神経叢の図

斜角筋間アプローチでは前斜角筋と中斜角筋の間に出てくる頸髄神経周囲に薬液を注入します。
このアプローチ法では第5頸髄から第1胸髄神経領域まで鎮痛効果が得られるため、鎖骨遠位、肩、上腕手術に適しています。より下部の脊髄神経支配領域である肘や手首、手指の手術では腋窩からのアプローチが有効です。


図2 腹横筋膜面(Transversus abdominis plane :TAP) ブロック
腹横筋膜面

エコーガイドで下中腋窩線上にアプローチ。第10胸髄から第1腰髄神経領域までの鎮痛効果が得られるため下腹部手術に適しています。図より背中側からの穿刺法(後方アプローチ、腰方形筋ブロック)では第7胸髄レベルまで広がるため臍上から下腹部までの鎮痛効果が得られ、効果持続時間も長くなると言われています。
針は皮膚、皮下、外腹斜筋を通り、内腹斜筋と腹横筋膜の間に薬液注入します(図3)。


図3 腹部の脊髄神経の走行
腹部の脊髄神経の走行

注:図の黄色い線の走行が脊髄神経の走行です。脊髄神経前枝は中腋窩線上で外側皮枝と前皮枝に分岐し、腹壁の神経を支配しています。



使用薬剤と効果時間

 局所麻酔薬には長時間作用性のロピバカイン(0.2-0.5%アナペイン®︎)やレボブピバカイン(0.125-0.5%ポプスカイン®︎)が使用されます(極量はそれぞれ3mg/kg)。単回投与後、単回投与後、効果発現まで15-30分程度、効果持続時間は体幹のブロックでは6-12時間、四肢では12-24時間程度です。局所麻酔薬にデキサメタゾンを添加すると鎮痛効果時間が延長することが知られています。


副作用と合併症

副作用

 ブロックされる領域が限定されるため基本的に循環や呼吸への影響はありません。腕神経叢ブロック(特に斜角筋間アプローチ)ではブロック側の横隔神経麻痺は必発しますので高齢者や呼吸状態の悪い患者さんでは注意が必要です。


合併症

血腫・・・発生は稀です。体表は圧迫止血が可能ですが深部のブロック(傍脊椎や腹腔神経叢ブロックなど)では止血困難になるため施行前に出血傾向の有無を必ず確認します。


感染・・・発生は稀ですが、特にカテーテル留置時や免疫抑制患者さんでは清潔操作に注意します。


神経障害・・・針による直接的な神経損傷や薬剤性障害は稀に起こりえます。数日から数週間、感覚鈍麻や痺れが残ることもあります。1/1000例程度。


局所麻酔薬中毒・・・他の局所麻酔法に比べ発症リスクは高くなります。中枢神経毒性(痙攣、呼吸停止)と心血管系毒性(不整脈、心停止)の症状に分かれますが、血中濃度が上昇するにつれ初発症状では金属様の味覚、口唇の痺れ、めまい、多弁などが見られ、興奮状態(頻脈、高血圧)から抑制状態(徐脈、痙攣、呼吸停止、心停止)へと進展します。詳細な病態や治療などは第3回局所浸潤麻酔の連載をご参照ください。


その他・・・穿刺部位により気胸や腹腔内穿刺など。


観察項目と看護のポイント

ブロック前
 末梢静脈路の確保、標準モニター(心電図、血圧計、パルスオキシメータ)の装着を行います。


ブロック中
 施行時は清潔野の医師の指示でエコーや神経刺激装置の操作、局所麻酔薬の注入など依頼されることがあるかもしれません。末梢神経ブロックの効果や合併症の知識に加え、処置自体の勉強もある程度行っておくといざというときに安全かつスムーズな介助が可能になります。処置中は、エコー画面や処置に医師は集中しているため、患者さんの監視は看護師に委ねられます。基本的に患者さんは意識がある状態ですので、処置の状況や今後の流れなどを説明しながら不安軽減に努め、会話の中で意識状態や表情の変化など局所麻酔薬中毒の初期症状にも注意しながら看視をします。医師も処置をしながら患者さんの感覚異常の有無を確認しますが、何かあれば伝えてもらうよう事前に患者さんに説明しておきましょう。


ブロック中・後
 局所麻酔薬の使用量が多くなるため、他の局所麻酔法に比べ中毒の発生に注意しなければなりません。薬の極量の把握はもちろんのこと、皆さんが医師に薬液注入を頼まれた場合、血管内注入を避けるため必ず注入前ごとに血液が引けないか吸引確認し、その旨を医師に伝えてから毎回注入しましょう。術後回復室で急に興奮しだしたり、口唇の痺れの訴えが出たら、即座に局所麻酔薬中毒を疑うくらい警戒して接していきたいものです。四肢のブロック後、多くの場合には痺れや感覚鈍麻、筋力低下が残っている状態で手術室から病棟に申し送ることになります。麻酔以外にも手術操作やターニケット(四肢を血圧の2倍以上の圧で駆血して出血しない状態で手術を行えるようにする器具)による影響かもしれませんが、術後経過を慎重に見ていくよう継続看護の視点は重要です。


参考文献

●Alan J.R. Macfarlane, Richard Brull and Vincent W.S. Chan:Chapter 18 Peripheral Nerve Blocks.Basics of Anesthesia 7th Edition.Elsevier,2017,303-320.
●吉田奏:周麻酔期の手術看護.宮坂勝之,監.日総研出版,2015.


その他、麻酔に関する記事はこちら
第1回 麻酔総論|全身麻酔と局所麻酔
第2回 全身麻酔の看護|使用する薬剤の種類、方法、副作用・合併症、観察項目
第3回 局所浸潤麻酔|使用する薬剤の種類、実施方法、副作用と合併症、観察項目
第4回 脊髄くも膜下麻酔(腰椎麻酔、脊椎麻酔)|適応・禁忌、使用薬剤、方法・手順、看護のポイント
第5回 硬膜外麻酔|適応と禁忌、実施方法、使用薬剤、副作用と合併症


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