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【連載】麻酔を極めよう!

第2回 全身麻酔の看護|使用する薬剤の種類、方法、副作用・合併症、観察項目

  • 公開日: 2021/2/11

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全身麻酔とは

 全身麻酔は「痛み刺激によっても覚醒しない薬剤性の意識消失」と定義されますが1)、薬によって手術侵襲による精神的および身体的な有害作用を防ぎ手術に適した状態をつくり出すことと捉えることもできます2)


 全身麻酔の3つの要素として鎮静、鎮痛、筋弛緩があります。鎮静は意識を消失させることで、患者さんの手術中の不快な思いや記憶をなくします。鎮痛は痛みを軽減することで、手術中の適切な麻酔深度(麻酔の深さ、鎮静と鎮痛を掛け合わせた考え方)を保ち、手術刺激が加わっても患者さんが覚醒したり血圧の急激な上昇など有害反射が起きないようにします。筋弛緩は骨格筋を弛緩させ、気管挿管時の喉頭展開(喉頭鏡をかけて声門を視る操作)を容易にし、全身の不動化や良好な手術視野の確保を目的とします。


全身麻酔で使用する薬剤と作用機序

 全身麻酔では鎮静薬(全身麻酔薬)、鎮痛薬、筋弛緩薬などそれぞれの目的に合わせた薬を組み合わせて使います。


表1 全身麻酔で使用する薬剤の特徴

鎮静薬
・静脈麻酔薬 鎮静作用のみ
・吸入麻酔薬 鎮静作用に加え、筋弛緩作用、気管支拡張作用がある。笑気を除き鎮痛作用はほとんどない
副作用:循環抑制(血圧低下、徐脈)や呼吸抑制
鎮痛薬
・麻薬(オピオイド) 強力な鎮痛作用(術中、術後)
副作用:悪心嘔吐、呼吸抑制、傾眠、掻痒感、尿閉、便秘など
・非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDS)やアセトアミノフェン 術後鎮痛目的に使用。麻薬と共に術中や術後に投与される。NSAIDSは抗炎症作用を持つ
筋弛緩薬
筋肉を弛緩させる
副作用:効果遷延による誤嚥、呼吸抑制など


鎮静薬(全身麻酔薬)

 全身麻酔薬は、静脈に直接投与する静脈麻酔薬と肺から静脈(肺静脈)に投与する吸入麻酔薬に分けられますが、どちらも脳に作用します。脳の至る所に分布しているGABAA(γ-アミノ酪酸A)受容体に作用し大脳皮質や覚醒中枢(橋や中脳などに存在)を抑制することで意識を失わせると言われています3)。副作用として循環抑制(血圧低下、徐脈)や呼吸抑制が起こります。


静脈麻酔薬

 プロポフォールが最も頻用される薬剤です。鎮静作用のみで鎮痛や筋弛緩作用はありません。麻酔の導入や維持にも用いられ、維持はシリンジポンプで持続投与を行います。導入後の麻酔維持は吸入麻酔薬で行うこともあります。投与中止後は早い覚醒が得られますので、長時間手術であっても比較的短時間で覚醒します。投与時に血管痛が起きることが多く、予防として太い静脈路の選択や投薬前のリドカインやフェンタニルなどの鎮痛薬投与が有効です。制吐作用を持つため術後の悪心・嘔吐の発生率を低下させます。


 バルビツール酸(チオペンタール、チアラミール)は麻酔導入薬で使用されることもありますが、蓄積作用があるため麻酔維持薬としては使用しません。


 レミマゾラムは超短時間作用性のベンゾジアゼピン系麻酔薬で、日本で開発され2020年に発売が開始された全身麻酔薬です。麻酔導入と維持に使用されシリンジポンプで持続投与します。投与中止後は早い覚醒が得られ、拮抗薬のフルマゼニルが存在することも特徴的です。


吸入麻酔薬

 吸入麻酔薬には鎮静作用に加え、筋弛緩作用、気管支拡張作用があります、鎮痛効果はほとんどありません。吸入麻酔薬では後述する悪性高熱症のリスクがあります。


 セボフルランは、甘い匂いで気道への刺激性が弱いため、マスク吸入による麻酔導入も可能で、麻酔導入前に静脈ライン確保をするのが困難な小児患者で多く用いられます。導入が迅速で覚醒も速やかです。


 デスフルランは、気道刺激性が強く咳嗽や喉頭痙攣のリスクがあるため麻酔導入には用いず、麻酔の維持で使われます。覚醒が非常に速やかなのが特徴で、高齢者や肥満、長時間手術などでの覚醒遅延や上気道閉塞のリスクが高い患者さんなどに頻用されます。


鎮痛薬

 レミフェンタニルやフェンタニルなどの麻薬(オピオイド)、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDS)、アセトアミノフェン、局所麻酔薬などが用いられます。麻薬は、主に脳や脊髄のμ(ミュー)オピオイド受容体に作用して強力な鎮痛効果を示す一方、呼吸抑制(特に呼吸数低下)や術後悪心・嘔吐などの副作用もあるため、麻薬以外の鎮痛薬も組み合わせ麻薬の必要量を減らします。手術によっては全身麻酔に加え硬膜外麻酔や局所浸潤麻酔を併用することもあります。


 レミフェンタニルは単回投与では効果持続時間が極端に短いため持続投与でのみ使用されます。手術中は高濃度で持続投与可能ですが、持続投与中止後は急速に効果が消失するため術後鎮痛には使えません。


 フェンタニルは、麻酔導入時や手術中の鎮痛として用いるほか術後鎮痛目的でも使用されます。作用持続時間は短いです。


 モルヒネは長時間の鎮痛効果があるため主に術後鎮痛に使用されます。腎機能低下症例での作用遷延やヒスタミン遊離作用による喘息発作に注意が必要です。


筋弛緩薬

 主に非脱分極性筋弛緩薬であるロクロニウムを使用します。神経筋接合部に作用して効果を発揮します。麻酔覚醒時の拮抗薬(リバース薬)としてワゴスチグミンやスガマデクスを用います。術後の筋弛緩効果遷延では誤嚥や呼吸抑制のリスクとなるため注意します。脱分極性筋弛緩薬のサクシニルコリンは悪性高熱症のトリガーにもなります。


全身麻酔の方法

1.100%酸素を吸入、低酸素血症を防ぐ

 麻酔の導入前には100%酸素をしっかり吸入してもらい患者さんの肺内の窒素を酸素に置き換えます(前酸素化)。これにより、麻酔導入後の呼吸停止からマスク換気や気管挿管が完了するまでの低酸素血症の発症を遅らせられます。


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